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前日譚みたいな

読んでも読まなくても、一番最初に読んでも

 その世界では長く争いの時代が続いていた。全てを闇に還さんとする魔王率いる魔族、異形の人外とそれに対抗した人類の争い。

 しかし、その戦いも勇者たちの出現を契機に終わりの時を迎えようとしていた。

 そこは終焉の地、立ち込めた暗雲、どこまでも続く荒野、周りには異形の姿の群れとそれに立ち向かうため、鎧を着こみ、杖をかざし、剣を振るう数多の人の姿。

 そして、大地を埋めんとするほどのおびただしいほどの亡骸の中で天を衝くほどの巨大な闇に差した一閃、姿を保てずその存在は崩壊していく。


「バカな……この私が……ッ! まさか人間なぞに……ま……け……」


 終わりを告げた果て無き闇を統べた者。丘の上、剣を振るった鎧を纏う少女は剣を鞘に仕舞い呟いた。


「……これで、やっと……」


 その言葉を皮切りとするように次々と先程まで猛威を振るっていた異形は皆、塵に還っていく。

 そして、長い戦いの終わりを知らせるかのように雲の隙間から光が差し込み荒野に降り注ぐ。

 砕けた剣と杖、もう還ることは無い亡骸の傍で残った人々は口々に呟く。


「ついに……」「あぁ、やっと……」「これで」


「人類の勝利だ……!」


「「「「「ウオオオオオオオ!」」」」」


 空まで届くような割れんばかりの大歓声が枯れた地面の上に響き渡った。

 青が広がっていく空の下。ある人はある人と抱き合い、ある人は死体を抱え泣いている。

 喜びと悲しみを分け合うそんな人々を剣の少女は丘の上で静かに見ていた。

 そんな少女にもう一人の杖を持った小柄な少女が近づいていく。


「終わった、ね」


「うん、よーやく」


 杖の少女は剣の彼女と同じように丘から人々を眺める。


「皆、嬉しそう、だね」


「うん、だってようやく魔王を倒したんだもん。そりゃー喜ぶよ」


「ユナの言うとおりだぜ、ガキんちょ! 生を喜べるのはいつだって生者の特権なんだからよ!」


 溌剌とした声、それと同時に杖の少女の頭をわしゃわしゃとかき混ぜる大きな手。


「わ……っ、撫でるのは止めろっていつも……生きてた、の」


「生きてたんだ……!」


「おうよ、これも女神様の導きなのかねぇ」


 杖の少女と二倍近い差はあるように見える筋肉の鎧を纏った大柄の隻腕の男。

 何か思うところがあったのか少女の頭をかき混ぜた血だらけの手であごを擦る。


「って、血だらけの手で頭、撫でた、の……いつもいつもデリカシーに、ほんと……」


 杖の少女は憎らし気に大男を見上げ、杖を構えると。


「まーまぁまぁ、せっかく魔王を倒したんだし? たまには多めに見てあげよーよ、ね?」


 ユナと呼ばれた剣の少女が軽やかなステップで両者の間に入り仲裁する。


「むぅ……」


「はっはっ、すまんすまん」


 豪快に笑い飛ばす男、それを杖の少女は睨むも、はぁと大きなため息をつく。


「まぁいいじゃないかそれくらい」


 そこにまた一人、短髪の鎧に身を包んだ凛とした女性。

 だが、鎧はくすみ、大部分が壊れてしまっている。携えている剣もまた鞘ごと途中から欠けている。


「ガハハハッ! あんたも生きてたか!」


「よかった……生きてんだねシショーも」


「どうにかな……まったく、いかんせんなんとも不格好な再会になってしまったな」


「ふふ、格好つかないのはいつものこと、なの」


 疲労しながらもどこかすっきりとした面持ちで笑い合う四人。

 鎧の女性は鎧の土を軽く払いながら歓喜に溢れる人々を眺める。


「本当に終わったのだな……」


「うん……たくさん、皆死んじゃったけど……」


 その光景を見てユナは嬉しさと悲しみが綯い交ぜになったそんな困り笑い作る。


「だ、が! 俺たちは生きてる!」


 そんなユナの頭を大柄の男はまたわしゃわしゃとかき混ぜる。


「わわっ」


「ってまた……」


「アイツらの分まで俺たちも生きてみせんのさ! それが生者が死者に出来る最大限の弔いってもんよ、なぁ、ユナお前はこれから何がしたい」


「私が……」


 大男はユナにそんな問いを投げかける。


「ふふ、初めて見たかもしれないな。そんな貴殿の僧侶らしい姿」


「うるせ」


 鎧の女性は可笑しそうにクスクスと笑うと男はそっぽを向く。


「ていうか、ユナの願いなんて決まってる」


「俺だって知ってるさ、元の世界に戻る、だろ? 俺が言いたいのはその先さ」


「先……私は……」


 ユナは男に言われた言葉を受け止め、自分の本心を確かめる。

 そして、出た願い。


「私は……青春、したい!」


「せい」


「しゅん」


「?」


 首を傾げる三人。


「青春したい。元の世界に戻ってもう一度学校に行きたい。勉強したり部活したり、友達とだべりながらマック食べたり、オシャレしたり……あとは、あとは……恋……とか……」


 まくしたてた少女、やがて恥ずかしくなったのかしどろもどろになる。


「マック? とやらは分からんが、……そうかならやればいいじゃねぇか。これから好きなだけ」


「あぁ、貴殿にはその権利がある」


「うん、ユナは報われる、べき。今までたくさん頑張ってきた」


「みんな……」


 背中を押す三人の励まし、ユナはその目に涙を浮かばせる。


「にしても……まさか恋とは……ちゃんとそういうところもあんじゃねぇか」


「って、茶化さないでよー」


「いいじゃないか、年相応で」


 笑う男に怒るユナ、鎧の女性が微笑む。

 そんな中、杖の少女が何かに気づき上を見上げる。


「む、どうした?」


 鎧の女性は杖の少女に呼びかける。


「うん、……ユナ」


 ユナの名前を呼ぶ杖の少女。


「え、なに?」


「たぶん、……お迎え」


 どこか悲しげな顔で話す杖の少女それと同時に、空に巨大な魔方陣が出来上がる。

 驚きの声が荒野のあちこちで起こる。

 魔方陣から降る光の柱はユナを包み、そして、声が空から降ってくる。


『魔王討ち果たし勇者よ、その比類なき偉業を祝福します。そして、約束通り、死の

 定めであった汝の運命を我が力で覆し、元の世界で再び定命の者として生きれる時を』


「! この声、この規模の魔力の反応……」


「女神様か!」


「本当に元の世界に……」


 驚く二人、光に包まれたユナの身体は宙に浮き、空に吸い込まれていく。


「みんな……」


「そうか……案外また、早い別れになってしまったな。……身体に気をつけてな」


「……これでサヨナラってのも味気ないが、ま、これも女神さまの導きだ。達者でなユナ」


「うん二人とも……元気でね」


 それぞれ無事を気遣う二人にユナは涙ぐむ。そしてユナは杖の少女を見ると俯き、杖を握っていた。

 ぎゅぅっと握られた杖。ユナが呼びかける。


「ラーニャ……?」


 やがて、杖の少女ラーニャは顔を上げる。

 そしてその涙ぐんだ顔をユナに向ける。


「私、絶対会いに行く、から。どんな世界だって、ユナのとこ、必ず。だから、お別れ、じゃない」


「ラーニャ……」


「また、ね。ユナ」


 涙をこぼしながらユナへ笑いかけるラーニャ。


「……うん、うん! またね! ラーニャ! ……皆も!」


 魔方陣へ吸い込まれていくユナ。

 涙を流しつつも笑顔を浮かべながら大きく手を振ると三人が手を振り返す。

 そして、遠くなった三人の周囲の地面を見ると、戦いの傷も癒えない中、こちらに手を振る様々な人々の姿がユナにも見えた。


「皆……またね」


 辺りの空をユナは見る。すると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が見えた。


「他の転移者の子も……もう全然いないや……せめて最後に皆とも話ししたかったな……」


 失ったものは還らない、だからせめて。

 ユナは大柄の僧侶に言われたことを思い出す。


「私、頑張って生きて、青春するよ!」


 そして少女は光の中に吸い込まれて───



◇◇◇



 例年以上の寒波が襲ったため、遅咲きの桜がようやく咲き始めたそんな年の四月の上旬、深夜の頃。とある街の上空に一筋の流星が降った。

 あるものはスマホを掲げ、あるものは気に留めることなく家路を急ぐ。

 そして、とある丘の上の大きな屋敷の一角、小さな明かりを頼りに窓辺で本を読んでいた少年も同様に空を見上げ、一人言葉を零す。


「魔力の反応……? 流星? いや……」


 流星が消えても、少年はただ何もない夜空を見上げていた。


「……」


 それは災いの徴か吉兆の徴か、少なくとも今の少年には図りようもないものだった。

 そして───


「……帰って、きたんだ……」


 意識が戻ることのなかったとある少女が同時刻、同じ街の病室の一室で流星を合図とするかのように目を覚ます。


「……見ててね皆」


 これはとある前日譚、とある少年がとある少女と邂逅する前の僅かな時間の話。

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