ハッピーエンド
だけど、潤んだ目でこちらをぼんやりと眺めてくるだけで、全く嫌がりもしない相川を見ていると、浩一がこの話を切り出せるのなんか、今日の今しかないような気がした。
ヘタレだと呼んでもらっていい。
告白だとか全くしたことがないんだ。っていうか、男女のお付き合いというものをしたことがない。
付き合って欲しいと思った相手もいなかったのだから、告白なんて、したこともない。
自分自身がそんなことをすることを想像したことすらないのだ。
その、自分が今しかないと思った。
「相川、付き合ってくれないか?」
――――どこに?
とか、返ってきたらどうしようと思ったが、ちゃんと、理解はしたようだ。
首まで赤くなって、くちをパカッと開けたまんまになった。
まあ、まともに話したのも今日が2度目だし、いきなりすぎだよな。
だけど、好意は感じ取れているので、いいとこいくのではないかと思った。
「いきなりだし、返事は今じゃなくても・・・・・・」
時間をおいてもらった方がいいかと、相川の両手を放して、相川が落ち着くまで待とうと思ったら、いきなり相川に捕まえられた。
「付き合います。付き合ってください!お願いします!」
浩一の手を包み込むには全く足りない両手で、浩一の手を握りしめてきた。
力いっぱい握られている気がする。痛くはないが、相川の手が、真っ白になっていた。
「そうか。じゃあ、よろしく」
そういえば、泣きそうな顔で、相川が笑った。
力を入れすぎの手をゆっくりと解き、さっきまで唇を噛みしめて真っ赤になった唇に親指で触れた。
何か意図があったわけではないのだが……いや、正直に言おう。痛そうだなと思ったことは本当だが、すごくやわらかそうだとも思った。
だから、噛みしめて真っ赤になった唇に触れて、驚いて動きが止まる相川をいいことに・・・・・・自分の唇を重ねた。
かしゃんと、相川の眼鏡が音を立てた。
柔らかく、触れるだけのキスをして、目も閉じないほど驚き切っている相川に笑って手を差し出した。
「じゃ、帰ろうか」
「は・・・、はひっ」
浩一の言葉に、ぎくしゃくと立ち上がった相川が、足をもつれさせて倒れこんでくるので、受け止めた。
そうか、これって。
「ご、ごめんなさ・・・・・・?っ?」
謝る相川を無視して、受け止めたそのままを、腕の中に引き寄せた。
すっぽりと腕に納まる柔らかい体が気持ちいい。
「にっ、西田せんぱっ・・・?」
「うん、もう一回」
「へ?」
見上げてくるその瞳を見てから、おでこにキスを落とし、目を閉じたところで、口にも落とした。
その後の帰り道は、バカバカ言っている真っ赤な相川を眺めながら、次するときは、先に眼鏡を奪おうと企んでいた。




