ep.6 VR起動
ブライアンはヨロヨロと荷車を押し、軋む車輪の音を響かせながら自宅へとたどり着いた。
埃っぽい玄関の鍵を開け、狭い通路を荷車ごと押し進める。
部屋の真ん中、ボロボロのソファの前に、彼は青緑色のヴェリディアン・レゾナンスを降ろした。
見慣れない近未来的な卵型の筐体は、乱雑な部屋の中で異彩を放っている。
ヨボヨボの彼一人では、この巨大な筐体を家の中に運び入れることは不可能に思えたが、底部に備え付けられたキャスターのおかげで、軋む音を立てながらも、なんとか狭い玄関をすり抜けるようにしてリビングへと運び込んだのだ。
乱雑な部屋の真ん中に鎮座するその卵型の機械は、まるで異世界の宇宙船が不時着したかのようだ。
彼はよれたソファに座り込み、その奇妙な光景をじっと見つめた。
普段の無関心さとは裏腹に、その白髪混じりの頭からは、微かに湯気が出ているかのように熱気が立ち上っている。
彼は震える手で電源ケーブルを差し込み、卵型筐体の表面に埋め込まれた起動ボタンに指を伸ばした。
起動音が静かに響き渡り、青緑色の光が筐体の隙間から漏れ出す。ブライアンはよろめきながら立ち上がり、卵型の筐体の蓋を開け、中に体を滑り込ませた。
柔らかいクッションに体が沈み込む。
「ユーザー登録を開始します。視力補正器具を外してください。」
無機質な女性の合成音声が、筐体内に響き渡った。
ブライアンは顔をしかめる。
普段から愛用している、柄の歪んだ眼鏡を装着したままだったのだ。
彼はハァ、と大きなため息をつくと、ゆっくりと筐体の蓋を再び開けた。
視界はぼやけているが、眼鏡を外すためだけに一度この快適な空間から出なければならないのは、彼にとって極度の面倒だった。
ブライアンは眼鏡を外すと、それを室内に丁寧に置くこともなく、そのまま開いた蓋の隙間から外へブンと投げ捨てた。
ガチャン、と何か硬いものがぶつかる音が部屋の奥から聞こえたが、彼は気にする様子もない。
視界がぼやけて、何がどこに飛んでいったのかも確認しないまま、再び蓋を閉め、深々とクッションに体を沈めた。