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魔法少女、呆然とする。

 不良幹部が、モンスター化した?

 わたしは呆然とする。


 突然の事態に動けず、わたしとプリティは、丘の下から、その巨大生物を見上げた。


 身の丈は長身のドエースと比べても、三倍ぐらいはあるから……軽く5メートル以上はあるんじゃないの?

 おおよそ人型はしているけど、全身トゲトゲした凶悪なデザインに変わってる。

 真っ黒な装甲を着込んだような。

 しかも、痩せぎすの男の何がどうなったのか、全体的にレスラーのように筋肉太りしていて、手足もぶっとくなっているのがどうにもおかしい。

 いったい、質量保存の法則はどこいった。

 悪人顔でも鋭角で整った顔立ちだった不良男だが、その顔も、人とは思えないような仮面をつけているので表情がよく分からないし。


 ようするに、あれだ。

 特撮ヒーローものの、敵みたいな格好になってしまっているのだ。



 ……そんなことを。

 わたしが呆然として丘の下で思ってたりする間にも、丘の上では巨大モンスター(不良男) と、ドエースの戦いが勃発していた。


 ドエースはアンティークなライフル銃を構え、続けざまの発砲。

 ……チン、チチンッ!!

 着弾の音はしたものの、黒のトゲトゲ装甲が硬いのか、ぜんぜん効いてないみたいだ。

 不良男モンスターは、玩具を前にした子供のように、ドエースを捕まえようと両手を伸ばすのに忙しい。

「チッ、秘術もろくに込められないとこんなものか」


 言い捨てざま、彼は続けて銃剣突撃。

 俊敏な猫科の獣を思わせるしなやかな動きで、巨大モンスターの手をかい潜り、突撃する勢いを使って突き刺す。

 

 すると、獣じみた声が上がった。

「グギャウッ!」

「多少は効いたか……!?」

 ああ、ドエースそれはいけない、フラグです。


「グルルガァッ!!」

 お怒りの不良男モンスターは、両手をぶんぶんと振り回す。

 変身前も、人の事を傷つけるのは大好きなくせに、自分が傷つけられると、もの凄い怒りまくる奴だったもん。

 それが大きくなったら、余計に被害が増すよね。

 丘の草原の一部は、奴の平手に削られたみたいに禿げ山になってる。

 あああ、わたしの大事な思いでの場所がぁ……。


 思わずため息が出ちゃうよ。


「それにしても、わたしも、普段あんな事してるのかぁ……」

 丘の上を見上げながら呟く。魔法少女と巨大モンスターの格闘戦。いつものお約束的展開なんだけども。


 丘を揺るがす不良男……いや、巨大モンスターと、俊敏に敵の攻撃をかい潜り、立ち向かうドエースの体捌きときたら……。

 一種芸術の域というか、曲芸じみている。


 あんな事毎回やってて、よく死なないよね我ながら。


「そうだな、そうなのだが……。あの威力を前にすると、正直ご主人をあの場に行かせるのは、戸惑うな」

 ううむ、と、腕を組んで隣でうなるプリティ。


 今も不良男モンスターは、丘の一部を破壊してます。順調に、丘の上が禿げ山化していってるよ、うわあ。

 ここ、領民もデートスポットに使ってるんですけど。

 景観破壊、やめてくれませんかねぇ。


「はあ、イヤな事に、不良男は大きくなって動きが鈍るかと思えば、素早いし。その上で巨体なぶん威力は増してそうだから、すっごいやだよねぇ……」


 あの達人級格闘術を、巨大なモンスターに食らったら、ぷちっとやられちゃうよね。

 散々不良男に踏まれたわたしが言うんだから、間違いないよ。


 奴と互角以上にやりあってた、ドエースでさえも攻めあぐねてるようだし……ただの虚仮威しの巨大化だったら良かったんだけどねぇ、普通に強いよね。


「はあ、やんなっちゃう……」

 丘の上の、特撮ヒーロー的バリバリ格闘シーンを見ると、自分の実力不足を感じてしまう。

 わたしも、魔法少女格闘を一年がんばってきたけど、彼らと比べたらお遊戯レベルだし。


「やっぱり、要修行だねぇ……」

 素人格闘はそろそろ卒業の時期のようだ。


 今回はドエースの好意もあって、悪の幹部同士の戦闘なんてイレギュラーが起こってるけど、本来わたしが奴を倒さないとならないんだもん。


 まじめに急務だよ。



 はあ、気が進まないし、勝てる算段も全くないんだけど、とりあえず頑張ろう……。

 わたしは丘の斜面を重い足取りで登りはじめた。


 魔法少女的お約束で、とりあえず死なない安全安心なセーフティが効いてくれることを祈ろう。

 絶対のピンチに、新必殺技が生えても、いいんだよ?


「しかし、人間入りのモンスターかぁ……」

 今まで、モンスとは散々戦ってきたし、何処からともなくでっかいものが生えてくること自体は、今更ってやつなんだけど。

 結社の謎パワーってことで。


 でも実は、魔法少女的セオリーといいますか。

 恋人達から謎パワーを得て……個別のものとして仕立てられた「別物」 と戦ってきたもので。

 わたしって、人間が核になったモンスターとは、直接戦ったことないんだよね。


 いや、分かってるんだよ?

 こんなでかいのほっといたら、どんだけ害があるのよって話だし、周辺が壊滅したら領主のお父様が心労とさらなるハードワークで心身共に死にかねないし。

 魔法少女でありお父様の娘でもあるわたしが、あのでかくて巨大なのを、責任もって倒すしかないってことは。


 ……でも、ねえ。

 ちょっと人間ベースのモンスターに、トドメを刺せ、とか……。

 心理的ハードル、ものっすごく高くないかな!?



 丘の半ばで振り返ると、遠くにはわたしの家が見える。瀟洒な館ではまだ、混乱が続いていることだろう。

 現世のわたしが住まう家、わたしの帰る場所。

 あそこもこの丘のように蹂躙されてしまったらと思うと、ぞっとする。


 ……そこでふと、わたしは現実に返った。

「ああ、そうだ。こんな事してる場合じゃないんだよ、わたしは!!」

 思わず頭を抱える。


 今すぐにでも家に帰って、お母様の騒動の収拾をしなきゃなんないのに、敵の戦闘力がわたしの戦闘力を越えてインフレしてくるとか……。


「もうこれって、ただの嫌がらせじゃない!?」



 本当に、どうしてくれようか……。不良男め、許すまじだよ!!

 憤懣やるかたないわたしの心の叫びに、プリティは同情のまなざしを向けてくる。

 余計傷つくからやめてくれないかな!


「えーいもう、破れかぶれだ!!」

 わたしはさらなる覚悟を決め、丘の上へと走った。

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