7話 昭和16年12月7日その5
ずずぅ~……
羊羹なくなっちゃいました。
もう真珠湾攻撃開始まで、あまり時間は残されていません。
というか、私も開戦を中止させることは、ほぼ諦めました。
「アメリカやイギリスとの戦争が避けられないのであれば、どうせなら真珠湾を徹底的に叩くことをお勧めします」
マレー方面は私が介入しなくても、プリンス・オブ・ウェールズとレパルスは撃沈できるはずだから、マレー方面は当面は放置しておいても大丈夫でしょう。
フィリピン方面も介入しないほうが良い結果になりそうですね。フィリピン攻撃を予定していた台湾の飛行場が濃霧で出撃が遅れたとか、B-17が濃霧で台湾の飛行場を爆撃できなかったとかあったはずだから、ノータッチの方向で行きましょう。
それと、史実では魚雷を蓄えていた弾薬庫がたぶん偶然爆撃されて、南シナ海でアメリカ海軍の潜水艦の活動に影響が出たとかありましたもんね。
もっとも、アメリカ海軍のMk14魚雷はアインシュタインが再設計するまでは、欠陥魚雷だったみたいなので、昭和18年の半ば頃までは潜水艦による被害はあまり出ないはずだから、そこまで影響ないのかも知れないけれども。
「宣戦布告が遅れた瑕疵はあったけど、真珠湾攻撃は成功するのだろ?」
「ですが、不十分でした」
「ふむ? 続けてください」
「真珠湾に空母は不在なんですよ」
エンタープライズはウェーク島からの帰りでハワイ近海いたはずだけど、レキシントンはミッドウェー方面に行っちゃってるんだよなぁ。
もっとも、真珠湾に空母が居たとしても完全に沈没させるのは難しいから、仮に真珠湾で空母を撃沈させたとしても、真珠湾は海底が浅いので簡単にサルベージして、半年もしないうちに戦線復帰していたとは思いますけど。
「桜子さんは、戦艦よりも空母の方が重要だと思っているのかな?」
「空母の艦載機の方が、戦艦の大砲の射程距離の十倍はありますし、命中率も航空機で爆弾や魚雷を命中させる方が大砲よりも上です」
まあ、F6FヘルキャットやVT信管が登場してからは、艦上爆撃機や艦上攻撃機の被害が激増して、搭乗員の補充が追いつかなくなるのですがね。
もっとも、現時点でも搭乗員の数はギリギリしかいないのも問題だと思いますので、飛行機乗りの数を最低でも史実の三倍以上に、できたら五倍に増やさないと、アメリカとの戦争は厳しいでしょうね。
でも、それだけの搭乗員を育てたら、飛行機の数は足りるのかな?
ま、まあ、なんとかなると思っておきましょう。ならなければ、私がなんとかする破目になりそうな気がするけど。
「なるほど…… 大和や武蔵を造るよりも、空母をもっと造った方が良かったのかな?」
「もう造ってしまったモノは仕方ありません。それに、戦艦に使い道がないわけではありませんので」
艦隊決戦が絶対に無いとは限りませんし、戦艦の艦砲射撃に勝る鉄量は航空機では原爆以外ありません。
航空機で戦艦一隻の艦砲射撃と同等の爆撃をしようと思ったら、爆撃機が数百機単位で必要になるのです。そんな大量の爆撃機を一度に用意できるのは、米帝様だけだと思います。
それに戦艦は、空母を守る弾除けにも多少は使えますしね。
まあ、戦艦は速度が遅いので、空母機動部隊に随伴できる戦艦が金剛クラスの四隻しか居ないのが残念ではありますけど。
「戦艦不要論とかも耳にしていたから、戦艦に使い道がなかったら、それこそ鋼鉄の玩具と馬鹿にされてしまうところだったよ」
いや、実際に海軍内部でも、航空主兵論者からは馬鹿にされているはずですよ?
まあ、その航空主兵論者の中にも、戦闘機不要論とかを声高に言っちゃう人たちもいるので、目くそ鼻くそだとは思いますけど。
その戦闘機不要論をぶち上げた連中が、連合艦隊司令長官や一航艦の航空参謀なんて要職に付いているのだから、いかに日本の組織に自浄作用がないということが見て取れるでしょう。
空対空ミサイルが実用化されれば、今度は航空機銃不要論とか出てきそうな気がしますね。
「それよりも、できれば真珠湾の港湾設備と燃料タンクの破壊と、エンタープライズ、レキシントン。この空母二隻の撃沈をしたいところです」
「真珠湾に不在の空母はともかく、南雲は港湾設備と燃料タンクを見逃したのか?」
「どうやら攻撃隊も、地上に剥き出しのタンクは偽装タンクだと勘違いしていたようです」
あと、はじめから攻撃目標に燃料タンクが入ってなかったのかも知れません。
とにかくなにがなんでも、空母と戦艦を沈めることしか頭になかったのでしょう。
このあたりの主力艦撃滅思想、攻撃偏重に偏った戦術が、日本がボロ負けした理由の一つなんでしょう。
アメリカがヨーロッパ戦線の片手間で日本と戦っていたとはいえ、よくもまあ、三年八ヶ月も戦えたものだと思いますね。
まあ、まともに戦えてたのは二年程度でしかなかったけどね。
しかし、みすみす450万バレルの重油を見逃すのは、敵に塩を送るのも同然の行為だと思います。
「ふーむ…… 我が国では、海軍の燃料タンクは地下に埋めているみたいだね」
「石油の一滴、血の一滴ですから。貧乏な無資源国は惨めですよね」
「ははは、違いない…… はぁ~」
自存自衛の為の戦争とはいっても、これからやろうとしている戦争は、居直り強盗と何ら変わらないと思うのは気のせいですかね?
「真珠湾に溜め込んである重油の量は、500万バレルとか言われてます」
「そんなにも?」
五千トンのタンカーで、四十隻か五十隻分でしょうか?
そして、燃料タンクの再建までは、タンカー数隻を常時、真珠湾に縛り付けて置くことができるとも言い換えれます。
「つまり、真珠湾の燃料タンクを燃やせば、アメリカ太平洋艦隊が数か月は行動不能になるという訳です」
「その時間は大きいな」
「そして、ハワイに燃料を運ぶタンカーを潜水艦で襲撃すれば、更に太平洋艦隊の動きを制限させることが可能になります」
でも、日本の潜水艦乗りって、積極的に商船を沈めるのを嫌がる気がしましたね。
これも、主力艦撃滅思想の弊害ということでしょう。
「燃料がなければ、軍艦が動けないのは道理ということか」
「あと、戦艦ばかり狙わずに、巡洋艦や駆逐艦も撃沈してもらいたいところですね」
「巡洋艦や駆逐艦を狙わせる理由は?」
「戦艦や空母は補助艦艇がいなければ、ただの大きな的にすぎません」
日本海軍将兵の悪癖の一つに、大物狙いというのがあったと思います。
艦隊行動というのは巡洋艦や駆逐艦抜きには、まともな艦隊行動はとれないというのを見落としていると思います。
自分たちが艦隊を組む時には、巡洋艦や駆逐艦を随伴させているのにね?
でも、この時代の将兵の価値観では、戦艦>>>空母>>巡洋艦>>駆逐艦なんだろうなぁ。
これも、主力艦撃滅思想の弊害ry
「なるほど、確かに桜子さんの言葉には一理あるね」
「ちなみに、エンタープライズはオアフ島の西方に、レキシントンはミッドウェーとハワイの間の何処かにいる可能性が高いです」
「なんでアメリカの空母はそんなところにいるんだい?」
「航空機輸送ですね」
「真珠湾に空母が不在というのは、そういうことだったのか」
そう考えると、真珠湾攻撃時の日本は運にも見放されていたような気がしますね。
「空母を取り逃がせば、アメリカはヒットアンドアウェイでゲリラ的な遊撃戦を仕掛けてきますよ」
「南鳥島やマーシャル諸島が空襲を受けるということか」
「そうなりますね。それらを防ぐためにも、真珠湾の港湾設備と燃料タンクの破壊に、空母の撃沈が必要なんですよ」
「つまり、それらの内容を纏めて、一航艦に伝えれば良いのだね?」
「できるのであれば」
うん? 南雲機動部隊に追加目標を伝えることができるのであれば、開戦の中止を伝えることも可能だよね?
でも、開戦中止を伝えて殺気立っている現場を混乱させるよりも、目標を追加させるだけであれば容易いということなのかも知れない。
「なんかもう、桜子さんが参謀長をやったほうが上手くいくような気がしてきたよ」
まあ、後知恵というチート知識が使えるのだから、陛下がそう思うのも仕方ないのかも知れません。
でも、私は軍事に関して言えば素人なのだから、机上の空論しか描けないよ。
それに、史実と違う歴史を辿れば齟齬が生じて、私の知っている歴史知識は使えなくなりますしね。
だから私ができることは、精々大雑把な方針と有効そうな兵器開発と、その戦術のアドバイスができる程度でしょうね。
しかし、戦争反対と言いたいのが本音ではあります……




