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小噺  作者: 間宮 要
4/8

8〜10

最近ストレス溜まってるわ

エゴの塊で申し訳ないと思っています


8 あーあ


あーあ。またやっちゃった。

足元のグチャグチャになった人の身体を見る。ちょっとからかうつもりだったのに。あんまり拒むから、ついつい力を入れちゃうんだ。

どうして、私はそんなに怖がられるのだろう?内臓が飛び出た死体を踏み潰す。私だって、君たちと仲良くしたいのに。どうして?

私のこの見た目がダメなの?この一つ目が、この一本脚が、この裂けた口が。これがダメなのかなあ。

私のこの力の強さがダメなの?少しでも力を入れてしまえば、人間はおろか、コンクリート製の壁だって粉々にしてしまう、この力が。やっぱりそれは許容範囲じゃないのかなあ。


じゃあ、私はどうすれば良いの?人間と仲良くしちゃダメなの?私は、人のこと大好きなのに。弱いくせに、無駄に人情に厚い人間が好きなのに。何かの為に動くのが大好きな人間が好きなのに。


あーあ。私はダメね。私はこの姿をしている以上は、人から好かれることなんてない。どれだけ良いことをしても、きっと無理。目に入れたくないものは、どんなに些細なことでも、ほんの一瞬でも、入れたくないものね。見ちゃったら、吐き気が込み上げてくるもの。

あーあ。私は生きている意味なんかあるの?私が、本当は力も無くて、容姿も本当はただの人と同じだなんて知っても、嫌われるでしょ。だって、元はと言えば普通の姿なのに嫌われて、こんな、妖怪みたいな姿になっちゃったのだから。

あーあ。私をこんな姿にした人間が憎い。好きだけど、憎い。よく分からない気持ち。こんな気持ちになる一生なんて、もう、終わってしまえばいいのに。


願いを聞いてくれる人がいるなら、聞いてほしい。来世があるなら、そこでは綺麗に過ごせますようにと。



9 猫


猫の背中を撫でる。毛並みの整った、美しく滑らかな背中。どうして、私みたいな人の手も、受け入れてくれるのだろう。不思議なくらい自然に、私の手は猫の背をすり抜けた。

私は、何の未練があるのだろう?この世なんて嫌いだから、さっさと去ることができて、せいせいしていたくらいなのに。どうして残っちゃったんだろう?

ニャーン

猫が、私の目を見つめる。この子には私が見えるのね。可愛いから、頭を撫でる。そしたら、猫ちゃんはそっと目を閉じて、なんとも気持ち良さそうに力を抜いた。

ああ、なんてゆっくりとしているのだろう。

私が欲しかったのは、こういうことなのかもしれない。だとしたら、きっと心配せずともじきに成仏できるであろう。


10 失ったもの


雨が降っている。ポツポツと弾けるような音が心地良い。キャンバスに乗せる筆が、それに合わせて踊る。もっと、もっとって、先走っている。どこまでも、どこまでも深い所まで行けるような気がした。


「できました」

先生に完成した絵を見せる。そうしたら、先生はどうしてか泣いてしまった。もう七十栽にもなってしわだらけになったおじいちゃん先生の顔が、もっとしわくちゃになる。どうしたらいいか分からず、オロオロとしていると、

「出展しよう。大きなところに、この作品を」

え?


よく分からないまま、私の絵は世界的に有名なものになった。そして私も、どうやら色々な人に期待されるようになったそうだ。


ある時、パーティーに行かないかと、先生から誘いを受けた。そのパーティーというのは、世界的に有名な画家が集まる、なにやら凄いものらしい。よく分からないけど、パーティーなんて楽しそう。参加したいと先生に言った。


パーティーは楽しかった。華やかで、煌びやかなドレスを着た女の人、ピシッとしたスーツなんかを着た男の人。そんな人たちが、シャンデリアの灯りが煌々と光る広い部屋の中で、立ち話をしながら食事をしたり、ワインを飲んだりしていた。私も、真っ白なドレスを着て、パーティーの空気を味わった。眩しすぎるくらいに輝いていた空間に取り残されそうなくらい、気持ちが高ぶっていた。

そんな中、ある老紳士が先生のところにやってきて、こんなことを言っていたのを覚えている。

「いや〜、あの少女の絵は素晴らしい。同じ日本人として、とても誇りに思いますよ。あの子は、あなたが育てたのですか?いや、長年の甲斐がありましたな」

先生はどうやら褒められていたみたい。先生が褒められているところを見ると、私も嬉しくなる。いつも、的確にアドバイスをくれた先生。筆を持っていたのは私だけだったけれど、一緒になって描いてくれていた。先生には、いっぱい感謝してる。だから、嬉しい。

その老紳士は、急に、先生に何か耳打ちをした。内緒の話でもしているのだろう。それが終わったら、二人で笑って、お互いにお辞儀をしていた。

パーティーはその後も、煌びやかな空気を保ったままだった。私も、色々な人と喋ったりした。少し緊張はしたけれど、みんな親切だったからちゃんと会話を愉しめた。

(良かった、置いてかれてない)

凄い人たちのパーティーも、ちゃんと愉しめた。また、いつか参加したいなって、ちょっと思った。



パーティーが終わってから、一週間くらい経った時だった。先生が、私に絵のリクエストをしてきた。今まで挑戦したことのない、抽象画。それを描いてみてほしい、というものだった。

「思ったことを、思ったように描けばいい」

そう言われて、筆をのせてみた。この間のパーティーのような、キラキラとした感情。それを思い浮かべていると、スイスイと筆は走り出した。



「うん。今回も素晴らしいな。これも、凄い人に見てもらおう」

先生は嬉しそうに鼻を鳴らして、私の頭を撫でてくれた。シワシワの手が温かくて、嬉しかった。


また、リクエストがきた。今度は滝の写真を見せられて、それを描いてほしいというものだった。

これも、上手く描けた。筆はサラサラと走ったし、描いてて気持ちが良かった。それに、風景画は好きだったから、いつか実物を見たいなっていう気持ちを込めながら、楽しく描けた。

そしたら、また、「ありがとう。よく描けたね」って、先生は頭を撫でてくれた。嬉しかった。


そうしたら、またリクエストがきた。そしてまた描いて、褒められた。

またリクエストがきた。そしてまた描いて、褒められた。

またきた。また描いた。褒められた。またきた。また描いた。褒められた。嬉しい。また。また。また。

リクエストがきて、それをこなせば、どうやら私の名前は、どんどん大きくなっていった。よく分からないまま、大きくなっていった。ただ、私にはそれがどの位大きいのかなんて分からなかった。


また、リクエストがきた。自画像を描いてほしい。と。

鏡を見た。私が映っている。顔を一通り眺めて、真っ白なキャンバスに筆を……あれ?

描けない。これっぽっちも、イメージが湧かない。

(嘘だ)

もう一度鏡を見る。ちゃんと見れば、ちゃんと描ける。きっとそうだ。そうじゃなきゃダメなんだ。

(あれ……?)

鏡に映っていたのは、真っ白なキャンバス。何もない、真っ白な私だった。

外は雨が降っているようだ。心地よかったはずのあの音は、筆が踊るはずのあの音は、もう、私を突き動かしてはくれなかった。何とも思わなくなってしまった。筆は、私の手の中から滑り落ちた。そして、今になって、心の底に眠っていたものが、目を覚まして牙を剥いた。

私は、ただ泣くことしかできなかった。


8は今までで一番考えてほしい

9は隠れ批判

10は大事なことに目を向けてほしいという私のエゴ

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