記憶の底の先は?
暑い。
今回全然違う事書こうと思ってたのに。全然違う話に。何を言ってるのか判らないけど、たまにそういうことがあります。
「大丈夫ですか? 」
カスミが問いかける先にいるフィーネは眠そうに目をこするとベッドに横になる。目は虚ろ、ともすればそれも閉じかけようとしている感じだ。
「・・・・バンドーさまぁ・・。」
ひとすじの煙のようなものが立ち昇ると細い細い銀の糸のように変化して天井の先へと消えていく。根元はフィーネにつながっている。
(えっ? ええっ?! )
これは一体何だろう? 目の前で起こった現象ではあるが、にわかには信じられない。
しかも当のフィーネはベッドの上で、何事も無いかのように目を閉じて横になっている。
糸のようなものは薄っすらと光を放ち、ゆらゆらと揺れながら時々反転する。カスミは恐る恐る手を伸ばすと、それに触れた。
「あっ?! 」
カスミの視界がぼやける。代わりに流れ込んできたのは全く別の映像、記憶。カスミは何故か空を飛んでいた。眼下には、大勢の兵士達。
(・・ここは何処・・? )
声がした。
「我が名はフィーネ・エレイラ・バルヴィオーネ、ヒストニア王国第3王女である。控えよ、公国臣民達よ! 」
眼下の兵士達のざわめきが聞こえる。
「退いて直れ。我が力を知れ! 」
カスミの身体が無意識に動く。膨大な魔力が腹の底から沸き上がって胸に達し、やがて短杖を持つ右手に集約されていくのが判る。
「疾風迅雷!! 」
右手から放たれた青白い光の渦はやがて暴風と稲妻にかわり、眼下の兵士達のど真ん中を切り裂いた。
何人かは人形のように中空に跳ね上がっている。
怒号、後方からの刻の声。そこでまた視界が揺らぐ。
不意に湧き上がる胸の痛み。いや、悲しみ? どうして?
気が付くと又、カスミは空を飛んでいる。ここは?
知っている場所。何度となく魔法習熟度上げに励んだバンドーの家の庭先が眼下にあった。
そしてバンドーも。
「バンドー様、見つけました! 私と死んでください! 」
(えっ? ええっ?! )
眼下のバンドーの隣には自分がいた。どうしていいか判らない風に、おろおろしている。
(・・? 私・・・? という事は)
カスミはようやく気付く。
(知ってる・・。)
今自分はフィーネになっているのだ。いや、フィーネの身体の中から外を見ている。身体は自由にはならないが、彼女の感覚や感情は流れ込んでくる。
「疾風迅雷!! 」
再び放たれる王族魔法。
右腕が青く渦巻き、放出される指向性を持つ稲妻と暴風。だがそれはバンドーの右に大きく外れて抜けた。走り去った先にある庭を囲う塀の一部が崩れ落ちる。
「・・バンドー様、さすがです! よく避けましたね! 」
「フィーネ姫! 俺に当てろ、このくそ莫迦! 」
バンドーの言葉に、カスミは我に返る。
(駄目! このまま飲み込まれては駄目! )
何とかこの夢のような状況をミュートしないと駄目な気がする。きっとこれはフィーネ姫の記憶だ。彼女の中の記憶が糸を伝って流れ出しているのだ。自分はそれに触れてしまい、同じ映像を見せられているのだ。
(これは夢! )
しっかりしないと!
視界が揺れる。声が聞こえる。揺れて揺れて、・・・違う?
「カスミちゃん? しっかりしいや?! 」
揺れているのは視界ではなかった。戻った。
「カスミちゃん?! 」
「・・・・ユメちゃん? 」
ユメが、いつのまにかカスミの傍らにいた。そして懸命に自分の肩を揺さぶっていたのだ。
「よかったぁ、戻ってきてんね?! 」
ユメはカスミを抱きしめる。頭の真後ろに回した手が髪をなでる。
「・・ユメちゃん・・。帰って来たんだ。」
まだ夢の中にいるかのように意識が朦朧としているが、間違いなくここはフィーネ姫の部屋。
(・・・・そうだ、フィーネ様は?! )
見るとフィーネは変わらず、ベッドの上で横になっていた。さっきまであったはずの薄っすらと光り揺らめく糸のようなものは、もはやない。けれど様子が先程とは違っていた。
荒い息、頬は紅潮し、額に薄っすらと汗がにじむ。まるで昨夜のフィーネに巻き戻ったかのように見える。
「フィーネ様?! 」
「うち、アメリアさん呼んで来るわ! 」
ユメが部屋を飛び出して行く。
アメリアさんは、フィーネ姫をみるなりエルフ固有の回復魔法をかけると魔力回復ポーションを取り出して栓を抜き、フィーネ姫の口元に当てた。
「これは・・昨夜と同じ。魔力枯渇に似た症状だな。恐らく、魔力を急速に抜かれた事によるものだろう。カスミ殿、何か心当たりは? 」
カスミは自分が見たままを話すのだが、要領を得ない。自分自身、何が何だか判らないので仕方が無いと言えば仕方が無いのかもしれない。
話がフィーネ姫の記憶になるに及んで、アメリアさんが口をはさんだ。
「どちらも王族魔法を放った時だな。む、姫は夢の中で魔法を放出しているのだろうか? 」
自分で口に出したものの、アメリアさんは、それきり黙り込む。仮にそうだとして、使った魔力は? 放った魔法は何処に消えたのか。魔力だけを消費したのか?
「うち、何や気配は感じたで・・? 」
ユメは盗賊ギルドに修行に出ていたので昨夜の事は知らない。ただ、バンドー邸に戻ってきて、いつものように屋根に上がって気配感知を発動したところ、何者かの干渉を感じ取ったらしい。不審に思って結界を張り、室内に入ったところ、固まったカスミをみつけたとか。
「でもなー。敵は見えんかったなー。ごめんやで。」
フィーネの息は先程よりは落ち着いている。
「とにかく、私はフィーネ様になるべく付いているようにする。貴殿らも何か気が付く事があったら私に言ってほしい。」
アメリアさんの言葉に、一同は頷くのであった。




