21話 追浜飛行場にて その2
現行の零戦二一型に、ハイオクガソリンを入れた評価試験飛行は無事に終わりました。
しかし、まだ評価試験が終わったわけではありません。
テスト飛行の本命は、別の機体にあるのですよ。
その機体はといいますと……
じゃじゃーん!
零式艦上戦闘機五三型(仮)
この五三型のゼロ戦は、エンジンを栄エンジンから金星六二型エンジンに換装した機体なのです。
この機体には当然ながら、五式戦と似たようなタイプの推力式単排気管を装備しています。
なんで、零戦に金星エンジンを積んだ機体があるのかというと、先日、こんなやり取りがあったのです。
※※※※※※
「陛下、零戦のエンジンを金星に換装すべきです」
「いま零戦に積んでいるエンジンは、栄だったかな?」
「はい、栄エンジンだと馬力向上の限界値が低いので、これから例え改良型の零戦が作られたとしても、零戦の性能向上も微々たるモノになるかと」
「そういえば、零戦の後継機を完成させられなかったのが、桜子さんの歴史で負けた要因の一つだったね」
ちゃんと勉強しているようでなによりです。
零戦を設計した堀越技師も、零戦に金星を搭載しなかったことを悔やんでいたようですし、金星エンジン搭載の零戦はアリだと思います。
「そうですね。そこで、新型機までの繋ぎとして、金星エンジンを載せた零戦改を試作してみようかと思い立った次第であります」
「確かに栄に比べて金星のほうが馬力は上だったね」
「金星エンジンだと、2000馬力は無理だとしても1700馬力程度までは、性能の向上が見込まれます」
「なるほど。じゃあ手配しておくから、差配は桜子さんが音頭を取って試作してみてね」
「え? 私が音頭を取るのですか?」
「言い出しっぺの法則ってヤツだよ。頑張ってね!」
おぅふ…… そうきましたか。
でも、航空機の設計ノウハウなんて私にはありませんよ?
困った時の神頼みならぬ、サポートAI頼みといきますか。
『ピコちゃん助けてー!』
『お任せください』
※※※※※※
こうして、ピコちゃんに操られた私は、零戦二一型の設計図を引き直すことになったのです。
改良を加える箇所をピコちゃんがサササっと修正していくのを、私はただ単に眺めているだけのお仕事ですね。
ピコちゃんが優秀すぎて、私の存在価値が絶賛低下中であります。
まあ、楽でいいですけど。
それで、零戦の青焼きを見た感想を一言で言えば、中身スカスカの虚弱体質といった感じでした。
素人の私が見ても、降下速度に制限を掛けなければいけなかったのが理解できるというものです。
こんなにもスカスカだったら、そりゃ空中分解もするよなぁ。
それで、この仮称、零戦五三型の試作機には、空技廠の技術屋もノリノリで協力してくれました。技術屋さんって改造とか改良って好きそうだもんね。
だから、私もノリノリで技術屋連中の尻を蹴飛ばして、大急ぎで二一型から改造させたのです。
エンジン載せ替えの他にも、主翼の強度を補強したり防弾ガラスや操縦席後部に厚さ8mmの防弾鋼板を二枚設置。その二枚の間にゴムシートを入れて、燃料タンクは防弾タンクと自動消火装置などを装備として追加しました。
ついでに、雑音が酷くて使えないと不評であった、無線機のアース取り付け位置の修正も……
主翼の折り畳み部分も、二一型のたった50cmしか折り畳めない構造を改めて、主翼と補助翼を改造して翼端から180cmで折り畳める構造にしました。
そのついでに、零戦の弱点の一つでもある、高速での飛行時に補助翼の効きが悪くなるのも多少改善しておきました。完全に改善させてしまうと、今度は逆に零戦の強みでもある低速時の機動性が悪くなってしまいますので、痛し痒しなんですよね。
主翼を折り畳めば、全幅は8.4メートルにまで縮めることが出来るようになりました。二一型の11メートルとは雲泥の差ですね。
折り畳み可動部分も鋭角に折り畳めますので、折り畳んで上を向いた主翼の高さも気になりません。
主翼の翼端は現行の丸みを帯びた形状から、史実の零戦三二型みたいにスパッと切り落とした形にしました。主翼の長さは三二型と違って、12メートルのままだけどね。
スパッと切り落としたといっても、P-51みたいに前から後ろへと斜めに切り落とした感じにしました。さすがに角は少し丸くしてあるけど。だから、P-51ムスタングよりもどちらかというと、四式戦疾風の翼端に近いのかも知れません。
でも、この方が航空力学的に優れていると、ピコちゃんが言ってました。
だけどその分、主翼は折り畳み機構も含めて、ほとんど一から作り直したようなモノになってしまったよ。
さらに、紫電改でお馴染みの自動空戦フラップも取り付けました。これで、空戦時に失う高度が少なくて済むようになるので、敵機に対して優位な位置を占める確率が上がりますので、生存率も高まるという寸法です。
自動空戦フラップは一見すると、単純なローテクっぽいのにハイテクな装置だと思いますね。
この改造のおかげで、自重は二一型の1754kgから380kgも増えて、2130kgまで重くなってしまいました。
しかし、エンジンの馬力が栄一二型の離昇馬力940馬力に比べて、金星六二型エンジンは、1560馬力もあるのです。
全備重量も二一型の2421kgに比べて、零戦五三型の全備重量は2950kgと500kg以上も重くなってしまい、翼面荷重も二一型の107.9kg/㎡から131.5kg/㎡にまで増えてしまいました。
これは武装を変更した分の重量が含まれているからです。
二一型の武装は、翼内に20mm機銃二丁と機首に7.7mm機銃二丁でしたけど、零戦改こと五三型は、12.7mm機銃を六丁装備しているのです!
機首に二丁、翼内に四丁の配置ですね。ピコちゃんがやってくれました。
携行弾数は機首が各200発で、翼内が各250発づつの、合計で1400発の弾数になります。
アメリカ軍機とまでは行かなくても、以前の日本軍機と比べたら、かなり重武装になったと思いますね。
『12.7mm機銃八丁とか浪漫だよね~』
とか私が言ったら、ピコちゃんが、
『ゼロ戦の機体に八丁は無理ですけど、六丁ならば可能ですよ』
『でも、零戦に金星エンジンだと機首に12.7mmは無理そうじゃない? 史実でも装備してないのが証拠なんだしさ』
『金星エンジンと同じハ112-Ⅱを積んだ五式戦が機首に20mmを装備していますので、ちょっと弄れば12.7mmなら簡単に装備できますよ』
そうピコちゃんが言ってくれたので、それならばとお願いしてみました。
ピコちゃんが有能すぎて、私の価値が……
え? 12.7mm機銃は海軍には無いだろって?
陸軍からホ103を強奪してきましたけど、それがなにか問題でも?
当然、マ弾も入ってますよ。
武装を強化したから、その分全備重量も増えて翼面荷重も増えましたけど、パワーウエイトレシオは二一型の2.57kg/hpから1.89kg/hpと軽くなっているので、最高速度に加速力と上昇力は二一型よりも上がっているはずであります。
ピコちゃんの話では、時速600kmオーバーとか言ってましたけど、テストしてみないことには確証は持てません。
そして、その試作した新型零戦のコクピットに何故か私が座っているのですよ。
どうしてこうなった? 解せん……
まあ、急遽突貫で作った試作機なんぞ、怖くて誰も乗りたがらなかったから、言い出しっぺの私が乗る破目になったのですが。
ましてや、設計したのが見た目が小娘の私なのだから、なおさら怖くて乗れないということなのでしょう。
試作機のテストとかって、よく墜落事故を起こしたりしていますもんね。
何処の馬の骨かも分からない小娘が設計した機体には、命を預けられないのも当然といえば当然ですので、こればかりは仕方ありません。
私が逆の立場だったとしても、お断りしますしね。
それで、完成した試作機のコクピットに興味本位で座ってみた時に、なぜか私でも操縦できそうな気がしたのですよ。
操縦方法や計器類の見方とかが、瞬時に理解できたのです。おそらくはピコマシンの能力なのでしょうね。
でも、知識としては理解できたとしても、実践が伴っていないのが心細いので、ピコちゃんに聞いてみることにしました。
『ピコちゃんって飛行機の操縦できる?』
『人間に操縦できるのに、ピコマシンが操縦できない道理はありません』
『じゃあ、万が一にも操縦することがあった場合には、ピコちゃんに任せたよ』
『お任せください』
ピコちゃんとのこんなやり取りがあって、私はピコちゃんに操縦を委ねることにしました。
私も飛行機を飛ばしたいな~とか思ってはいたけど、まさか、本当に操縦することになるとは、夢にも思ってもいなかったけどさ。
当然だけど、私に飛行機を操縦できる知識がちゃんとあるのかどうか筆記試験をさせられたり、赤とんぼに乗せられたりテストさせられました。
だから、ちゃんと飛行機を操縦する許可は出ましたので、心配には及びません。
まあ、全部ピコちゃんに任せたんですけどね!
試験を監督してくれた教官は、小娘の私が操縦できることをなにやら訝しがっていたけど、アメリカでは子供でも自動車を運転したり、航空機を操縦する子供もそこそこの数いるのだと、煙に巻いておきました。
うん、嘘は言ってないよ。嘘は。




