111話 名案?
ホルムデヒドから解放され、新たな人生の門出に静かに胸を躍らせるミゼアとゼセットに、茂みに避難して居た爺さん達が安全を確認し近付いてくる。
「ホルムデヒドを倒したのなら、早いところ街に向かって進行をしている連中を止めてはくれんか? このまま放置していたら島の者達は皆殺しにされてしまう」
首を失ったホルムデヒドの身体をじっと見つめていたゼセットが、爺さんの方へと体を向けて正対した。
「わかっている。すぐにこの島で暴れている連中にホルムデヒドが敗北した事を伝えて、作戦を中止させる。それでいいな?」
「もちろんじゃ。早いところ頼むぞ」
「今この島を襲っている連中の半数は私達と同じ境遇の奴らばかりだから、そいつ等はすぐに大人しくなるさ」
「じゃあもう半数は倒さなぐちゃいげないんだな?」
「そいう事だな。だが安心しろ、連中の大半は雑魚だ。俺一人でもすぐに片付けてやる」
何やら勝手に話を進めておるが、俺とメルトの約束はホルムデヒドを始末するというものだ。
雑魚処理は契約外だ。
よって雑魚処理はゼセットに任せる事にするが、一つだけ訂正して置かなければならない事がある。
「雑魚の始末はゼセットに任せるとするが、敵は皆殺しにする事だな」
「「皆殺しだと!?」」
俺の発言に信じられないと驚きを隠せずにいるゼセット達。
ゼセットはすぐに眼を吊り上げ反抗的な態度で反論してくる。
「お前は俺達の話を聞いていなかったのか。今この島を襲っている連中の大半は強要されて仕方なく従っている連中なんだぞ。話し合えば分かり合える者達を殺せだと?」
「そうさ、何も殺す必要なんてないじゃないか」
やはりこいつ等は何も分かっていないな。
「では、殺さずにクルセの元に帰してどうなる? その大半の連中の体にも先程までのお前たち同様、クルセの束印が刻まれておるのだろう? なら連中を生かして置けばクルセに今回の件が筒抜けになってしまうではないか。そうなれば少なからずお前達も不味いのではないか? それにこの島だって下手したらすぐにでもクルセの新たな部下が攻め入って来るかもしれんぞ?」
悔しそうに拳を握り締め、唇を噛み締めるゼセットはやはり甘い。
爺さんやメルトもこの島がまた直ぐに襲われるかもしれないと知り、険しい表情で俯いてしまった。
そんな中、タコルがアホな事を口にする。
「なら、その連中にもお前の呪印を刻んでやればいいんじゃないのか?」
タコルの提案を聞き、全身に込められていた力がスーっと抜け、脱力感から安堵の溜息を漏らしたミゼアが顔を向けてくる。
「そうだよ、あんたならみんなをクルセの呪縛から解放できるじゃないか!」
皆一斉に期待の眼差しを俺に注いで注目しているのだが、そんな面倒な事をして俺に何の得があるというのだ?
あの呪印は魔力を大量に消耗するからしんどいのだ。
ミゼアの話によればホルムデヒドが連れてきた部下は百ほどいるというではないか、その半数に呪印を施す何て実に面倒だ。
そんな暇があるのなら、一刻も早くミゼアとハッスルしたいのだ。
上手い事言って断ってやろうとしたのだが、俺の返答を待たずにゼセットとミゼアは期待に胸を膨らませ、コウモリのような翼を肥大化させては羽ばたかせ、飛び去ってしまった。
「え? ……人の話は最後まで聞けよ」
すっかり暗くなり月明かりに照らされた闇空に吸い込まれるように小さくなっていく二人を、呆然と見上げながら溢れた愚痴は、湿った森の空気に溶けていった。
「オイラの名案のお陰で無事にすべて解決だな」
何がオイラのお陰だ、偉そうに二本の触手で腕組みなんぞしやがって。
このタコが余計なこと言うからミゼア達が意気揚々と飛んで行ってしまったではないか。
相変わらずの疫病タコ全開だな。
瞼を薄らと落としタコを睨みつけてやると、キョトンとした顔をしたかと思えばすぐにハッと顔を輝かせ、鼻なんてない癖に鼻高々としてやがる。
「礼なら気にするなよ。お前は頭が悪いからオイラみたいな頭の切れるタコがサポートしてやらねぇとな」
「…………」
俺はボールを蹴り飛ばすようにタコを街の方面へ向けて蹴り飛ばしてやった。
「――うわあああああああっ! ――何すんだてめえええぇぇぇぇ!」
コンコンコンとピンボールの如く木々にぶつかっては遠ざかるタコルは、情けない残響だけを置き去りにして消えてしまった。
「タコルは足が速いだな」
「ホホホホっ。元気がいいのは良いことじゃよ」
「あんなタコはほって置いて、俺達も街に戻るとするぞ」
暗がりの森の中、月明かりだけを頼りに森を歩き、街へと戻るため移動を開始した。
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