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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第四章 ティアとバンドーの出会い
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目覚め

マユミ・・すまぬ

ティアの瞳がやる気に満ちている。


「わしのグレーターヒールが効かぬのだ。お主のヒールも効かぬぞ? 」


とは言うものの、ゼフィリヌスは一瞬躊躇する。このティア・アーハイト・ゼノアは特別なのだ。10歳の小娘とはいえ、王国に数ある武闘流派のうちで、もっとも最近、王に創始を許されたゼノ式格闘術の創始者の孫娘。それ故、ゼフィリヌスも目をかけ、今日この場に連れてきた。


「ゼフィリヌス様、お薬を試してみましょう。」


ゼフィリヌスは目を見開く。そう言えば、薬も持ってきていた。治癒魔法を唱えた後に飲ませるつもりだったのだ。効果は滋養と熱冷ましくらいのもので、治癒魔法と併用すると治りが早くなるのだ。


「・・むう。」


ゼフィリヌスの頭の中では目まぐるしく大人の計算がうごめいている。傾きかけている騎士の家はこのまま見捨ててしまうべきであるという考えと、ティアの提案がもたらすであろう、その先の予想を想像する。だが、どちらかに天秤が傾く前に、ティアが自らの提案を実行に移し始めている。


バックパックから薬を取り出し、ケインの口元に近づける。


「・・好きにするがよい。」


ゼフィリヌスは、そう言うのが精一杯であった。


(まあ、努力はしたという事にはなろう・・。)


ケインの口元は閉じ、薬を飲もうとはしない。


「マユミ様? きれいな布はありますか? 」


ティアはマユミから布を受け取ると、薬をふくませ、ケインの口元に持っていく。するとようやくケインはそれを赤子が手をしゃぶるように、口に含むのだった。汗をかいて喉は乾いているのだろう。


「・・ティアよ、わしは次の患者の元に行かねばならぬ。程々にするのだぞ? 」


「はい、ゼフィリヌス様! 」


ティアの、その返事が終わる前に、彼は背を向けている。


それから、おおよそ3日の間、ティアはコモロ家に通い続けた。何度か、ゼフィリヌスは制止しようとしたものの、ティアの決意は変わらない。何より、患者を助ける行為は神殿の仕事であるし、薬代も自費で出すと言われてしまっては、ゼフィリヌスにも止められない。


「こんにちわ、マユミ様! 」


今日も元気にコモロ家の門をくぐる。もはや勝手知ったる感じである。


ケインの顔色も、だいぶ普通になってきていた。このままいけば治ると、ティアは信じている。

今日も今日とて、奥の寝室に入ると、ケインが横たわるベッドに座り、ティアは薬を飲ませ続ける。自分より年下の男の子が、苦し気に顔を歪ます様を放置する事など、彼女にはできないのであった。


そんな彼女の日常は、やがて急展開する。


その日もケインに薬を飲ませ、彼がようやく意識を取り戻したことに喜ぶと同時に、マユミが部屋に入ってきた。


「マユミ様? ケイン君が気が付きましたよ? 」


「ケイン? よかった・・身体の調子はどう? 」


ケインは目を開け、やや身体を起こしてマユミを見ると、言ったのだった。


「・・マユミか? あれっ? お前が何でここにいるんだ? 」


瞬間、マユミは目を見開き、持っていた花瓶を下に落とす。


「くそっ、何だ? 母上? 」


およそ6歳の子供の口調とは思えない。ティアにも何が何だか判らない。マユミは悲鳴を上げて、部屋の外に出て行った。


「ケイン君?! 一体あなたは何を言っているの? 」


残されたティアは激しくケインに抗議する。可愛い顔をして、まるで大人の言い草ではないか。今までケインを心配して、夜も眠れなかった母親に言う言葉ではない。


「待ってくれ・・。くそっ頭が痛い。俺はケイン・ジューダス・コモロ・・そうだよ。痛っ・・」


ケイン・ジューダス・コモロではあった。6歳までの記憶も確かにある。あるのだが、それはあくまで記憶であって、中身は24歳の阪東英一。


いきなり転生して覚醒したのだ。6歳の子供の人となりなど、できようはずもない。


「すまない、しばらく一人にしてくれないか? 」


大人の口調を隠そうともしない6歳の子供を置いて、ティアは部屋を出る。一体何が起こったのか?転生などという言葉も知らないティアである。


「・・あの子は一体? 錯乱しているの? 頭がおかしくなったのかしら? 」


そうとしか考えられない。だとすれば可哀想だ。そうだ、マユミ様は?


「マユミ様? 」


ティアはマユミを探して屋敷の中をうろつく。1階建ての、さして広くない屋敷である。マユミはしかし何処にもいなかった。ようやく、庭の片隅で震えているマユミをみつけ、声をかける。


「マユミ様・・? 」


答えはない。しばらくティアはひざまずくマユミの傍らに居続ける。


「マユミ様・・? 」


「ティアちゃん、今日は帰ってくれないかしら・・。しばらく来なくていいわ・・。」


そう言われてしまっては、10歳のティアには、どうしようもない。聡明ではある故に、分はわきまえている。


ティアは、心の中に判断しようのない塊を抱えながら、コモロの家を後にするのだった。

















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