第2話「魔法使いが機能しない国」
「配慮が足りてなかったです……」
「え? ユウには凄く良くしてもらって……」
「友達……とか、いた方がいいんですかね」
「あの、ユウ……」
精霊の生贄として生きてきた私が、初めて魔法学園に通うという現実を受け止めきれなかった。
自由ある贄生活に心臓が壊れてしまいそうで、私はこっそりと心臓に手を当てていたつもりだった。でも、その緊張はユウに見破られてしまっていた。
「そもそも、授業についてこれる……」
「ユウ!」
冷静さを兼ね備えている印象が強かったユウが、一人で考えごとに突っ走ろうとしたところが意外だった。
意外な面を知れることが嬉しくもあったけれど、私はユウの思考を止めるために声を上げた。
「贄としての日々が長かったですけど、ちゃんとやっていきますから」
すると、アスマさんがユウの肩にぽんと手を置いて、ユウの思考を止めるために力を貸してくれた。
「魔女様は、クレア様から、なんとなくの外の話を聞いてるはず……」
「心配なんだよ……ステラが馴染めるか、とか……」
「ユウ、魔女様の方が強いから」
「っ」
月の光を閉じ込めたような美しさあるアスマさんの銀色の髪は、太陽の光を浴びることでより一層、映えて視界に映る。
「シャロ家の魔女として、俯いてはいられません」
エグバートさんやフェリーさんを見習って、なるべく優しい声を発することができるように心がけた。
ユウが一人で抱える不安は何もないということを伝えるためにも、私はなるべく口角を上げてみせる。
でも、感情を抑え込んできた人間は、いきなり口角を上げることはできないらしい。
「ステラ……本気で無理すんなよ」
「不細工な顔……ですか?」
「いや、あの……」
「そんな感じで、もっと気軽に接してください」
精霊の寵愛を受けているシャロ家を守るために存在している森契の盟の人たちに、気軽にと声をかけることは間違っているかもしれない。
現に、ユウとアスマさんは顔を見合わせた。
「精霊と縁を切るのなら、森契の盟も解体の流れになりますから」
いつか訪れる精霊との別れのために、私は今から普通の環境というものを整えていく。
そんな私の意図を察したユウは簡単には納得できないようで、再び前を向いて歩き出した。
アスマさんは首を一回、縦に振って了承の意を示してくれた。
「ありがとうございます」
早鐘のように打ち続ける心音は、二人と言葉を交わし合うことで落ち着きを見せた。
いつもなら冷たく感じる朝の空気も、その冷たさを受け入れることも容易のように思えた。それだけ、隣に味方がいてくれることが心強い。
「最後に、ひとつだけ……」
道端の木々が風に揺れ、こんなにも自然が豊かに生きている世界に見惚れそうになった瞬間。
前を見つめていたユウが、後ろを付いていくだけだった私の方を振り返った。
「いつかシャロ家の魔女様が再会できるように、尽力いたします」
深く礼をする必要すらないけれど、ユウの誠実さがよく伝わってきた。
それでも顔を上げてもらうために、私はユウの視界に映り込むために彼の顔をそっと覗き込む。
「っ、て」
「ユウ、顔、上げてください」
礼をしている最中に、相手の顔を覗き込むのは常識がなっていないことかもしれない。
ユウは勢いよく顔を上げて、私たちの間には再び朗らかな空気感が戻ってきた。
「あー、もう……調子狂う……」
少し長めの前髪に、瞳を隠してしまったユウ。
私はかしこまったユウよりも、同い年として私と接してくれる対等さを与えてくれるユウを好きだと思う。
「本当は、呼び捨てですら恐れ多いんだよ……」
「ユウ……照れてる……」
「うっさい! アスマっ!」
普段から笑顔を振りまくような二人ではないと察することができるからこそ、この賑やかな空気に自然と笑みが生まれてくる。
「俺は、何があってもステラ様を救います」
真摯な眼差しを向けられる。
「頼ってください」
暖かな空気に心を和ませていたはずが、心臓が速まっていくのを感じる。
「俺は、ステラ様の声を聞き逃したりしませんから」
顔に溜まる熱を、どうやって逃がしたらいいのか。
答えをくれる人がいない環境下に、迷子になりそうだったのをユウは察してくれた。
ユウは私から真っ先に視線を外して、二人だけで作り上げた空間から私を解放する。
「魔女様、ごめん……」
話し相手がいなくなった私を受け入れてくれたのは、私と同じ速度で隣を歩いてくれるアスマさんだった。
「こっちに来てから、大事にされまくってると思うから」
「魔女の血筋、偉大ですね」
「うん、魔女様が思ってるよりずっと……シャロ家の血は貴重」
アスマさんは口数が少ないと事前に説明があったけれど、こうして二人きりになったときは話し相手になってくれる優しさが彼にはあると思った。
「森契の盟だけじゃ、魔物を狩り切れない……」
「魔法使いが機能しない国、ですからね」
学園に向かうための手段は、馬車を使うわけでも精霊の力を借りるわけでもなかった。
徒歩で移動するおかげで、私はゆったりとした時間を過ごすことができている。
妹以外から、外の情報を知るための時間があることのありがたさ。
贄にとっては、感謝してもしきれない。




