ep.3 混沌の部屋
家の中は、彼の生活がそのまま凝縮されたかのように、雑多な品々で溢れかえっている。
ブライアンは散らかったテーブルの上から、慣れた手つきでコーンスープの素とマグカップを探し当てる。
電気ケトルでお湯を沸かし、その間にボロボロのソファに腰を下ろした。
片手でコーンスープをかき混ぜながら、もう一方の手は、テーブルの上のゴミの山をゴソゴソと漁る。
何かを探しているのだろう。
彼は焦ることなく、その指先で目的のものを探り当てた。
それは、柄の歪んだ眼鏡だった。
埃を軽く拭き、眼鏡をかけると、焦点が定まり、ぼやけていた視界がクリアになった。
テレビのリモコンを手に取り、電源を入れる。
ニュース番組の無味乾燥な音声が部屋に響く中、彼はゆっくりとコーンスープを口に運んだ。
ニュースの合間に、突然、鮮烈な映像が流れ出した。
それは、世界初の没入型VRMMORPG筐体「ヴェリディアン・レゾナンス」のCMだった。
広大なファンタジー世界の風景、躍動するキャラクターたち、剣と魔法がぶつかり合う迫力ある戦闘シーン。
「新たな人生を、今、あなたに──《インフィニタス・オンライン》」というキャッチコピーが、力強く響き渡る。
ブライアンは、コーンスープの入ったマグカップを口元から外し、テレビ画面を凝視する。
彼の無表情な顔に、わずかな、しかし確かな変化が訪れる。
それは、長年のゲーム好きがゆえの純粋な好奇心、そしてそう長くはないであろう自身の衰えゆく体と、画面の中で繰り広げられる無限の可能性とのコントラストが生み出す、奇妙な光だった。
彼は何も言わない。
ただ、静かにそのCMを見つめ続けていた。