お荷物アサシンの追放。そして、復讐のカウントダウン
「悪いが、今日限りでパーティを抜けてもらう」
王都の高級酒場の個室。
豪華な金装飾の鎧に身を包んだ勇者・トールは、ワイングラスを傾けながら、ゴミを見るような目で俺を見下ろした。
「お前のアサシンスキルは地味すぎるんだよ、レン。罠解除だの夜襲の警戒だの、これからは俺の【聖騎士の神眼】があればすべて事足りる。これ以上、攻撃スキルも持たないお荷物に報酬を分配する義理はない」
俺――レンは、前髪の隙間からトールを静かに見つめた。
言葉は返さない。ただ、トールの隣に座る女性へと視線を移す。
パーティの聖女であり、トールの婚約者でもあるリリア。
かつて幼馴染として一緒に育ち、俺が影から命がけで守り続けてきた女だ。
リリアは俺と目が合うと、不快そうに美しい眉をひそめ、トールの腕にすがりついた。
「当然よ。トール様の言う通り、今の私たちには世界最高峰の魔術師、聖女の私、人類の希望である勇者様、がいるの。あなたみたいな『ただ足が速くてナイフが振れるだけ』の凡人が隣にいるなんて、パーティの格が落ちるわ。早く消えて頂戴」
その声に、かつての面影は微塵もなかった。
トールの権力と、聖女としての圧倒的な回復魔法に溺れ、すっかり傲慢な怪物に成り果てていた。
「……そうか。分かった」
俺は短く答えると、席を立った。
怒りも、悲しみもない。ただ、胸の奥で何かが冷たく完結した音がした。
「おい、最後に一つ忠告だ」
トールが勝ち誇った顔で鼻で笑う。
「二度と俺たちの前に現れるなよ。お前のような無能、いつでも消せるんだからな」
「ああ、肝に銘じておくよ」
俺は背を向け、部屋を出た。
――彼らは大きな勘違いをしている。
俺が「攻撃スキルを持たない」のではない。
俺が「魔法を使えない」のではない。
俺の固有スキル【絶対不可侵領域】。
それは、『俺の周囲3メートル以内にある、あらゆるスキル、魔法、加護、奇跡を強制的に完全消滅させる』という、世界の法則そのものを書き換える神殺しの権能だ。
これまでパーティにいた時は、味方のバフや回復魔法を阻害しないよう、スキルの発動を極限まで抑え込み、ただの「器用なだけの男」を演じていた。
俺が裏で敵の即死魔法やデバフを無自覚に消し去っていたからこそ、トールたちは「無傷の常勝軍団」でいられたのだ。
酒場を出て、王都の冷たい夜風に吹かれながら、俺は路地裏の闇に溶け込む。
(トール、お前は言ったな。俺のような無能、いつでも消せる、と)
なら、お返しをしよう。
一瞬で首を撥ねて殺すなど、生ぬるい。
お前がその傲慢な顔を絶望で歪め、狂い叫び、のたうち回る姿が見たい。
そのためには、まず何から奪うべきか。
(……まずは、お前の『最愛』からだ)
俺は懐から、一本の無骨な鋼鉄のナイフを取り出した。
魔力も付与されていない、何の変哲もないただの刃。
だが、あらゆる超常現象が消え去る俺の間合い(3メートル)において、これこそが「絶対不可欠な死神の鎌」となる。
標的は決まった。勇者の最愛にして、パーティの象徴――聖女リリア。
神の加護に守られた彼女の首筋を、ただの物理的な刃で切り裂いた時。
世界の希望である勇者パーティが、どんな音を立てて崩壊していくのか。
今から楽しみで仕方がなかった。




