抜け殻
それから、数年の月日が流れた。 西伊豆の街外れ。切り立った断崖の上に、その古い洋館は今も静かに佇んでいる。
かつては白かった壁は、潮風とカビで黒ずみ、屋根瓦は剥がれ落ちている。 窓はすべて板で打ち付けられ、中を覗くことはできない。 庭の百合は枯れ果て、代わりに背の高い雑草が生い茂り、屋敷全体を飲み込もうとしている。
地元の人間は、そこを「化け物屋敷」と呼び、決して近づかない。
地図からも抹消され、道路も封鎖されたその場所は、この街の「腫れ物」であり、触れてはいけないタブーとなっている。
錆びついた鉄の門の前には、奇妙な光景が広がっている。
十数台の車が、放置されているのだ。 高級セダン、スポーツカー、若者が乗るようなワゴン車。
どれも、タイヤがパンクし、ボンネットは錆びつき、蔦が絡まって、地面と一体化している。
それはまるで、巨大な鉄のプランターのようだ。 かつて、面白半分でここを訪れ、二度と帰らなかった者たちの墓標。 持ち主を失った車たちは、雨風に晒されながら、無言で警告を発し続けている。
『入るな』『ここには死しかいない』と。
時折、噂を聞きつけた県外の人間が、封鎖を乗り越えてやってくることがある。
彼らは門の隙間から中を覗き込み、カメラのシャッターを切る。
すると、決まって「何か」が写ると言われている。
二階のテラスに立つ、白いワンピースの少女の影。 あるいは、庭の茂みからこちらを睨む、金色の目をした男の影。
「まだいるんだ」
「あそこの兄妹は、死んで幽霊になって、まだあの中に住んでいるんだ」
人々はそう噂し合い、恐怖に震えながら逃げ帰る。
――滑稽な話だ。
彼らは知らないのだ。
その屋敷が、もうとっくの昔に「もぬけの殻」であることを。
怪物はもう、こんな寂れた田舎にはいない。 彼らが恐れているのは、ただの抜け殻に過ぎない。
本当の恐怖は、こんな辺鄙な場所ではなく、もっと人が溢れ、光が溢れる場所へと移動したというのに。
屋敷の床下に眠る「泥の王」もまた、沈黙している。
依代を失った大地神は、再び長い眠りについたのか、それとも、愛する子供たちについて地下を渡ったのか。 それを知る者はもう、この街には誰もいない。
ただ、放置された車の錆だけが、年々赤く、深くなっていく。
まるで、かつてここで流された血の色を、永遠に記憶しようとするかのように。




