105話 セ・ラバソ
ポーションを取りに行ったメルトが戻ってきて、タコルもアルマジロ爺さんもポーションを飲み元気になり、俺はポーションをミゼアに手渡した。
ミゼアがポーションを受け取るとタコルたちは慌ててミゼアから距離を取り、遠くから様子を伺っている。
ミゼアはポーションの入った小瓶をゆっくりと弟に飲ませている。
最初は苦しそうに噎せた弟くんだったが、すぐにポーションが効いたのか、全て飲み干すとゆっくり立ち上がり、俺を睨みつけている。
「落ち着くんだゼセット! コイツは敵じゃない」
今にも再び襲いかかりそうな程の殺気を撒き散らす弟に、透かさず姉のミゼアが声をかけて宥めている。
「さ、さっきの修行は良かったであろう?」
「修行だと?」
目を細め俺を睨んでくるが、俺だけが悪いのではないであろう!
謝りたくないから必殺逆ギレを使ってやるか!
「お前だって俺の友達を痛めつけてくれたではないか! それにお前は俺を氷像にしたではないか! お前も悪いのだ! いやむしろお前が悪い!」
「逆ギレか? それより、クロム=エトワールについて知っていることを教えろ! それでチャラにしてやる!」
なんでそんなに俺の前世を知りたがるんだ?
「クロムの事を知ってどうするんだ?」
「貴様には関係ないことだ!」
「では教えん!」
「なんだと! ふざけるなよ貴様!」
弟ゼセットが一歩前に踏み出そうとするのを見て、不味いと思ったのかミゼアが透かさず俺と弟の間に割って入り、事情を説明し始めた。
「まぁ待てゼセット! 話してやるくらい別にいいだろ?」
弟ゼセットはフンっと顔を背け嫌そうにしているが、クロムは俺なのだから事情が分からなければどの道どうする事もできないのだ。
最もミゼアとゼセットがその事実を知りはしないのだが。
嫌そうにするゼセットの態度を見て、嘆息するミゼアは俺に向き合い話し始めた。
「私たち姉弟はクルセ=クレリバに故郷を奪われ、束印を刻まれたのだ――」
ミゼアは二人の過去と宿敵クルセについて、拳を震わせながら悔しそうに語ってくれた。
ミゼアたちが生まれ育ったのは魔大陸にあるセ・ラバソと呼ばれる村だった。
村の周囲は荒れ果てた荒野に囲まれ、お世辞にも裕福な村ではなかったと言う。
村は100人程のデビム族が暮らし、貧しくてもそれなりに幸せに暮らしていたという。
ところが今から300年前、新魔王の座に就いたクルセ=クレリバが力のある部下を求め、セ・ラバソへやって来た。
クルセはセ・ラバソのデビム族を自身の配下にしようとしたのだが、村一番の戦士だったミゼアたちの父が、クルセの部下になることを拒んだのだ。
部下になることを拒まれたクルセは怒り、ミゼアの父だけではなく村の住民たちの大半を殺したのだ。
生き残った僅かなデビム族たちは、奴隷などに用意られる束印を体に刻まれたのだという。
以降300年、ミゼアたちはクルセの戦闘奴隷として自由を奪われたのだ。
家族と自由を奪われたミゼアたちの憎しみは消えることなく、今も復讐の機会を待っているのだ。
しかし、クルセは魔王にまでなった強者だ。
ミゼアやゼセットでは到底敵うはずもない、そこでミゼアたちはクルセに匹敵する者を差し向けようと画策したのだ。
一番最初に思いついたのは、領土問題で揉めていた魔王ネルネをクルセにぶつけることだった。
二人の願いが届いたのか、200年以上に渡り睨み合いを続けた二人がついに戦争を開始しようとしていたのだが、ここで予期せぬ事実を知ってしまったという。
魔王ネルネの部下はクルセの十分の一しかいないということ。
このままではネルネが敗北し復讐と自由を勝ち取る事が難しいと考えていた時、この島でキノコ牛の口からクロムの名を聞き、ネルネとクロムを同時にクルセにぶつけることを思いついたという。
二人はムルセ襲撃のどさくさに紛れて、クロムの名を口にしたというタコと一緒に居た俺を探しだし、話を聞こうとしていたらしい。
「そのクルセとか言う奴は酷いやづだな!」
「あんたらも被害者だったのかい」
先程までミゼアたちから遠ざかっていたはずの三匹が、何食わぬ顔で座り込み話を聞いているが、タコルだけは気まずそうに流し目で俺をチラ見している。
目を細めタコルを睨みつけると、また吹けもしない口笛を吹こうとしている。
タコルにはクロムの事は他言するなと言ったはずなのに、ベラベラと喋りやがって!
しかしミゼアたちの目的が俺とクルセを戦わせることだとしたら、非常にめんどくさい。
それにコイツ等はネルネの実力を勘違いしている。
ネルネの部下の数とクルセの部下の数に差があると言っていたが、今この島に襲って来ている連中がクルセの部下の一部なら、間違いなくそんな連中役には立たないだろう。
なので俺が出るまでもなく、ネルネに任せていれば遅かれ早かれクルセとかいう新参者は死ぬことになるだろう。
話を終えたミゼアはスっと俺の目を見つめている。
「アルトロだったな? クロムについて知っていることを教えてくれ」
「こちらは話しただろう! お前も知っている事をさっさと話せ!」
相変わらず弟のゼセットは威圧的に腕を組んで俺に敵意剥き出しだな。
しかし教えろと言われてもな、俺がクロムだと言ったところで信じないだろうし、困ったな。
どうしたもんかと考えていると、コツコツと森の中から音が聞こえ、甲高い声に趣味の悪い杖を突いた男が茂みの奥から姿を現した。
「一体そこで何をしているのですか? 私はこの島の者を皆殺しにしろと言ったはずですよ?」
男の声に皆一斉に茂みに顔を向けると、座っていた三匹は透かさず立ち上がり、俺の背後に回り込んで様子を伺っている。
ミゼアは額から流れた汗が顎先に流れると、ゴクリと喉を鳴らし緊張しているのがわかる。
ゼセットは顔を歪め舌打ちをしては、男を睨みつけている。
再びこの場に緊張が走る中、俺は当初の目的を思い出していた。
そう、俺の目的は前方で杖をつく男、ホルムデヒドを殺しメルトに妖精の都へ連れて行ってもらうことだ!
探す手間が省けたのは好都合だ。
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