第6話「シャロ家の魔女は希望」
「私たち双子が吐いた嘘を、ご存知なのですね」
「どちらか一方を生贄にするなら、どちらかが嘘を吐く必要がある」
「双子のどちらかを、悪に据える必要がありました」
双子が厄災の始まりという言い伝えを覆すことはできないと、私たち双子は考えた。
「村の憎悪を双子の片割れに向けるために、精霊と仲良くできないふりをしたんです」
ここでようやく、ユウさんの独壇場にしていたエグバートさんが動いた。
ユウさんは私に触れることをやめると、軽く頭を下げて謝罪の意を示す。
「私は、自分の体に流れる血を、ずっと解放したかった……!」
エグバートさんが安堵の笑みを浮かべたということは、私はアッシュ家の生贄として合格できたということかもしれない。
「ステラちゃんの支度をお願い」
「かしこまりました」
残されたユウさんに私の案内役を託し、エグバートさんは先に部屋を出て行った。
「すみません、連れ出すかたちになって」
寝巻の状態で外に出るわけにはいかず、私は今日の日のために用意してもらったような高級そうなローブを身に纏った。
淡い桃色の花びらが刺繍されており、衣服が揺れるたびに花びらが舞い散るように見える。そんな美しさあるローブが初めてで、心臓が大きく高鳴った。
「こんなにも高価なお召し物……」
「アッシュ家の財力の賜物なので、礼ならエグバートくんに」
アッシュ家の屋敷の廊下を歩いてエグバートさんの後を追う際に、壁に当たる雨音が激しさを訴えかけてくるのが分かった。
「想像していた生贄生活とは、まったくの別物です」
「精霊が人間の子を生贄になんて……あり得ない話すぎて、シャロ家の異常性を疑う」
「古き時代を重んじる方もいますから」
急ぎの用があるはずなのに、ユウさんはその用事を優先する素振りは見せない。
外に出たばかりの私がちゃんと歩くことができるように、ユウさんは私の動作を見守ってくれている。
「エグバートくん、体が弱くて」
歩くのが遅い私を待つ間、ユウさんは間を埋めるための話題をくれた。
「ステラ様ほど過酷な人生は送ってないけど、閉鎖的な空間で育てられたようなもので……」
雨はうるさいくらいに強さを増しながら音を響かせ、雨の主張が激しくなる。
「だから、ステラ様と似通ったところがあるのかも」
雨脚が強まる中、外と屋敷を繋ぐ玄関口まで辿り着いた。
「それは共感とも言えるし、同情とも言えるかもしれないけど……」
玄関の扉が閉じられた状態でも、雨音は聞こえてくる。
「エグバートくん、ステラ様と話ができるのを楽しみにしてたと思う」
扉を開いて、外の様子を確認するユウさんの表情は変わらない。
私に対して媚びた笑みを見せることもなく、雨に対する嫌悪を見せることもなく、ユウさんは自ら雨に濡れるために外へと一歩踏み出す。
「ありがと、アッシュ家の次期当主と歩み寄ってくれて」
土砂降りと表現しても過言ではない雨の量が降り続いているのに、ユウさんは傘を持ち出すことはしない。
それなのに、降り注ぐ雨がユウさんの体に触れることはない。
「闇精霊と約束を交わしてると、便利だなって思う」
「……身を守るために役立ちますね」
兎のような容姿をした闇精霊の加護を受けているユウさんは、雨から身を守ることができた。
ユウさんの両手の中に守られている闇精霊の姿を確認し、闇精霊は彼に甘えるように縋っていた。
「魔法使いは傘が必要ないってこと、忘れてました」
「精霊のおかげで、防御魔法の呪文とか忘れたかも」
「私たち、駄目な魔法使いですね」
「駄目ってわかってれば、努力できるんだけどな」
雨が降りしきる世界に向かうため、狭すぎる歩幅で一歩ずつ進んでいく。
「魔法使い失格なのに、国からは崇められてるって変な話ですね」
土砂降りの雨の世界に飛び込む。
「私が闇精霊と約束を交わしていなかったら、今頃はびしょ濡れです」
「信じてた」
契約札の力を借りなくても、闇精霊が力を貸してくれたことにほっとする。
そっと肩に乗ってきた闇精霊は、私との再会を久しぶりに喜んでいるかのようにふさふさの毛をすり寄せてくる。
「シャロ家の魔女様は、俺たちにとっての希望」
「過大評価しすぎですね」
「過大評価じゃなくて、正当な評価」
ヘイル家の家系について、何も聞かされていない。
でも、彼の眼差しには大切な人を守りたいという強さが秘められているような気がした。
「何から何まで頼りっぱなしで悪い……っ、すみません……」
「ここは贄に任せてください」
クレアちゃんに外へ連れ出してもらったときに、約束を交わした風精霊にユウさんを乗せて空高く飛ぶ。
「でも、人を乗せるのは初めてで……」
「いや、風精霊と約束を交わしてない俺なんかより……」
ユウさんは丁寧な喋り方と、ぶっきらぼうな喋り方が混ざって、その喋り方の不安定さと不思議さに興味を持った。
でも、ユウさんのことを知るには、まだまだ時間が足りない。




