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魔法少女、恋心に揺れる。

 丘の上では二人の男が殺意を孕んだ眼差しを向け戦い。


 丘の下では、恋愛脳な魔法少女が、使い魔に正気に戻れと怒られている。


 ……現状は、なかなかのカオスである。



 わたしの婚約破棄事件から、一年とちょっと。

 同じ日にプリティによって力を授けられ覚醒したから、魔法少女活動も一年を越える。

 そんなわたしだが、今はすっごいすっごい、ドキドキしている。

 胸躍り世界が輝いて見えるような。

 全てが幸せに満ちているような。

 そんな幸福感が、心の中に満ちているのだ。


 うん、わたしあれだね、恋してるね。

 さすがに自覚するよ!

 そのせいかな、ドエースが倍増しで格好よく見えるんですけど。


 そういえば今更だけど、この世界にも銃があるんだね。

 随分と旧式っぽいけど、形も動作も同じってことは、火薬とかもあるのかな。いや、大砲とかは前世でもかなり昔からあったっていうし、中世風世界にあってもおかしくないのか。

 薔薇や蔦の絡む意匠の銃を構える姿も、格好いいね。まあ、今ならドエースだったらどんな格好しててもなんかいい、とか思いそうな気がするけど!

 恋ってすごいね、いろんな意味で最強だ。


「ご主人、正気に戻るのだー!!」

 草原に乙女座りして指なんか組んでうっとりしてるわたしの肩を、ゆっさゆっさと揺らす美少年型マスコット。


 まあ、そう慌てない慌てない。

 わたしもちょっと尋常じゃなく浮かれてた自覚はあるけども、別に正気を失った訳じゃないよ。

 本当だよ?


 そうして、わたしの王子様(?) ドエースの勇姿を存分に堪能した後。


「……ふう、久しぶりに充実したわ! さて、仕事仕事っと!!」

 乙女心が潤ったら、現実に戻らなきゃ。

 わたしはすっくと立ち上がると、怪我や不調がないかその場で軽くストレッチしながら確認。

 よしよし、少し休憩したからか、体力的にも問題なさそうだね。うん、これならいけそうかな?

 あ、あの不良男の大鎌は、回収しておいて、と。


「ご、ご主人?」

「なあに、プリティ」

「なにやら正気に戻ったようだが……あれの応援をせずとも、良いのか?」

 おそるおそるといった風情で声を掛けてくるプリティに、わたしは笑って。


「あはは、恋は恋、仕事は仕事だよ。わたしは伯爵家の、カリスマなお父様とお母様の子だよ? 今日だって帰ったらお母様の暴走を止めて、お父様と連絡して今後の事を考えなきゃならない。でも、人生に潤いも必要でしょ?」

 そう言いながら、わたしは横に数メートルほど歩いて、斜面に転がってる不良男の大鎌を回収する。

 うわ、なにこれすっごい重いんですけど?


 何の気なしにいつもの通り振る舞ってみせるけど、正気に戻れと言ってた、当のプリティの表情は冴えない。

「……そう、我の言葉に従い無理せずとも、よいのだぞ?」

 本当に、わがマスコットは気遣い屋さんだなぁ。

 そんなに落ち込まなくてもいいのに。でも仕方ない、彼が気にするようなら、少しばかりわたしの気持ちを打ち明けとこうか。


 うんしょ、と重い大鎌を引きずりながら、わたしはとりとめもない言葉を零す。


「ドエースはさ、まあ、わたしにとってあこがれのアイドルみたいなものだよ……あ、こっちだと人気の役者さんとかの方がわかりやすい?」

「アイドルでも分かるぞ。神がそういった分野も好んでいたからな」

「ああ、そうなの?」

 流石はサブカル趣味神様、アイドル文化までご存じとは歪みない。


「じゃあ適当に。好きな役者さんとかアイドルの演技見て歌聴いてきゃあ素敵、って喜んで、舞台とか見に行って生の演技見て、ああすごい格好よかったーってはしゃいで……気持ちが上がって」

 ただただ、好きっていう感情、それだけで盛り上がれる感じはかなり似てるんじゃないかな。

 ただ、すごく身近にそんな存在があったって、それだけで。

 ……ふう、しかしこの大鎌本気で重いんだけど、こんなのよく振れるなぁ。そりゃあの不良幹部に勝てないわけだよ。


「そういう、日々の潤い補給みたいなね。彼はそういう存在なの。居てくれるだけで嬉しい、顔見れるだけで嬉しい……そういう人。結ばれるなんて思ってないなぁ、だって、そんな選択わたしにはないもの」

「ご、主人……」


 かわいい顔を曇らすプリティ。何をそんなに不安がってるんだろう。

 わたしはわたしだよ?

 面倒くさくて手の掛かる、貴族の娘だってことは、散々説明したのにね。

 もうこの世界で過ごした時間も長いんだし、わたしは変わらないし、変われないんだよ。




 そんな、しんみりした空気が丘の下で漂っている頃。

 丘の上での戦いは益々すごい事になってる。

 いつの間にか銃の先にナイフをマウントして……銃剣、って言うんだっけか……近接格闘に持ち込んでるドエースも凄いけど、片手を負傷してる筈の不良男の動きも負けてない。

 両者の長い足や手が凶器のように縦横無尽に相手の弱点へと襲いかかる。それをぎりぎりのところで避け、相手へカウンターの一撃を仕掛ける。

 わたし的には上級者の戦い過ぎて、何が起こってるのかよく分からないんですけど?


 そんな両者の(学ぼうにもまったく参考にならない) 動きを観察しながら、わたしはどうにか無事に大鎌を運び終わり、とりあえずプリティにその凶器を預けておくことにする。

 プリティもそれの危険性を理解してか、固い表情でそれを受け取って見せた。……あ、プリティもなにげに普通に持てるんだね、おとこのこだ。


「傷の具合は大丈夫? わたしは上に戻って、とりあえずはドエースと一緒に、あの不良男の事制圧してくるけど」

 あんな殺人鬼、魔法少女的にも世間の乙女たちの為にも、ほっとく訳にいかないし。

「あ、ああ……。ご主人が側にいて我に力を授けてくれたから、ほぼ傷は塞がった。が……あの、場所に行くのか?」

 プリティはあきらかに不安そうな顔で、丘の上とわたしを交互に見る。

 まあ、その不安は分かる。


「あー、うん。うっかり乱入するとドエースの足引っ張りそうだよねえ……どうしよ、う!?」


 ドッカン! という、派手な炸裂音が上がる。

 わたしはビクリと肩を竦め、音がした方を見る。

 ドエースの射撃の音にしては、不良男がいた付近に上がる、もくもくとたちのぼる煙の意味がわからない。


「え、なに、なんなの!?」

 ああ、本当に困るよ。わたしはいつものお約束の中でなら魔法少女的に強気で振る舞えるけど、あの不良男が出てきてからは、全く展開が読めないんだもの。


「な、なんだ?」

 わたしもだが、プリティも赤い目を大きく見開いて、驚いている。


 ほんとに、戦隊ものとか幹部戦のセオリーなんて、ぜんぜんわたし知らないし。

 いきあたりばったりって、すっごい苦手なんですけれど!?



「……そこまでして力を得たかったのか。自らの身を怪物に堕としてまでもか……見損なったよ、ギャン・グー!!」

 丘の上では珍しく、ドエースが声を張り上げていた。

 彼は何か、この展開に思い当たるものがあるのだろうか。


 そんな、おそらくは熱い展開についていけず、丘の下から状況を見守るしかないわたし。

 やがてゆらりと、黒煙の中から巨大なものが立ち上がった。


 ……それは、いつものようなファンシーな女児向けではなく。

 トゲトゲで角張ってて男の子が喜びそうな感じの、まさに男児向けな。


「え、あれってもしかして、あの不良男……なの!?」


 どこかしら不良男の面影を残す、おどろおどろしい造形の、巨大なモンスターであった。

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