第4話「一緒に生きるなら」
「っ」
ユウの優しさは、死が待つ世界には相応しくないかもしれない。
でも、この目の前にいる炎精霊は、ユウに戦う力を与えるために近づいたのではない。
「戦う力ではなく、守る力に変えてください」
いち早く負傷者の元に駆けつけることができるように、ユウの足になるために近づいてきたのだと強い気持ちが伝わってくる。
「本当に……俺でいいのか」
ノーナが服従させた、炎精霊の生まれ変わり。
そんな物語のような展開を妄想してしまうけれど、さすがにそこまで壮大な物語を確かめることはできない。
それでも、そんな縁のようなものを感じずにはいられなくなる。
「おまえの気持ちに気づいてやれなかったのに……」
炎精霊の瞳は、ユウを優しく見つめて微笑みを浮かべた。
「俺、強くなりたい」
ユウが初めて自分を信じることができたとき、自分を支えてくれる存在の手を取ることができる。
「約束……交わしてくれるか」
炎精霊はユウが手にしていた契約札の中に吸い込まれ、二人の間に新たな絆が生まれたことを確認する。
まだ、この世に生まれたばかりの炎精霊はユウの誠実さに応えることを選んだ。
「おめでとうございます」
「なんていうか……照れる」
精霊と約束を交わした瞬間。
異なる種族との距離が、一気に縮まる感覚に幸福を覚える。
始めは驚いた顔をしたユウだったけど、今はとてもいい笑みを浮かべているような気がする。
「ずっと、炎精霊とか……風精霊とか……雷精霊とか……戦うことを得意とする精霊から……少しだけ疎外感があった」
古びた木の根元に腰を下ろしたユウ。
彼から発せられる言葉には寂しさを感じるのに、彼の表情はとても満ち足りた感情に包まれていた。
「ずっと、いろんなこと諦めてきたけど……」
彼は、ゆっくりと深呼吸をした。
取り込んだ酸素は、彼に新たな希望を与えていく。
「俺は、簡単にステラのことを諦めたくない」
「……え」
「驚きすぎ。ってか、ステラでも、そんなに驚くんだな」
ユウが指摘した通り、私は目を大きく見開いたと思う。
時が止まったかのように言葉が出てこなくなってしまって、その様子をユウは楽しそうに観察してくる。
「俺、もともとはフリントの人間で」
「え!?」
「ははっ、おとなしい魔女様より、感情を露わにするステラの方が人間らしい」
未来の希望を語ってくれるのを期待していたのに、ユウは次から次へと私を驚かせるための言葉を用意してくる。
「姉さんと俺のどっちがフリントを継ぐかってなったときに、真っ先に姉さんが名乗りを上げて、追い出されたって流れになるんだけど」
決して悲観的になることなく、ユウは楽しそうに笑った。
「一気に序列が高くなって……でも、やっぱり上にはアッシュ家とブルック家がいて……」
ユウは私の理解が追いつくように、私に合わせて言葉を紡いでくれる。
「好きになっても無駄って思ってたけど……」
ユウが、立ち上がる。
「一緒に生きるなら、ステラがいい」
月明かりを浴びるように、大きく息を吸い込むユウの表情はとても晴れ晴れとしていた。
「まだ、この好意が絆から生まれるものなのか、恋愛としての感情なのかはわかんないけど」
彼の言葉が、ゆっくりと心に浸透していく。
「ステラといたいなって思う」
信じられないような気持ちが言葉に込められているけれど、その気持ちを無下にはしたくないと思った。
「精霊と縁を切ったあとも、よろしく」
大きく伸びをしながら、ユウは優しく微笑んだ。
「っ、私も、魔法使いとして誠心誠意……」
「硬い、硬い」
彼の笑顔が、私の心を温かく包み込む。
「その表情、崩せるといいな」
「私らしくなくなりますよ……?」
「らしさなんて、変わってくもんだろ」
力を隠して生きなければいけなかったおかげで、感情を抑える癖がついてしまった。
ずっと、感情を表現するのが苦手だと思っていた。
「……笑っても、いいですか」
「許可なんていらないんだって」
笑顔で私と話すユウを視界に映していると、自分の口角も上を向きたいと願いが強くなる。
「不細工でも、笑わないでくださいね」
「あー、それは保証しない」
「保証してください」
怒ってはいけない。泣いてはいけない。喜んではいけない。
感情に蓋をするのが自分にとっての当たり前だったけど、その当たり前に変化が訪れそうな予感に胸が高鳴っていくのを感じた。
「シャロ家の魔女が新しく誕生する瞬間に、立ち合わせてくれ」
「約束します?」
「いや……ゆびきりとか、恥ずかしいんだけど」
私たちの歩む未来は不確かで、何が待ち受けているのかなんて想像もつかない。
それでも互いの中に信頼が溢れている限り、私たちは大丈夫だと信じられる。
誰も未来の幸福を保証してくれないからこそ、常に希望を抱き続けたいと思った。




