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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第八章 
132/134

カスミはつよい

ちょっと短いですが、察してどうぞ。想像の翼は、無限だ!

魔神が創った正四角推に閉じ込められ、魔力と気力・スキル全開で抗ってみたものの、バンドーを囲む透明の壁は傷一つ付かなかった。無理に殴り続けた拳は裂け、魔力全開でスキルを相殺された結果、急速にバンドーはポテンシャルを落とす。やがて膝を付き、彼は両手の平を透明なクリスタルに押し付けるようにして動きを止める。


「どうした? もう終わりか? ひょっとすれば、貴様の魔力分解が私の魔力組成を上回るかもしれんぞ? 」


「くっ! 」


その言葉に心は奮い立つものの、魔力は尽きかけていた。


「まあ、私としてはよい見世物であった。こうして貴様が、魔力分解に真に目覚めた事を、直に見て確認できた訳だからな……、それにしてもへたれで阿呆のお前の事、何故、魔力分解に目覚めたのか理解しているのかは疑問だが…… 」


膝を付いたまま、バンドーは視線を魔神に向ける。


「人間の死とは、1個の人格の死よ。貴様の身体の内にあった子供の人格を、お前は10年かけて葬り去った。それ故の覚醒。子殺しとは、罪深いな、バンドー」


面白い物を見るように、口元に笑みすら浮かべながら魔神はバンドーを観察している。


「グアァァァァァ! 」


再びバンドーは立ち上がり、正四角推に抗い始めた。


「お前が、お前がイルミタニア(ここ)に俺を飛ばしたんじゃないか! 何で俺のせいだぁ?! 」


最後の力を振り絞りバンドーは抗う。だが、正四角推は壊れはしなかった。


「まあ、そうだな……さて、今、私がこの腕を一振りすれば、君を地上に送り返す事すらできるのだけど……」


そう言ったきり、魔神は考え事をするかのように宙をみた。


「それでは、余りにも芸がないよね」


目を落とすと、バンドーが膝を付いて肩で息をしている。魔神はまた少し笑い、正四角推のクリスタルをバンドーごと移動する。


「今夜は休みたまえ、言っておくが、この黒曜宮からは今、私の許可なしに出る事は出来ないから、そのつもりで」


正四角推は床をすべるように移動すると壁に近付き、やがて壁の中に吸い込まれる。その行き着く先の部屋で、バンドーは身体を投げ出された。周囲を閉じていた正四角推は既にない。


バンドーはうつ伏せに、絨毯の上に倒れ込んでいる。立てない、というか立つ気力が湧いてこない。完膚なきまでに叩きのめされた。まさに完敗、自分の攻撃は何一つ魔神には効いていないのだろう。


「バンドーさん?! 」


バンドーの肩がぴくりと動く。


「バンドーさん、バンドーさん、バンドーさん、バンドーさん! 」


両手を付き、バンドーは顔を上げた、目の前にカスミがいる。


「どおしたんですか?! どおして?! 」


カスミの手が、バンドーに触れる。


「どうして……私なんかの為に……」


カスミは泣きながら、バンドーにすがりついていた。身体を投げ出して、彼の胸に顔を埋める。


「すまん、ふらふらなんだ。魔力が足りねぇ…… 」


カスミはバンドーにキスをした。思わず、彼は魔力を吸ってしまう。判っていて、カスミは嫌がらない。


(……本物の、カスミか……)


「カスミ、」


バンドーは唇を離し、カスミの両肩に手を添えるとカスミに話しかける。カスミもバンドーの顔を見ている。


「俺は、お前を助けてやれねぇ。俺の能力ちからではどうしようもないんだ。俺では、あいつに勝てない…… 」


その言葉を聞いても、カスミは何も言わない。


「どうしていいか、判らねえ。本当に判らないんだ」


「……バンドーさんでも、無理なんですね? 」


「すまねえ」


カスミがまた、バンドーの肩にすがりついた。そして耳元でささやく。


「いいんです、いつも助けられて、いつもいつも。だから来てくれただけで、こうして来てくれただけで私は……そうだ! 」


顔を離した時に、カスミの瞳に涙は無かった。


「今日はいっぱいお話をしましょう! 私ね、バンドーさんに私の事を知って欲しいんです。一杯! 」


カスミはバンドーの手を取ると、ベッドにいざなう。二人はベッドの縁に腰を掛け、カスミが自分のおでこをバンドーの額にくっ付けた。


「バンドーさんは、何でここに来てくれたんですか? 」


「そうだな、俺はまだカスミの事を知らない。男は、女の1を知ったら10を知りたくなるんだ」


その続き、女は、男の1を知ったら10を知ったつもりになる、とは言わない。そこまで無粋ではない。


二人はずっと話し続ける。カスミは前世パーシィでの事や、何故イルミタニア(ここ)に来ることになったのか、ここに来てバンドーに出会うまでの事。自分がバンドーの事をどう思っているのか、次から次へと話し続ける。


「それでね、最初にバンドーさんの部屋に行った日があるじゃないですか、実はあれ、ヘルミットさんに薬を嗅がされて、すっごい興奮しちゃってたんです! 」


そう言えばやけに積極的だった。そうか、あれはヘルミットの仕掛けだったのか。カスミは頬を赤くしながら、実は私が相談した結果なんですけど、と付け加えて、はにかんだ。


後は、ここに来て以後の事。魔神に苦痛を与えられた事、ラケシスに出会った事。彼女と話した事、その内容を全て。


「バンドーさんに、全部知って欲しいんです。それでね……? 」


バンドーは息を飲む。


「馬鹿な事を言うな! 今あるお前が、そうなっても同じお前と、どうして言える? 」  


「あの怖い人は、私に何度も何度も痛い事をしたんですよ? 」


それは知ってる、さっき聞いた。


「バンドーさん? 」


カスミは強い。弱いように見えてカスミは強い。バンドーの手がいつの間にかカスミの後頭部に当てられている。黒と茶色が混ざったような、ドライヤーを当てすぎた少女のような髪の毛をなで、そして抱える。


大切に、大切に。


二人は時間を過ごした。




















 

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