魔法少女、悪の結社幹部に踏まれる。
説明回です。続きは明日朝までに見直してアップします。
なんてことだ。
不良幹部に踏みつけられ、痛みに震えながらもわたしはショックを受けていた。
……ビッチヒロイン怪人を操り、貴公子を籠絡して『ブレイクハート』 とかいう、謎のパワーを集める結社と、それに対抗する魔法少女。
物語の骨子はそんなもので、わたしの理解も、物語の表に出てくる部分だけふんわりと覚えているだけの、不確かなもので。
そんな部分が。
秘密結社の行動目的こそが、この物語の核心だった、なんて。
秘密結社こそがこの世界の秘密を知っているというのに、前世のわたしは結社の設定にほぼノータッチだ。
つまりは。
原作者の一人のくせに、この世界を知っていたつもりで、何も知らなかった、という、とんでもなく役立たずな人間ということになるよね。
本当に、なんてことだ!!
ああ、わたしったらバカ。少しは結社の設定も興味を持って見ていたらよかったのに。
でも、後悔ばかりしてはいられない。
現実は残酷で、わたしは強敵を前に敗北寸前の有様だ。
わたしを既に手中に納めた気で、乙女をなぶるのを楽しむゲス野郎に肩口を踏みつけられながら……。
ニタニタと笑いプリティを口撃する不良男の声を聞いていた。
「……どうせ、次の「スペア」 は、決まってんだろーに。それに、乙女の『霊質』 を捧げて魔法を獲得するのは、いにしえの秘術そのままだ」
「邪法士が、戯れ言を……!! 主を、我の大事な人を、愚弄するでない!」
いまだ怪我が癒えないプリティが、丘の下でうめく。
そんなプリティの心情を逆撫でするように、ツンツンと戯れめいて大鎌の先でわたしの周囲を突っついて遊んでる悪趣味男は哄笑し。
「ハア? 天界に住んでるだけあって、神の使いも頭があったかいのかね? こんなイケニエごときを、主ぃ? 大事な人だぁ? 笑わせんなよ。コイツの「代わり」 なんてゴマンといんのによ」
鼻で笑ってわたしを馬鹿にしたように「ハッ」 と笑う男。
「こんなゴミクズでも、俺が活用してやってやろうっていうのに止めんなよ。全く優しいだろ? 俺ってさぁ」
そうしてまた、大鎌をわたしの皮膚ギリギリを狙い振り下ろす。
「……なぜ我はこんなにも無力なのだ!! 我が、ご主人を救えるだけの力があればよいのに!」
男の暴虐に手出し出来ず、丘の下で蒼白の美少年は真っ白な手を地面に叩きつけて嘆く。
だがそれは無理なことなのだ。彼はあくまでサポート役。
わたしのかわいいマスコット、なのだから。
「まぁそう嘆くなよ。神の持つ知識の一端でも知れるならば、こいつのゴミ同然の命ですら多少は価値を持つんだぜ。この俺の、偉大なる魔法使いの血肉にな!! 有効活用だよ、有効活用!! 大事な資源として、役立たずの命を使って差し上げようっての!!」
本気で不思議そうに殺人のどこが悪いと、むしろ慈善だと。
狂った男はプリティに……男いわく「神の使い」 に言い募る。
「それによぉ。神は何でだかオンナにてんで甘くて、天上の奇跡を恋したオンナへホイホイ与えっからな。『霊質』 の回収は、結社の最上命令だ」
それは、ニタリと不気味に笑い。
「初恋に揺れる乙女心、気障男に恋なんかしちゃってる今がこの不要物の殺しどきなんだ。最高の『霊質』 の獲得チャンスなんだぜ? 殺るしかねぇだろが!!」
男は哄笑する。
霊質……アイテールと、そう聞こえる不思議な「もの」 が欲しいから、神に「それ」 を贈られる恋した女の子を――殺す、と?
そう、本気で言っているの? この狂った男は。
わたしは男の歪んだ笑みを見上げながら、呆然とする。
「あの気障男みてぇに、オンナにショックを与えて、昇華する恋情を獲得して、なんて甘ぇ手段取ってたら何年経っても集まんねぇし。かつて世に満ちそして取り上げられた、魔法の源を、『霊質』 を!! 効率よく集める為なら、恋する女をバンバン殺して回る方が確実に決まってら!」
このいかれた男は、わたしだけでなく、女の子を殺戮して回るんだと得意げに言う。
……こいつ、いったいなんなの。
こんないかれた男を飼ってる結社なんて、マトモだとは到底思えないよ。
ヒロイン怪人をぶつけて、男を籠絡し。「ブレイクハート」 を集めてる秘密結社。
けれどそいつは道化で。
魔法少女には必ず倒されるちゃちな、ずさんな計画しか出来ないまぬけな敵役で。
物語を彩るため、わたしこと魔法少女に倒される為だけに存在するものだと思ってた、コミカルな敵役は……実は、こんな冷酷極まる殺人鬼の巣窟だったのだろうか?
わたしの会いたい、彼も――ドエースも。
そうだというの?
ぞっと身を竦ませるわたしを踏みつけたまま、男は得意げに語る。
「昔、神は人から神秘を取り上げた。それが歴史の断絶の始まりだ」
ここからはまるで未知の世界、未知の設定だ。
「たった数百年前には、人々は翼ある魔法の乗り物で宙を飛び、この世界の隅々までを一日や二日そこらで往復したという。世界の隅々にまで魔法は届き、人々は空間も無視して飛び交い言葉を伝えあい、呪文一つで火を扱い、光を扱い……そして敵を、爆発の呪文一つで蹂躙した」
不良男の言うそれが夢物語でないなら、まるで前世でいうあれだ。「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」 ……だっけ? クラーク先生のお言葉の示すように、数百年前に消えたという魔法文明は、高度に技術発展した文明だったのだろう。
「大体よぉ。神秘派が断絶した過去の記録を解明したとして、魔法が復活したところで、だ。数百年前に戻るだけだろ? 何の問題があんだ」
大鎌を手にした男は、陰惨な笑みを浮かべ。
「こいつはよぉ。俺に一つ魔法を授けてくれる俺のイケニエちゃんだ。だから、まああのクソ野郎に恋心なんて抱いていても、有効活用してやんだよ。俺は優しい偉大な魔法使いだからなぁ」
わたしは涙の膜が張った目で、男の顔を見上げる。
ぼんやりと映る男の鋭角なその顔は、明らかな愉悦で彩られていた。
驚く程の誇大妄想だ。
ヘタな厨ニ病より酷い。こいつの妄想が実現したら一夜で世界が滅んでもおかしくないもの。
本気でぞっとするんだけど。
こんなのがいる世界じゃあ、神が悲観して「魔法」 を取り上げるのも分かる気がするよ。
「黙れっ、邪法士っ! 人の死を己が欲で汚すなっ」
「おお、怖い怖い。でもよぉ、あのクソ紳士ぶった甘ちゃんのオンナの命は俺が掴んじまったからなぁ。こいつの資質は神の使いが命を掛ける程度には高いみてぇだし、復活する「魔法」 が何なのか、ホンットに楽しみだ!」
皮膚をかすめるように落ちる大鎌の刃はわたしの精神を削っていく。
わたしの唇はわたしの意志にかかわらず動いた。「たすけて」 と。
わたしは彼を……いつも肝心のところで現れ、わたしを絶望から掬い上げるずるい青年の事を思う。
結社の幹部でも、使用人でもいい。
いつものように……あざといぐらいに鮮やかに、わたしを絶望から救い出して。
「そうして下らねぇ恋心なんていうモンを始末して、オンナの死を積み上げ、英知を獲得していけば! 世界は数百年前のように、俺の意志一つで敵を邪魔な奴を国を一瞬で消し飛ばせる愉快な世界に戻る!! ――戻すんだよ、俺が!!」
……そしてわたしに、狂人の大鎌が振り落とされ。
ダァン!!
――それと前後するかのように一発の銃声が、丘の上に響きわたった。




