止められない 止まらない
もとより、上空に浮かぶ神盾『ゴッドブレス・アラカン』が発する光で正面玄関周辺はぼんやりと視界を得られていたが、今ではテラスでカスミが唱えた第1位階の呪文『照射』が、バンドー邸の庭先を照らし出している。
「貴様は・・! 」
エミリア・ハーフポートは大剣を左手で構え、空いている右手をくるりと回転させながら、小さな魔方陣を描く。あまり見ないやりかただが、詠唱ではなく直接魔方陣を描いて魔法を発動させるスキルだ。
「・・なんだー! 」
叫び放つと同時に右手から第3位階の雷撃が発動し、ほぼ同時に大剣に両手をそえるとオンゴロに切りかかった。
必殺かと思われたが、オンゴロの姿は無い。一体、何処に消えたのか。
「『影渡り』・・」
イルミダがつぶやくがバンドーには聞こえない。
(やべぇ・・もたもたしてると、もっと大変な事になる気が・・)
一体何がやばいのか。それは後ほど説明するとして、階下ではまたもや、エミリア・ハーフポートが連れてきた兵士が悲鳴をあげて倒れた。闇の中から黒染めの矢を射られては、通常の兵士では対処は難しいだろう。
「カスミとイルミダはテラスに残って援護と照射を頼む。アメリアさん、いいか? 」
「否やは無い。リーダーの命令に従う。やるのだな? 」
「できるだけ・・」
「判っている! 」
兵士を殺すようなことはしないで欲しい、と言おうとして先にアメリアさんに言葉をかぶせられた。
「ユメも頼む! 」
「はいな! 」
「ヘルミット! 殺さない程度に頼む! 」
バンドーはポケットからスキル封じの指輪を嵌めると『魔力分解』を封じる。途端に沸き上がる魔力に酔いそうになるが、以前ほどではない。あれからティアと訓練して、10分程度なら意識を失わずに戦えるようになっているのだ。
「こんちきしょうがぁ!! 」
何故、そう言うか。
正直、笑えないのだ。結成した『銀翼の華』の初陣の相手が、これかよと。
バンドーは敵兵士の一群のど真ん中に降り立つとゼノ式格闘術の二の型『かわせみ』発動。ほとんど逆立ちしながら周囲を足技で蹴散らす。蹴りは微妙に魔力を纏い、手加減しながらも周囲を軽く薙ぎ払う。多人数相手限定の型。
エミリアが上空に火球を撃ち上げる。
「何の合図だ? 」
「何故だ! 何故、こうも裏目に出る?! 」
エミリアが吠えている。
彼女がそう言うのにも訳がある。実は引き連れてきた兵士達はハーフポート家の私兵で、対魔法装備を施した特殊部隊なのだった。だからこそ、少数でも突入したのだが・・。
「お役立ちです! 」
そう叫びながら、上空から火球を乱射しているフィーネ。だが兵士達が丸盾で防ぐと、ことごとく跳ね返されている。かつてエミリアの兄、エイリー伯が開発した『合理の盾』の改良型であり、兵士達が着る軽装の鎧にも魔石が埋め込まれていて、第6位階までの攻撃魔法なら防いでしまう筈であったのだが。
「バンドーさん・・」
ユメがバンドーと背中合わせになる。
「援軍ですね。」
いくつかの反応が気配感知に引っかかる。恐らく、近場で待機していた兵士を『ゲート』か何かで呼び寄せたのだろう。
「時間がねぇ・・さっさと無力化させねえと・・」
増えつつある敵の兵士達の数はざっと50~60といったところか。相手をするのに不足は無いのだが、やばいのだ。スキル封じの指輪を嵌めていられる時間も、そうなのだが。先にも言ったようにそれ以上に、やばいことが別にある。
バンドーが何故、最初の敵影の確認で第1位階の呪文『照射』ではなく、第5位階の『爆炎』をカスミに唱えさせたのか。それは・・
コォォォォォォォォォォォォォ!
コォォォォォォォォォォォォォ!
コォォォォォォォォォォォォォ!
コォォォォォォォォォォォォォ!
(・・来ちまったか! )
お馴染みの魔法音と共に青白い円環が、バンドー邸の庭のあちこちで花開く。
「バンドー、来たわよ?! なーにこれ。」
「バンドーさん! 敵ですか? これ全部敵ですね?! 」
「よおおおお、バンドー。生きてるかぁ? 面白そうな事、してんじゃねーぞ?! 」
「バンドー君、借りを返しに来たよ! 音速、突撃開始! 」
それぞれ、ティアの『星屑の光』 カトルの『紅蓮』 『鉄騎』のガンツとグランツ 『音速』のナカジマが示し合わせたようにゲートから顔を出すと、メンバーを呼び込む。
「あああああああああ、待てお前ら、待ってストップ、ちょっ!! 殺すんじゃねーぞ?! 」
実はアルシャンドラの一件以来、仲間内で警戒警報として爆炎を撃ち上げる事を決めていた、と言う訳なのだが。
ゲートが4つ、同時に現れたという事は、何処かで一旦、集まって同期したのだろう。さすがデスパレス冒険者ギルドが誇る面々、とは言え、やり過ぎ感もりもりである。
かくして、一夜の騒乱は鎮圧された。それもあっさりと。




