第54話 帰路の車窓とそれぞれの黄昏
道の駅『あまるべ』での極上の香住ガニちらしと日本海の新鮮な海の幸に舌鼓を打ち、お腹も心もすっかり満たされた一行は、旅の最終目的地である京都市内へ向けて再び車を発進させた。
頭上にそびえていた朱色の余部橋梁が、車窓のバックミラーの向こうで次第に小さくなっていく。この数日間、12人のメンバーと共に分かち合った濃密な時間のすべてが、頭の中を駆け巡っていく。
「ふう……こうして帰路の車に揺られていると、楽しかった思い出が一気に蘇ってきて、なんだか胸がキュッとしちゃいますね……。終わっちゃうのが、本当にもったいないなぁ」
キャンピングカーの後部座席で、七柰が名残惜しそうに遠くの山並みを眺めながら、小さなため息を漏らす。
隣に座る美波さんが優しい笑みを浮かべてうなずいた。
「本当ね、七柰ちゃん。初日の出発の朝が、なんだか遠い昔のことのように感じるよ。本当にあっという間の四日間だったけれど、一瞬一瞬が宝物のような時間だったよね」
車列はスムーズに北近畿豊岡自動車道へと乗り入れ、なだらかな山あいのハイウェイを心地よいエンジン音を響かせながら南下していく。
運転席のハンドルを握る叶姉さんが、口元には穏やかな笑みが浮かべながら言った。
「皆、しっかりシートベルトは大丈夫? ここから京都縦貫道を経由して、いよいよ自分たちの街──京都市内へと帰還するよ。最後まで心地いい旅の余韻を楽しもうね」
その言葉に、同乗している他のメンバーたちから、「はーい」「お願いします」と明るい声が返ってくる。
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北近畿豊岡自動車道から京都縦貫道へとスムーズにルートを繋ぎ、京都府の真ん中に位置する丹波エリアへと差し掛かったところで、車列はちょっとしたお楽しみのスポットへと立ち寄ることにした。それは、京都・丹波地域の特産品やお土産がずらりと揃う人気の道の駅『丹波マーケス』だ。
車が広々とした駐車場に滑り込み、エンジンが停止すると、一行はそれぞれ伸びをしながら車外へと降り立った。
「わぁ……! ここが最後の道の駅だね! 看板に『丹波の特産品』っていっぱい書いてあるよ!」
七柰がパッと目を輝かせ、さっそく入り口へと小走りで向かう。
「京都市内に戻る前に、お家で待っている家族や、自分たち用のお土産をしっかりゲットしておかないとね」
美怜さんがカートを押し進めながら、皆を先導して店内へと足を踏み入れる。
道の駅『丹波マーケス』の店内には、丹波栗を使ったスイーツや、地元で朝採れしたばかりの新鮮な野菜、そして何よりも有名な『丹波の黒豆』を使った名産品が所狭しと並んでいた。特に、焼き立ての香ばしい香りを漂わせる『特産の黒豆パン』のコーナーには、多くの観光客が足を止めている。
「うわぁ……! この黒豆パン、焼き立てですごくいい匂いがするっす……! ゴロゴロ入ってる黒豆がめちゃくちゃツヤツヤしてて、絶対美味しいやつっすよ!」
茅野さんが一眼レフカメラを肩にかけ直しながら、黒豆パンの山を前にして目を丸くする。
「ほんまやなぁ! 見てこの黒豆の大きさ! めちゃくちゃふっくらしてて、お土産にしたら絶対喜ばれるやつやん! あたし、実家と自分用に絶対二個は買うわ!」
菱川さんも関西弁のアクセントを全開に響かせながら、カゴの中に次々と特産の黒豆パンや新鮮な京野菜を放り込んでいく。
涼花さんは、丁寧にラッピングされた丹波栗のパウンドケーキを優しく手に取り、「あ、あの……これ、お母さんへのお土産にすごく良さそうですぅ……。優しい甘さで、みんなで食べたおやつの時間を思い出しそうですぅ……」とはにかみながら微笑んだ。
少し離れた場所では、正樹叔父さんと叶姉さんが、地元の特産野菜を優雅に吟味していた。
「いやあ、最後の最後まで土地ごとの美味しい特産品に出会えるとはね。この丹波の黒豆パン、帰ってからコーヒーと一緒にいただくのが今から楽しみだよ」
「うん、本当においしそうなものばかりだね。旅の終わりを惜しむように、カゴいっぱいに思い出が詰まっていくみたいだよ」
そうして、お土産の買い出しを済ませた一行は、再びそれぞれの車に乗り込み、いよいよ最終目的地である京都市内──左京区へと向けて最後のドライブを開始した。
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京都縦貫道を走り抜け、トンネルを抜けた先に見覚えのある街並みが少しずつ姿を現していく。車内では、この四日間の楽しかった思い出や、終わってしまう名残惜しさを語り合う会話が途切れることなく続いていた。
「ねえ、皆覚えてる? 最初の日の夜のキャンプで、テントの設営にめちゃくちゃ苦戦して、ペグが全然刺さらなかったこと!」
七柰が振り返りながら、ケラケラと楽しそうに笑う。
「あったあった! あのときは本当にどうなることかと思ったっすよね。でも、皆で協力して美味しいキャンプ飯を作って、夜は星空の下で盛り上がって……本当に最高の四日間だったっす!」
茅野さんがスマホに保存された数々の写真を見せ合いながら、しみじみと言葉を漏らす。
「ほんまに、最初は知らない人同士のグループも混ざってどうなることかと思ったけど、今や家族みたいな絆ができちゃったもんなぁ……。明日からこのメンバーで集まれんの、正直めちゃくちゃ寂しいわぁ……」
菱川さんも関西弁のトーンをしんみりとさせながら、車窓を流れる京都の街並みを眺める。
美波さんや美怜さんも、それぞれの胸に去来する温かな思い出を噛み締めるように、穏やかにうなずいていた。
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車列は京都市左京区のエリアへと静かに進入し、あらかじめ決めていた待ち合わせスペースへとスムーズに到着した。ここで、今回の旅をずっと明るく盛り上げてくれた菱川さんと茅野さんとのお別れの時間がやってきたのである。
車が停車しドアが開くと、名残惜しい空気がその場の温度を少しだけ下げたような気がした。
「二人とも……ここで、お別れの時間だね」
姫子さんが少し切なそうな、温かい微笑みを浮かべながら、車から降り立った二人に歩み寄る。
菱川さんと茅野さんは、それぞれ自分の荷物をしっかりと抱えながら、深々と頭を下げた。
「姫子さん……そして参加者の皆さん、本当にありがとうございましたっす! 初めての本格的なキャンプから、日本海の絶景、出石の皿そば、そして但馬牛のディナーまで……一生忘れられない最高の思い出になったっす!」
茅野さんが少し潤んだ瞳で精一杯の感謝を伝える。
「ほんまに、言葉に言い表せえへんくらい感謝でいっぱいやわぁ……! 最初は不安もあったけど、このメンバーと一緒やったからこそ、毎日が楽しくて仕方がなかったで。みんな、本当にありがとうな!」
菱川さんも関西弁の温かいアクセントに乗せて、全員一人ひとりとしっかりと握手を交わした。
その真っ直ぐな感謝の言葉を聞いた姫子さんは、パッと表情を明るくさせ、まるで何かを思いついたかのようにクスリと微笑んだ。
「ふふ、そんなに寂しそうな顔しないで。実はね、今回の旅で二人を見ていてずっと思っていたことがあるの」
姫子さんが少しいたずらっぽい目をしながら、二人に向かって真っ直ぐにこう切り出した。
「ねえ、二人とも。キャンプやアウトドアを楽しむ『星キャン』の正式メンバーとして、これからも私たちとずっと一緒に活動しない?」
その突然の、最高に嬉しいサプライズのお誘いに、菱川さんと茅野さんは目を点にして固まった。
「え……!? わたし達が『星キャン』のメンバーに……!?」
「うそやん……! こんなに本格的で素敵なキャンプグループに、ウチらみたいなのが入っ
てもええの……!?」
茅野さんと菱川さんは大きく目を見開き、信じられないといった表情で姫子さんの顔を凝視した。
「うん。二人なら大歓迎だよ」
「入りますっ……!! ぜひ喜んで、喜んで『星キャン』に入らせてくださいっす!! あんなに楽しいキャンプができるなら、日本中どこへでもついていくっすよ!」
茅野さんは満面の笑みを爆発させながら、即座に力強く両手で返事をした。
「ほんまに! ウチも即答で入らせてもらうわ! 今回の旅でキャンプの魅力に完全にハマってもうたし、これからも皆と一緒に最高の思い出作っていきたいもん! よろしくお願いするわ!」
菱川さんも満面の笑みで、嬉しさのあまり両手を大きく突き上げた。
その即答の返事に、その場にいた全員から「やったーーっ!!」「大歓迎だよ!」と温かい歓声と拍手が巻き起こった。
「ふふ、決まりだね! これからもっとたくさんの場所で、最高のキャンプをしよう!」
§
菱川さんと茅野さんとの新しい絆という最高の宝物を胸に刻み、車列は再び動き出した。
そうして、自宅が近い順に降ろしていき、最後に僕たちの自宅の前についた。
車が静かに家の前に横付けされ、エンジンが穏やかな静寂へと戻る。助手席のドアを開けると、今回の旅をずっと温かく見守り、大人の余裕と優しさを魅せてくれた正樹叔父さんと、隣で上品に微笑む叶姉さんが優しく声をかけてくれた。
「お疲れ様、二人とも。本当に素晴らしい、最高の旅だったな。お前たちのおかげで、俺も久しぶりに若い頃の情熱を思い出したよ」
正樹叔父さんがガッチリと力強い握手を交わしながら、穏やかに笑う。
「正樹叔父さん、本当にありがとうございました。叔父さんと、そして叶姉さんが一緒に来てくれたからこそ、この旅が何倍も深く、心に残るものになりました」
僕が深く頭を下げると、叶姉さんは微笑みを浮かべながら頷いた。
「こちらこそだよ。奏多君の優しい心遣いと、皆をまとめる頼もしい姿、七柰ちゃんの元気いっぱいの姿に、私もたくさんのインスピレーションをもらうことができたからね。小説のドラマ化という最高の奇跡も、この旅の神様がくれた贈り物だと思っているよ。また一緒にキャンプできる日を、心から楽しみにしているね」
叶姉さんのその温かな言葉に深くお礼を言い、僕たちは車を見送ったあと、自分の家へと足を踏み入れた。
リビングに行くと母さんが優しく微笑みながら出迎えてくれた。
「おかえりなさい。長旅で本当にお疲れ様。無事に帰ってきてくれて安心したわ」
母さんが優しい眼差しで見つめながら、そう声をかける。
「どうだった? 今回のキャンプ旅行、二人とも楽しかった?」
その問いかけに、僕と七柰は顔を見合わせ、まるで示し合わせたかのように同時に、大きく、力強く頷いた。
「うんっ! 最高に楽しかったよ、お母さん!」
「うん、言葉にできないくらい、最高の旅だったよ」
日本海の青さも、空の駅の風も、但馬牛の美味しさも、そしてかけがえのない仲間たちとの新しい絆も──すべてが胸の奥で温かく輝いていた。
旅の終わりは、また新しい物語の始まり。
僕たちの心には、いつまでも消えない星の灯りと、温かな思い出がしっかりと刻まれていた。




