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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第六章  元の鞘
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不安と不満とやるけなさ

ある日の昼下がり、バンドー邸の庭で久しぶりに暴風が吹き荒れた。それは文字通りの暴風である。

もちろん、その力の源はフィーネ・エレイラ・バルヴィオーネ。ヒストニア王国第3王女であった。


「わたくしに何の断りも無く解散するとは、いったい何事ですか?! 」


フィーネはバンドー邸に居つくようになってからは12歳という歳相応の振る舞いをバンドーに見せていたものの、王宮にいた時は第3王女にして暴風騎士団団長という職責にあった。当然、その当時はそれに相応しい物腰やたたずまい、口調も大人びたものだったのである。


今の彼女の口調は、明らかにその頃のものだった。


その舌鋒の矛先は、同じくバンドー邸にやっかいになっているアメリア・タリスマン、元暴風騎士団副官兼副団長に向けられている。


フィーネの肩まで届く銀髪と同じ色の腰まで届く髪を持ち、薄緑色のチュニックを着込む純血エルフは、いつになく焦燥、というか防戦一方であった。元々、彼女は物事に動じない性格ではあるのだが、事、姫君に関する限りは、どうやら別のようだ。


風呂に浸かった後に庭で身体を洗っていたバンドーの口は既に半開き、いつ庭を囲う壁が壊されるか判らない状況とあっては、それも致し方ないだろう。晴れた空に鳥が舞い飛ぶこの状況下で、暴風疾風迅雷が吹き荒れるなど、似つかわしくない事この上ない。取りあえず水桶で井戸水を汲んで頭からかぶると、腰布を巻き、更に水桶に水を汲む。


「し、仕方なかったのです姫様。陛下とレイ様との取り決めで、姫様を3年間デスパレスに修行に出す事になり、その、元々姫様あっての騎士団でありましたから・・」


「お黙りなさい! 王族の第一の役割である高貴ノブレス・オブリージュなる役割を成すために創った、私の騎士団ですよ? その解散を、例え陛下やレイ様が命じたとしても、団長である私に断りも無く行うなど、王国の守護鷲アラカンが許しま、・・わっひゃっ?! 」


フィーネ姫の最後のセリフがブチ切れたのはバンドーが彼女の頭の上から水をぶっかけたからである。

全身ずぶ濡れ、既に言葉も無い。


「フィーネ、無くなったもんはしょーがねえ。 お前がやるべき事は他にあるんだろ? 今は自分を磨けばいいんだ。」


「うう・・」


涙目のフィーネにカスミが走り寄る。


「姫様、お風呂ありますから、行きましょ。ねっ? 」


カスミはフィーネ姫の手を取ると、慣れた手つきで風呂桶の方に連れて行った。


「バンドー殿、助かったがその、・・やりすぎではないか? 」


その場に残されたアメリアが、恐る恐るバンドーに問いかける。バンドーは何も言わず、水桶を庭に放り投げると室内に入っていく。


最近、バンドーの機嫌が悪い。デスパレス50階層から戻ったばかりという事にも起因するかもしれない。カスミに命じて昼間から風呂を沸かしていたのも、迷宮のアカを落とすためなのだが、それにしてもアルシャンドラの一件以来、彼はいらいらしているように見える。


普通に話ができるのはカスミとユメくらいのもので、と言ってもカスミはバンドーの命令に従順すぎるだけ、ユメはたまにバンドー邸に顔を出してはバンドーと二言三言交わしては、何処かに行ってしまう感じだ。


バンドー自身もそれを自覚していた。


(落ち着け。俺は大丈夫だろ? )


何だか、よく判らないのだが、予期せぬ不安・焦燥感があるのだ。このままだと、ひどい事が起きるというか、周りが悪い方向に動いているのではないかという漠然とした感覚が、何故か心の奥底から湧いてくる。


今までなら、我を忘れて迷宮に潜り戦いに身を置けば、どうでもよくなっていた。無我夢中に目の前の事をこなしていれば、いつの間にか忘れていたように思うのだが。


「ベルガモット、ゼラニウムにラベンダーを少々焚きこみました。それでは・・。」


閉じられた扉。出て行ったのはメイド服姿の少女である。室内には悪くない香りが立ち込めている。


いつの間にか、バンドー家の居候が一人増えていた。


ヘルミット、タウリ族、唯一の生き残りである彼女は、ミリアに魅了チャームを解かれて以降、バンドーの身の回りの世話を始めて、居ついてしまった。一度は叩きだそうかと思ったのだが、殺されるまで辞めないと言われて、断念した。何より、彼女の仕事ぶりはカスミなど足元にも及ばず、そればかりかバンドーの精神状態を察しては、それに見合った香をあらかじめ焚いておいたり、天気を予想して洗濯物を取り込んだりと、無類の有能ぶりを発揮していた。


バンドーにとっては、不安の原因が判らない。困った事に、それが不安の原因でもあった。


「不安? いや不満なのか? 」


そもそも、自分が此処デスパレスに来た理由は何だったのか? 


ひとつは腕試し。もうひとつは迷宮デスパレスが、自分の能力に合っていると思ったからだ。ここの冒険者ギルドのギルドマスターがレイ教授であった事も起因する。幼少時に異端認定された彼は神聖神殿に目を付けられている可能性があったし、お山を二分した戦いの末、身を引いたせいでもある。皆伝は受けていたし、何よりティアがお山にいられなくなった事も。


身ひとつでここに来て、当初つらい出来事もあったものの、最速といってもいい早さでゴールドクラスまで昇ってきた。金が手に入り、自分の棲み処も手に入れた。


それどころか、今や複数の才能ある女性に囲まれ、他人が見たら羨むばかりだろう。これだけの人間を抱えても、金銭的に困ってもいない。何となれば、毎月フィーネを介して王宮から金貨が送られてきている。もちろん、自分自身で50階層まで潜って拳大の魔石を持ち帰るだけで、2~3か月は暮らせる金が手に入る。


「特に不満は、ねぇ。」


しいてあげるなら、やろうと思えば働かずに生きていける事が、心の内に不安を巻き起こしているのかもしれない。今まで、自分を鍛え上げたり、どうしようもない出来事に立ち向かったりしていたものが、自分に押し付けられる仕事の毛並みが変わって、うろたえているのかもしれない。


王女の修行とかカスミの面倒見とかイルミダをどうするかとかが、それに当たる。


「戦闘指揮とは、違うもんな。」


戦場や迷宮で肌で感じた状況や感覚から判断する指示と、人を育て教育する時に使う思考回路がマッチしてないのかもしれない。


「まあ、でもこの不安はそれだけが原因じゃない気もするが・・。」


ベッドの上でまどろみながらも、意識は徐々に冴えてくる。


(・・取りあえず、フィーネに謝ってくるか・・。)


迷宮帰りの疲れた体を無理矢理立たせると、部屋を出るのだった。






















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