2話 プロローグその2
「それで食事に関してですけど、人型ボディですので食事を食べられはしますけど、嗜好品みたいなモノですね」
「嗜好品なら余計に美味しい食事が食べたくなるのですけど?」
中世ヨーロッパ的な世界というのは、現代的な美味しい食事を期待できませんので、私が現代の食事が手に入る四次元ポケット的な何かが欲しいと思っても、けして罰は当たらないと思うのですよ。
ほら、何百年も不味い飯を食わされたのなら、確実に発狂する自信がありますので。
というか、三日で発狂するわ。ええ、ほぼ確実に。
「うーん、仕方ありませんね。対価は必要になりますけど、貴女が生きていた世界の品物を買えるようにしてあげましょう」
頼んでみるものですね。やったね! まさしく神様仏様女神様ってヤツですよ。
あ、女神様は本当の神さまでしたね……
「ありがとうございます! ネットで買い物をするような感じでしょうか?」
「ネットで注文する感じだけど、自動販売機のイメージの方が近いと思いますよ」
「なるほど」
つまり、コインを入れたら何もない空間から商品が出てくるのか。
そうなると、品物をしまっておくアイテムボックスも欲しくなるな。
「心配しなくてもアイテムボックスは標準装備になってます。あ、そうか。商品を買ったらアイテムボックスに直接入れるようにするのが良さそうですね」
「アイテムボックスが標準装備とは、さすがは女神様です!」
太っ腹ですね! 惚れてまうやん。
「転生させる世界は、空間収納が使える魔法使いも少数ながら居る世界ですしね。では、設定しますね。ちょちょいのちょいっと」
「簡単に設定で変えられるんですね」
「貴女の身体は私が創ったのですから、設定を弄れるのは当然です」
それってつまり、生殺与奪権を女神様に握られていると言ってるに等しいと思うのですけど…… そこんとこどうなんでしょうかね?
まあ、神さまの目に余るような悪事を働くつもりは無いのだから大丈夫だとは思うけど、なんかもにょるぞ。
「ああ、貴女が下界に降りたら基本的にはノータッチだから、心配しなくても大丈夫よ」
「よかった~」
神はサイコロを振らないってヤツなのかな?
まあ、私という神の眷属を送り込むのだから、サイコロを振っているような気もするけどさ。
「あまりにも目に余るような行いをしたら、お仕置きはしますよ?」
「き、気を付けます……」
意識して率先して悪さをするのは止めておきましょう。
「それよりも、ちょっと脳内でネットスーパーのページに飛んで、商品を選んでからこの金貨を投入してみてちょうだい」
「ええと、コノザマで検索して…… コーラの6本入り398円をポチっとな。って、消費税も取られるんかい!」
「現物は貴女の居た世界のスーパーとかから本物を取り寄せるのだから、消費税を取られるのは仕方ないわよ」
「な、なるほど……」
異世界なのに、なんとも世知辛い気分にさせられたよ。トホホ……
気を取り直して、コインの投入口はこれですね。
「30万って金額が出たんですけど?」
「それが残金ということよ。それは初回サービスにしてあげるから、あとは自分で稼いで前世の商品を買いなさい」
「わかりました。それでは、もう一回ポチっとな」
「アイテムボックス、収納空間を意識してみて下さい」
アイテムボックス、アイテムボックス…… お? ちゃんとコーラがありますね。
このコーラを掴んで外に取り出す感じでいいのかな?
何もない空間に手を突っ込んで引っこ抜くと、持ち手の付いた厚手のビニールに入った6本入りのコーラが出てきました。
なるほど、こうやって取り出すのか。
でもこの方法だと、重たい荷物の場合はちゃんと取り出すことができるのかな?
「重量物の場合は、地面に直接置くような感じで念じればいいのよ」
「なるほど、それもそうでしたね」
「それで、コーラを一本いただけるかしら?」
「あ、どうぞ」
女神様の金貨で買ったのだから、別に遠慮しなくてもいいのに。
でも、こんな感じの神さまの方が親しみが持てるから言わないでおきましょう。
というか、私の思考は女神様には筒抜けでしたか。
「久しぶりに飲むと美味しく感じるわね」
「たまに飲みたくなる味ですよね」
それよりも、コップと氷は何処から出した?
「コップは収納空間からで、氷は魔法で作りました」
「やっぱ神さまって何でもアリなんですね」
「氷ぐらいならば貴女でも簡単に作れるわよ」
え? それってつまり、どういうことだってばよ?
「私も魔法を使えるのですか?」
「貴女の場合は、気化熱で作る感じね」
「魔法じゃなくて、気化熱でですか?」
「脳内で気化熱、氷製造で検索して、ピコマシンに命令してみなさい」
気化熱で氷を作る…… 私のピコマシンさんやい、氷を作ってくださいな。
そうやって手のひらを上に向けて念じていると、空気が揺らいでいるのが見てとれた。
「あ、なんとなく分りました。出来そうな感じがします」
「それがピコマシンボディの能力ということよ」
むむっ! ドライアイスみたいに煙が出てきたぞ。
正確には水蒸気か気化熱なんだろうけど。
「おー! 氷が出来ました!」
気化熱から氷を作ったけど、こりゃ魔法と同じだな。
なるほど。つまり、進んだ科学は魔法と何ら変わりはないってことなのかも知れない。
「ね? 簡単だったでしょ」
「でも、これって魔法と言っても差し支えないですよね?」
「高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかないとか言いますし、名称を考えるのも面倒だから魔法にしときますか」
「私も魔法でいいと思います」
「練習すれば、0.1秒以内に完成できるようになるはずよ」
「やっぱそこは、練習あるのみですか」
「そういうこと。貴女は元人間でアナログ的な思考だから、チートボディとは言っても練習しなければ、宝の持ち腐れということになるわね」
ああ、そういうことか。私の身体はピコマシンで創られたアンドロイドみたいなモノだけど、思考形態は元人間だった頃の思考に引きずられるのだから、この身体の性能を十分に引き出すことが難しいということなのか。
でも、ただ単に与えられたスキルを漠然と使うのか? 考えてスキルを使いこなして自分のモノにするのか? その違いみたいなモノと考えればいいのかも知れない。
「わかりました。精進します」
「ガラスのコップは原材料が無いとさすがに作れないから、コップをあげるわ」
「ありがとうございます」
材料があれば、ガラスのコップも作れるのか。
ピコマシンボディって便利だな。
「あと、異世界に行くにあたって必要と思える物があったら、今のうちに言ってちょうだい」
「氷以外の魔法も練習すれば使えるようになりそうですし、あとは武器と防具に着替えとかでしょうか?」
水蒸気を集めたら水の魔法ができるし、空気を圧縮したら風の魔法。電気を放電したら雷の魔法。磁場を弄って土の魔法。つまり、科学を応用すれば、魔法になると。火の魔法は燃料が必要になるのかな?
でも、うはー! 夢が広がりんぐ!
なるほど、これが元人間のアナログ的な思考というヤツなんだろうなぁ。
私が人工知能のアンドロイドだったら、その時に知っている知識の中で最適な答えを瞬時に導き出せるはずだしね。
「磁場と言えば、反重力を利用して飛翔も可能性があるわよ」
「着地する時に大怪我しそうな気がするのですけど……」
というか、磁力の反発じゃなくて反重力って本当にあるんだ。
「高度一万メートルから落下したとしても、かすり傷一つ負わないわよ」
「それって完全に人間止めてますよね?」
「貴女の身体はピコマシンの集合体ですから。それに心配ならば、着陸時にも重力を制御出来るように練習しなさい」
「が、頑張ります」
「それと、武器や着替えとかは、貴女の収納空間に入れてあるから確認してみて」
そういえば、このアイテムボックスこと収納空間だけは、科学技術では説明が付きそうにない気がするんだよなぁ。
「量子力学や反物質とかで遠い未来では解明されている技術なんだけど、今はそういうモノだと思って使っとけばいいのよ」
「考えるな、感じろというヤツですね」
まるでSFの中の話みたいで、私の頭では理解不能だから考えるのは止めておきましょう。
ピコマシンボディとはいっても知能は前世の私みたいなので、スペックダウンは免れないでしょうし。
それよりも、武器はといいますと、拳銃が二丁ありますね。
「ワルサー?」
取り出した拳銃を眺めてみると、ドイツのワルサーPPかPPK拳銃によく似ている気がします。
いや、ワルサーPPに似ているけど、違う別のナニかですね、これは。
「その拳銃は、レールガンです」
「は?」
「レールガンです。貴女の身体の内部から電力を供給して発射させる仕組みになっています。当たり所によってはドラゴンでも一撃で殺せますよ」
つまり、ドラゴンの鱗すら貫通できる威力ということか。
それで、脳や心臓に命中すれば一撃でドラゴンでも倒せるということですね。
「ドラゴンの強度ってどれくらいなんですか?」
「チタン合金で厚さ100ミリ以上ですね」
アハトアハトだったら、至近距離でタングステンの徹甲弾を使えばギリギリ貫通できるのかな?
75mmだと厳しそうな感じがしますね。
そう考えると、レールガンってしゅごい。
それに、このワルサーもどきのレールガンを空に向けて発砲すれば、地球の重力を振り切って弾丸が宇宙にまで届きそうな気がしますね。
「残念ながら、宇宙には届きませんよ」
「え、そうなの?」
「その拳銃式のレールガンの有効射程距離は、400メートルしかありません」
そっか、それは残念でした。でも、レールガンなのに、なんでそんなに射程距離が短いんだ?
「秒速10kmで射出される弾丸は、すぐ溶け始めてしまうのですよ」
「な、なるほど」
秒速10kmということは、時速3万6千kmということだから、断熱圧縮でとんでもない高温になるということか。
でもそれって、欠陥兵器の気がしないでもない。
もしかしたら、レールガンの発射速度を遅めに調整できるかも知れませんし、色々と試してみることにしましょう。
「モリブデンやタングステンの弾丸ならば、1000メートル以上に射程は伸びますけど実用的ではありませんので、弾丸の材料には安価で気軽に手に入る鉄をお勧めします」
「確か鉄の融点は1500℃ちょっとでしたね」
「金銀はもったいないですし、鉛などは論外ですね」
金と銀は鉄よりも融点が低いのだから、わざわざ弾丸に使う必要はありませんしね。
もしかしたら、異世界にいるであろう吸血鬼やアンデッドの類いには、銀の弾丸が有効かも知れないけど、それはその時にまた考えればいいのだとしておきましょう。
さすがに銀の弾丸を普段使用するのは憚られますし。
「わかりました。素直に鉄にしておきます」
射程距離が短いのは残念だけど、それを差し引いてもレールガンを使えるとか、ピコマシンボディって何でもアリだな。
だから、深く考えるのは止めにしておきましょう。
あと、アイテムボックスに入っているのは…… 着替えにマント、予備の靴に、日本刀?
脇差は短めの小脇差になるかな? 太刀はあまり反りがないけど、へし切長谷部よりは反っているから、義元左文字に近い感じがしますね。
刃長は65cmぐらいだから、私でもギリギリ抜刀できる長さだと思います。
刃長が80cm近くある国宝の童子切や鬼丸とかって鞘から抜けない気がするのですけど、どうやって抜刀していたのでしょうかね?
自分で鞘を落とすか、従者にでも鞘を後ろに下げてもらってたのかな?
それと、長物もありますね。これって薙刀というよりも、どちらかといえば長巻に見えるなぁ。
「それらの刀は、ドラゴンですら一刀両断できる業物ですよ」
「あっはい」
つまり、これらの刀も神器ということでしたか。
「ビームサーベルやヒートサーベルの類いだと思っておけば大丈夫です」
「わかりました」
なるほど、この刀も私から電力を供給して使用するモノでしたか。
鋼鉄もバターのように切断できるとか、恐ろしいな。あまり人前では使えない気がしますね。
「それでは、これで準備はよろしいですか?」
「大丈夫です。お願いします」
まあ、なにか忘れていたとしても、この高性能ボディがあるのだから、なんとかなりそうですし、きっと大丈夫でしょう。
「それじゃあ、送りますね。貴方の次の人生に幸あらんことを願います」
こうして私は女神様の手によって異世界へと転生したのでした。
ところがどっこい!
「む? 突然現れた可愛らしいお嬢さん、君は誰かな?」
「えーと、高性能座敷わらしみたいな感じ?」
「なんとも面妖な」
なんかどこかで見たことがあるようなオジサンが私の目の前に居るのですけど。
「もしかして、貴方は昭和天皇ですか?」
「昭和天皇? 確かに僕は天皇だけど、その言い方は過去形だよね」
「ですよねー」
なんてこったい!
異世界転生だと思ったら、私の目の前に昭和天皇が居るだなんて……
どうしてこうなった?
※※※※※※
「あ、しまった。あの娘に名前を付けてあげるのを忘れてたわ…… まあそのうち、自分で気に入った名前を付けるでしょうから、まあいいか。それよりも、今日こそはUSSRのカードを当てるぞ!」
どこか抜けている女神様なのであった。
悠久の時を生きる神とは、結構大雑把で適当なのである。
USSRってソ連じゃないよ?
女神様はガチャに課金しまくっている模様ですw