魅惑的な食事
暗殺者とは、決して字のままに暗殺者を生業とするものではない。冒険者においては、暗殺術と呼ばれるスキルを学び、それを使って冒険者としての任務を全うする職業。
特に忌み嫌われる訳でもないし、別に暗黒面に落ちた戦士と言う訳でもない。とにかく、暗殺者と言えど戦闘時の物事の優先順位は理解している。この場合、優先されるべきは情報を持ち帰る事。そしてパーティメンとしては、できうるなら自分よりも秀でた能力を持つ者を無事に帰還させる事。
それは判っている、例えシルバーランクと言えども。だが、
「無駄よ、私には薬も効かないわ・・・・。」
手持ちのあらゆるスキルを試し、隙を見ては切り付け引き裂いても傷ひとつ付かない相手がいる。
それならばと、麻痺針や致死性の毒を試しても、特に変わった風も無い。
「・・・・化け物め・・・・。」
ミヤウチは歯噛みしつつ、側に来たアカリを気遣う。
「奴は何?! 」
「知らねえ、見た事がねえ。 」
アルシャンドラは今や、自らの異形さを隠そうともしない。背中から生えた灰褐色の翼、尖った爪、妖しく光る金色の右目と赤褐色の左目。更には尻尾のようなものも見える。
やがてゆらゆらと揺れる尾の先がスペード状に形を変えると真っ赤に充血する。その指し示す先には、魔法使いのアカリがいた。
「ふふ、予想通りだわ。あなた、いい魔力の器を持っているのね。」
魔力の器とは、魔力容量を意味する。どれだけの魔力を体内に保持できるかは通常、魔法ギルドで専用の魔道具を使って鑑定しないと測れないのだが、アルシャンドラはその種族特性で事前に感知できる。
「魅了 」
口元に当てた2本の指が振るわれ、途端にアカリの動きが止まる。
「あっ、あぁ?! 」
「ほーらやっぱり。私の魅了を受けても身を保ってられるなんて、合格よ。」
「アカリ?! 」
振り返るミヤウチだったが、それ以上なにもできない。
アカリに駆け寄りたいのだが、相対する強敵を思えば、そのような隙をつくれない。
「そろそろ、いいかしら。」
アルシャンドラのその言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼女の身体は高速移動してミヤウチの側面に回ると、右手の先にある鋭い爪に明らかな魔法の特徴が備わる。
「麻痺爪挿入 」
「ぐっ!! 」
ミヤウチの肩口にアルシャンドラの爪が打ち込まれる。
「未経験痛覚 」
むしろ美しい声色で彼女が囁くと共にミヤウチの身体が脈打つ。
「がっぁぁぁぁ?! 」
「暗殺者系は薬物耐性があるらしいから、念には念を入れたわ。」
前のめりに倒れるミヤウチの身体に更に蹴りを入れ、上から跨ると首筋を掴む。
「・・・・終わり。口付けと共に果てなさい。」
ミヤウチに口付けをすると同時に、背の羽根が丸まり、彼を覆い隠す。中で何が行われているのか、もう見えない。程なく、黒い霧状のようなものが立ち昇る。
「まあまあね。さて・・・・」
立ち上がった後には、もう彼女しかいない。
「やぁだ・・・・。」
同僚を目の前で消され、自身は身動きする事も出来ないこの境遇に身震いする他なかった。
「大丈夫よ、震える事は無いわ。あなたほどの魔力容量があるなら耐えられるはずよ。」
アルシャンドラは、魅了に侵されて身動きする事ができないアカリにわざとゆっくりと近付くと真っ赤な舌で上唇を舐める。
「さああ、我が元に来なさい。」
「あっあっああ・・・・?」
気が付くと、何故か自ら化け物の元に歩み始めている。操られているのだアレに。
「ふふ、可愛いわあなた。」
アルシャンドラは自分の目の前に来たアカリをゆっくりと抱擁すると髪の毛をなで、肩を掴んで引き離すや否や、その唇を奪う。
「んっんん? 」
アカリのくぐもった声と同時に、アルシャンドラの背に生えた灰褐色の見事な翼が広がり、二人を覆い隠した。




