16.目を閉じてキスをしたら、ば。
お付き合いが再び始まって数日。
周りの反応は特にない。
俺も浅間も「また付き合いました」なんて宣言するような事はしなかった。
そんな悪目立ちする趣味もない。
ただ、また一緒につるむようになった事には反応された。
「お前たち仲直りしたのか、良かったな。」
と理科の教師に言われた時はちょっと微妙だったけど。
実行委員だけはニヤニヤとした笑いと共に祝ってくれた。
「これであの企画第2弾もイケる。」
とか言ってたから、それは止めておけと止めておいた。
ただ、こいつに背中を押された事は確かだったので、小さく「サンキュ」とお礼を言ったら、
「いや、俺は全然懐痛んでないからノープロブレム。むしろ浅間の執念に脱帽。」
と謎の返しをされた。
浅間の執念?と意味不明な事を言っていたけれど、事の追及をする前に彼氏さまが登場して俺を連れ去った。
「直行、ごめん遅れた。」
最近俺の事を下の名前で呼ぶようになった浅間との距離は益々近くて、心臓が休まる時がない。
「俺の事も名前で呼んで」と浅間に言われているけれど、何だか気恥ずかしくてまだ呼べずにいる。
スキンシップの多くなる恋人の姿に、恥ずかしいけれどそれだけ自分を求めてくれる事に幸せも感じている今日この頃。
今はまだキスどまりの俺たちだけど、俺たちなりの恋人距離感で進んでいけばいい、と俺は考えている。
昼休み、またしても理科準備室に連れ込まれた俺は、窓際の床に座り込んでいた。
ちょうど窓から差し込む陽の光がポカポカと室内を暖めて眠気を誘う。
隣に同じように壁に背を預けて座っている浅間もまた、昼食後の眠気に誘われているようだった。
何となく浅間の方へ身体を傾けながら目を閉じて時間を過ごす。
何も話さないこんな時間も、今の俺たちには居心地の良いものにほかならない。
本当に暖くて、深い眠りに入りそうになったその時、目の前が暗く陰って唇に柔らかな温もりが触れた。
「んっ……。」
これは浅間からのキス。
目を開けると、穏やかな瞳で俺を見る浅間の姿。
「俺にキスしたの…浅間だろ。当たり?」
なんてあの時を思い出して言ってみたら浅間が弾けるように笑った。
「当たりっ。でもまだ足りない。」
そう言って再び俺の唇にキスを落とす恋人の背に腕を回して、俺もまた深いキスを返した。
目を閉じてキスをしたら、ば。
俺を大好きな恋人が出来ました。
もちろん俺も大好きだけれど。
その内ちゃんと言ってやろうと心に決めて、俺は再び目を閉じた。
おわり。
.あとがき
これで「目を閉じてキスをしたら、ば」を一度完結とさせていただきます。
一度、というのはこの作品、「過激表現」レーティングマークを付けさせていただいているのですが本編はそこまで辿り着くことなく完結を迎えてしまったからです。
私としても2人の初々しい様子からガッツリお付き合い本番まで覗いてみたい気持ちはあるので、番外編、もしくはスター特典などで後日談を書けたらな、と思います。
とはいえ、のんびりお待ちいただけると幸いです。
青春っていいな、とキュンキュンしていただけたら良いな、と思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
さくらスミレ
.☆SS
..1.実行委員からの報告
どーも、実行委員です。
いや、本当、浅間と植田が無事くっついてくれて本当に良かった。
俺だって、責任感じてたんで、マジで良かったとホッとしてる所です。
責任?あるでしょう、俺。
『目隠しキス』企画を考えたのは俺だし、浅間たちを参加させたのも俺なんで。
でも実際のところ、言ってない事も伝えてない事もあるんですよ。
そこ、ちゃんと話した方があいつの為か、なんても思うんです。
あ、これだけじゃ分からないですよね。
そりゃそうだ。
ただ、俺の持ってるカードをさらけ出しちゃうと、後々怖いんで。俺もどうしたらいいのか迷い中とでもいいますか……。
事の起こりは『目隠しキス』企画を考案中。
キスってのがやっぱりちょっと、っていう女子委員の意見もあって、ポシャりそうになったんですよ。
そこにフラッと現れたのが実は浅間だったわけです。
「ねぇ、内田さんと佐竹って付き合ってんの?え、付き合ってないの?2人とも好き合ってるのバレバレなのにな。」
「ああ、この企画に参加させたら?2人の為に後押ししてやってもいいじゃん。クラス公認カップルになっちゃえばきっと大丈夫じゃん。どっちも好きだって薄々感じてんだから参加者に2人連ねて、上手く組み合わせられるように仕込めばさ。」
「え、それじゃ八百長じゃんって。いいじゃん、これ、打ち上げ企画だろ。盛り上がればオッケーじゃねぇ?」
浅間の話に恋愛話の好きな女子たちは色めきたった。
そこに正義があるかどうか。倫理的な問題はどうかなんて彼女たちの頭からポイッと落ちていったのが(幻想だろうけど)よく見えた。
まぁ、それでもかなり迷ったんだよ。
ゲームの内容も内容だったし、そこにデキレース的な要素が入ってしまうとゲームの公平性だったり後でバレた時に問題になるんじゃないかって思ってさ。
でも、結局”打ち上げ企画だし””クラスメートの恋愛成就のお手伝い”って言葉に「まぁいいか。」なんて思ってみんなオッケー出したんだよね。
今思うと、浅間があそこでふらりとクラスに入ってくるのもおかしいし、あんな風に企画に口出しするのもおかしな話なんですよ。
だって、浅間って1軍男子チームには所属?してるけど実際一歩下がり気味だというか。人当りは良いから来るもの拒まずって感じで笑って話している姿をよく見るけど、あれ絶対合わせてるだけだろうって思うわけ。積極的に関わる事をしない感じ。
え、何でそう思うかって。
だって全然目が笑ってねぇもん。口元だってアルカニックスマイル?
雰囲気笑い、愛想笑いって感じ。
そんな、本当はこっちのやる事に興味も関心もないはずの奴があんな風に口出ししてくるんだから何かあるって思った方がいい、と俺は。俺だけは気を引き締めてたわけ。
そしたらドンピシャ。
後で浅間から自分も参加する。他にも誰か誘わないか。植田とかいいんじゃねぇ、つまんなそうにしてるし。
って言ってきたわけ。
もうね、それを聞いた時ピンと来たね。
ああ、浅間って植田の事好きなんだって。
まぁ、俺の兄貴の事もあるし。俺はそういう事に鼻が効くんだ。
それでも追及なんてしなかったよ。そんなセンシティブでその上超個人的な話。
浅間から相談してくるならまだしも俺が突っ込んで良い話題じゃないから。
それでも、俺が勘づいたの気付かれてさ。
それとなく圧かけてくるんだもん。
浅間って本当は腹黒キャラだったんだ、とまざまざと感じたね。
結果、俺も企画成功の為、植田を売ったような気持ちになってたから、ずっと2人の事が気にはなってたんだ。
俺が提案したカツサンドやチョココロネなんかは、実は浅間のほうから言ってきた事でさ。
軍資金の出資元は浅間だったから俺の懐はまったく痛める必要もなく。
まぁ、毎日の争奪戦はめちゃめちゃしんどかったから、やっと約束の2週間が終わってホッとしたのは確か。
契約期間が終わる前に2人が別れちゃったのは誤算だったけど。
周囲にあんだけアピールしてた浅間があっさり植田と別れた事のほうが驚きだった。
植田って地味じゃん。
素材は悪くないのに性格のせいなのか前に出る事もしないし。
話せばいいやつで、空気も読めるから友達として付き合うのに最適な感じ。
だから実は満遍なく友達は多かったと思うんだけど、浅間と付き合ってる間はあいつがべったりだったからね。
周囲を寄せ付けないってこういう事、って思ったわ。
もう隣をキープは当たり前だったし。何なら植田の視線を独占、とか思ってたのバレバレ。
だから絶対別れたりしないと思ってたんだけど。
植田から「俺たち別れたから」って一応報告を貰ったのはビックリしたけど、その後の植田の落ち込み度がすごかった。
浅間の方は前のメンバーに復帰したみたいだったから植田のぼっち具合がより際立ってたけども。
それでも、浅間の圧?周囲へのけん制って有効だったのかもな。
2人がべったりじゃなくなっても、何となく植田の隣は浅間って図式が出来上がってて、周りは植田に近づけない雰囲気あったし。
浅間も女子と笑ってるのに、俺がちょっと植田と話してるだけで何かこえーオーラ出してくるし。
あのなぁ、俺、お前たちのキューピッドだぞ。
もっと敬えよな。
と後日浅間に言ったら。
「キューピッド?俺と直行はそんなものいなくても恋人になってたんだよっ。」
とキレ気味に言い返されたけども。
あ、直行って呼んでるんですね。
あ、もう『恋人』って宣言なさってるんですね。
と若干遠い目になったけど、植田も顔を真っ赤にしながらも満更でもなさそうだったから良かったんだろう、多分。
何はともあれ、浅間の執念深い、粘着質気味な恋が成就して本当に良かったと思う。
兄貴のパートナーにその話をしたら「その子大変だねぇ」と同情の声を貰ったけれど。
「何かあったら相談に乗るからって伝えておいてよ。」と言われてもいるけど、彼氏さまのOKが出なそうで今はまだ保留にしておこう。
と、まぁ。
俺がちょっとだけ関わったカップル成立の顛末は以上。
結論としては…‥
これからも仲良くしていてくださいよ、って事。
企画第2弾のためにも、なっ!!
おわり
これで完結になります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




