正論(123)赤は黒にイラついた
鬼島の演歌と共に現れたセイロンガーとブラックオウガ。セイロンガーは指をポキポキと鳴らしながら言った。
「鬼島、お前、頭おかしいのか? 背を向けてる相手に登場を歌で知らせる馬鹿がどこにいる」
「わかってねぇな、格闘家が輝くのは登場と勝った時だ。そこさえ決まりゃ、最中はどんだけ泥試合でも客は満足するもんだ」
「客……まぁいい。俺の真後ろについて来い!」
そう言ってセイロンガーは走り出し、オウガは彼に隠れるように真後ろを追走した。
マリンは蜘蛛男の粘着糸でギュウギュウと締め付けられながら、セイロンガーのヒーロースーツの色が赤ではなくメタリックレッドであることに気が付いた。
(あれは……デュラビリティモード!)
デュラビリティモード(ディフェンスモード)はその名の通り、スーツの耐久性を最大まで上げる。元々、防弾・防刃性に優れたヒーロースーツの素材を再構築し、耐久性に特化させることにより衝撃を分散、吸収する。9mm弾のハンドガンなら衝撃はあるものの、動きを止めることなく戦闘の継続が可能なモードなのだ。ただし、スーツの運動性能が低下するデメリットもある。
後ろを振り向いた偽セイロンガーと偽オウガは、銃を構えて躊躇なく発砲する。
「Light him up! Light him up! Pour it on!(撃て! 撃て! 撃ちまくれ!)」
パンッ!
パンッ!
パンッ!
ハンドガンの銃口から射出された9mm弾がセイロンガーのヒーロースーツへ着弾する。メタリックレッドの表面が歪み、波打ち広がりながら衝撃を吸収した!
(多少は……痛い……)
銃弾の直撃を受けながら、痛みを我慢して走るセイロンガー。やがて、十分敵に接近したところで、おもむろに停止、両膝に手を付いて屈んだ。
真後ろを走るオウガ。打ち合わせでは、屈んだセイロンガーを土台に敵に向かって飛び出すことになっていた。
(ちょっと腰高くねぇか? セイロン……)
足が上がるか自信がなかったが、一か八かセイロンガーの背中に向かって右足を上げて踏み切った! ノーマルなら届かなかったかもしれないが、パワーモードが幸いし、オウガの身体はセイロンガーの背中を土台にドンッと高く舞い上がった。
(すごく痛い。この作戦は二度とやるまい)
銃弾を受ける何倍も背中が痛いセイロンガーは、加減を知らぬオウガにイラッとした。
偽オウガに向けて高く舞い上がったオウガは両手を握り、敵の脳天に向けて渾身の力で振り下ろした。
「くぉのパチモンがぁ!」
たまらず体勢を崩した偽オウガの右手を軸に身体を回転させてハンドガンを落とし、それを拾い上げた。
偽セイロンガーはスピードモードのセイロンガーに背後を取られた記憶が蘇り、自然と護送車後部に背を付ける。ハンドガンを向け、セイロンガーに発砲する。銃弾は命中するが、相手は構わずゆっくりと距離を詰めてくる。
パンッ!
パンッ!
カチッ!
ハンドガンのスライドが後ろに下がったまま弾切れであることを告げた。
「終わりか? そんなものに頼らず、怪人は怪人らしく肉弾戦でかかってこい」
セイロンガーは指をくいっと曲げて挑発した。
その時だった。
パンッ!
パンッ!
オウガの方から乾いた銃声が聞こえた。
「ウガァァ!」
叫び声を上げながら偽オウガが身体を曲げてのたうち回っていた。抱えた下半身を見ると、両膝を撃ち抜かれていた。
次にオウガは、偽セイロンガーに近づくと、躊躇なく引き金を引いた。
パンッ!
パンッ!
「オゥワァッ!」
やはり両膝を撃ち抜かれ、転げ回る偽セイロンガー。
「何見てんだセイロン、殺してねぇだろ? コイツら相手に正々堂々と肉弾戦なんて考えをしてたらそのうち死んじまうぜ?」
(このおっさん、俺のイラつきの捌け口を……)
セイロンガーは鬼島の説教じみた言い草と、戦いの邪魔をされたことに普段の冷静さを失いかけていた。
そして、無言のまま護送車内の蜘蛛男を見据えた。




