106話 反逆
ホルムデヒドは俺たちを一睨し、ミゼアとゼセットに顔を向けると薄気味悪く微笑んでいる。
「何を敵と仲良く話し込んでいるんです! こちらに来なさい!」
ミゼアとゼセットは俯きホルムデヒドの指示に従い歩み寄ると、ホルムデヒドは表情を一変させ怒号を上げながら杖を振り上げた。
「私は皆殺しにしろと言ったはずですよ! 誰が仲良く話をしろなんて言った!」
何一つ抵抗することなく、ホルムデヒドの振るう杖を顔面で受けるゼセットは血に染まっていく。
殴られる弟の横で俯き、怒りに肩を震わせるミゼアはただじっと耐えているだけだ。
二人はクルセに刻まれたという束印の所為でホルムデヒドに逆らえないのか?
何度も何度も無抵抗のまま殴られるゼセットが堪らず片膝を突き、悔しさに拳を握りしめている。
気が済むまでゼセットを殴り続けたホルムデヒドがミゼアに近づき、尻に手を回しミゼアの髪を掻き上げては、真っ青な舌を伸ばして首筋を舐めやがった!
ミゼアは顔を背け、無表情で感情を押し殺している。
感情を押し殺すミゼアとは違い、俺の表情は怒りに満ちていただろう!
人のモノを触った挙句舐め回しやがって、絶対に許せん!
見せつけるようにミゼアを舐めまわすホルムデヒドへの怒りが頂点に達し、俺は右足を上げ地面を踏みつけると、大地はひび割れ森は大きく揺れ、止まり木で羽を休める鳥たちが一斉に飛び去った。
ホルムデヒドはそんな俺を小馬鹿にするように鼻で笑ってやがる。
「なんだ羨ましいのか人間? 私のおもちゃが欲しいのか?」
高笑いをするホルムデヒドがミゼアは自分のモノだと勘違い発言している。
「勘違いするな。その女は俺のモノだ! 気安く触れるな!」
俺の言葉を聞いたホルムデヒドが一瞬止まり、また直ぐに耳障りな笑い声を森中に響かせている。
「俺のモノだと? 馬鹿なのですか? この女は偉大なるクルセ様より私が頂いた私のペットなんですよ!」
「過去などどうでもいい! その女は先ほど確かに俺のモノになったのだ! 気色の悪い男では満足できんから俺の女になりたいと進言してきたのだ! そうだなミゼア?」
ミゼアは顔をこちらに向け固まってしまっている。
恐らく束印の恐怖に縛られ本音が言えないのだろう、なんと可哀想な女だ!
「それに先ほどミゼアと濃厚な口づけを交わしたばかりなのだ! ミゼアは貴方じゃなきゃダメなのと俺の首に手を回し、何度も自ら唇を重ね微笑んでおったわ。今のミゼアを見ろ、死んだ魚のような目をしているではないか!」
ホルムデヒドは目を背けるミゼアの顔を見ると、体から手を離し汚い歯茎を剥き出しにしてミゼアの頬を殴りつけ、ミゼアは堪らず尻餅をついてしまった。
「男の嫉妬ほど見苦しいものはないの~ホルムデヒドよ! ミゼアは可愛く囁いておったぞ! 俺の側室になりたいと、今晩抱いてって! お前のような雑魚ではこれっぽっちも興奮せんのだと! ひょっとしてお前……下手くそな上にミニマムなんじゃないのか、ハハハハ」
俺は天に向かい高らかに嘲笑い返してやったわ!
これがポルドから教わった、嘘八百を並べた心理戦じゃ!
俺はあらゆる戦法を学習しておるのだ!
ホルムデヒドは俺の言葉を間に受けて、怒り狂った猿のようだ!
「殺してやる! ききき貴様は絶対に楽には殺さんぞ! ゼセット! あの人間を殺せ! 今すぐ殺せ!」
「楽には殺さんと言ったり、今すぐ殺せと言ったり、恥ずかしさのあまり混乱しておるのか? お前の股間のようにお前自身小さい奴じゃな!」
怒りで震えるホルムデヒドが膝を突くゼセットを急かしていると、俺の背後にいる三匹もここぞとばかりに言いたい放題言い始めた。
「股間を大きぐする股間ダケというキノコがあんだが、お前いるが?」
「聞いてやるなよ! いるに決まってるだろ! 恥ずかしさで震えてるじゃないか」
「察してやるのも優しさじゃよ、メルト」
俺の背後で顔を見合わせた三匹は、二ターっと最高にいやらしい笑を浮かべて腹を抱えて笑っている。
島を襲われた事に余程怒りが溜まっていたのだろう。
ホルムデヒドは持っていた黄金の杖を投げ捨て、ゼセットだけではなくミゼアにも命令を出している。
「ミゼア! お前もアイツ等をゼセットと二人で協力して八つ裂きにするのだ! いいな!」
ゆっくりと立ち上がったミゼアとゼセットが俺に向かい合っているが、ミゼアは申し訳なさそうに目線を外している。
ゼセットは相変わらず眉間にシワを寄せているが、俺への怒りより後ろのホルムデヒドへの怒りの方が強そうだな!
向き合う二人に俺は一言だけ言ってやる。
「クルセの奴隷と俺の奴隷、どっちがいい?」
「…………っえ?」
「何を訳のわからん事を言っている?」
俺は二人に向き合ったまま手を広げ、両掌に魔法陣を創り上げた。
「汝ら、古の契約の名のもと、魂の契をここに誓い、我アルトロ=メイル=マーディアルと繋がり、我を汝らの主と認め付き従うことを魂に刻みつけよ!」
掌に黒く輝く魔法陣が更に輝きを強めると、風が吹き荒れ木々がざわつき、掌から夕焼け空に伸びる二本の柱が強大な魔力の塊として出現した。
「な、なんだそれは!?」
驚き後ずさりするホルムデヒドとは違い、ミゼアとゼセットは何かを悟ったのか、薄らと微笑んでいる。
「は、早く奴を殺しなさい!」
自分では何もできないのか、臆病者のホルムデヒドが身振り手振り大げさに二人に指示を出している。
俺は両手を広げたまま二人に歩み寄ると、二人もそっとこちらに向かって歩き出し、ミゼアもゼセットもただじっと俺の顔を見つめている。
「どうやら、クロムを探し出す必要はなかったようだな」
「コイツの下に就くのは癪だが、クルセやあの糞よりは幾分マシだ」
二人と向き合った俺は二人の気持ちを確かめようとしたが、どうやらその必要はいらないみたいだな。
「背をこちらに向けよ」
指示に従い膝を突いて背を向けた二人の背中に、俺は掌の魔法陣を押し付けた。
「呪印!」
二人の背中が黒い輝きを放つと、掌を押し当てた箇所の衣服が張り裂け、黒い煙を上げて黒き呪印が背に刻まれていく。
俺は掌を退けて、二人の背に刻まれた刻印を確認して声を掛けた。
「終わったぞ」
二人はゆっくりと立ち上がり俺に視線を向けてくるので、俺はもう大丈夫だと頷き応えてやる。
すると二人の表情が一変し、その体から怒りと憎しみの魔気を放出させながら、ホルムデヒドを睨みつけている。
ホルムデヒドはまだ状況が飲み込めていないようで、ミゼアとゼセットを怒鳴りつけている。
「な、何をしている! 早くそいつを殺せ! 私の命令に逆らう気か!」
悪態をつくように口の中に溜まっていた血をペッと吐き出すゼセット。
「黙れ! 俺が殺したいのはお前だ!」
「好き放題やってくれたんだ! 楽に死ねると思うなよホルムデヒド!」
「お前たちには束印が刻まれていることを忘れたのか?」
偉そうに二人を指差す理解力のないホルムデヒドに教えてやるか!
「その束印はもう無効だ!」
「そんな訳あるか! この二人に刻まれた束印はクルセ様自らが刻まれたものだ! お前のような人間に解けるはずがない!」
「解いてなどいない! 束印よりも強力な呪印で上書きしてやっただけだ! 俺がこの二人に掛けたのは、ただの呪いだ!」
「……呪いだと!?」
ようやく理解したのか、奴の鼓動が早まる音が今にも聞こえてきそうだな。
「さて、俺のミゼアを弄んでくれた代償は、本人とその弟に任せるとするか!」
長きに渡り支配され続けた二人の怒りが、ついに反逆の狼煙を上げるのだ!
さぁ、思う存分復讐するといい!
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