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【連載版】最低な噂をお持ちの侯爵閣下と契約結婚しましたが、それはさておき義娘がとてもすごくかわいい  作者: 紬夏乃
第二章 イヤイヤ期もなぜなぜ期も、あなたと共に

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貴婦人として




「――良いでしょう。よく励みましたね、セシリア」


 ラウテル家で用意したふたりきりの茶会。向かいに腰掛けたカルラ様が、ティーカップを優雅に下ろし微笑みを浮かべる。


「お褒めいただき光栄に存じます、カルラ様」


「今のあなたであれば、何処へ出しても申し分ありません」


 昼食会から庭の散策を経て茶会に。優雅な交流会のようでいて、これらはカルラ様から課せられた試験だったのだ。最後まで気を抜くべきではないのに、ついほっと息を吐いてしまう。


「ふふふ。緊張しましたか?」


「それはもう。最上の師を前に弟子が不出来では、顔向けができません」


「まあ」


 カルラ様が柔らかくころころと笑う。ひれ伏したくなる包容力だ。


「好みの茶葉は見つかりましたか?」


「それが、まだ。茶葉の味の違いが難しくて……渋みの強い弱いくらいなら分かるのですが……」


 味覚も嗅覚も、鍛えなければ差を繊細に感じ取ることができないのだ。知識を丸暗記することで対処している。茶には色がついていれば上等としていた私は思わぬところで躓いてしまった。基本的に『全部おいしい』と思うばかりで……茶葉の奥に含まれる花や果実の香りを感じ取れるようになるのはいつのことやら……


「話題のひとつとして、持っておくに越したことはありませんからね。急がずとも構いませんが、いただいたときにどこの産地の茶葉であるか知覚できるよう、教練してゆきましょう」


「はい、カルラ様」


 幼児の味覚は繊細と聞く。教育を受ける年齢になれば、アルベルティナはあっという間に茶の良し悪し、味や香りを目利きするようになるのだろう。……母として負けてはいられない。頑張ろう、なんとしてもアルベルティナよりも先に……! 心の中で拳を握りしめる私に、カルラ様がおっとりと微笑んだ。


「アルベルティナはどう過ごしていますか?」


「元気にしております。おしゃべりが上手で、二語で話すようになったのです」


「幼子の成長は早いものですね」


「ええ、本当に。髪も伸びてきたので、最近は髪を結ったり、リボンを結んだりできるのです。それがもうかわいらしくて、楽しくて」


「そうですか。では次の機会に、わたくしからもリボンを贈りましょう」


「まあ! とてもたのしみです」


 カルラ様が選んでくれるリボン。とても素敵なものに違いないと心弾ませていると、カルラ様が口元に手をあて憂いげな息をひとつ落とした。


「あなたのような人が来てくれて、エルンストは幸せ者です。……まったく、あの子もなぜあのような短慮を起こしたのか」


 ――カルラ様はアルベルティナの出自をご存知でない。それどころか、シルフィア様の死が偽装であることさえご存知ないのだ。先代様は実の妹であるカルラ様まで欺かれていた。秘されたことを私が明かせるわけもない。度々起こるこの話題には口をつぐむことしかできず、私はやんわりと笑みを浮かべた。


「……ああ、困らせてしまいましたねセシリア。年を取ると繰り言を言っていけませんね」


「いいえカルラ様。お気にかけてくださることをうれしく思っております」


 出自を伏せているにも関わらず、カルラ様はアルベルティナをラウテル家の娘、ご自身の正式な又姪であると認めてくださっている。大叔母として分け隔てなく接してくださるのだ。時折エルンストにちくりとするところには年長者としての愛情を感じる。公平で情け深いお人柄を慕わずにいられない。


「今後についてですが……そうですね。一度わたくしのサロンにおいでなさい。見聞を広める機会となるでしょう」


「よろしいのですか?」


 カルラ様のサロンは社交の場として有名だ。作家や芸術家、哲学者、学者など多彩な知識人が集まって、議論や芸術活動を行なっているらしい。様々な文化を生み出す場に私が誘っていただけるなんて。


「もちろんです。セシリア、多くを持つ者は、分け与えることが肝要なのです。才能ある者を見出し、人を仲介する。これと気に入ったものがあれば、自らパトロンとなるのも良いでしょう。今後はあなたもそうしていかねばならないのですよ」


「……私にできるでしょうか」


 自信がない。まだ自分のことで精いっぱいだというのに。肩を落とす私に、カルラ様が優しく声をかけてくれる。


「殊更難しく考える必要はありません。まずはあなたが興味のあるもの、欲しいと思うものを見つければ良いのです。そこには必ず作り出す者がいるのですから」


「はい、カルラ様」


 ……欲しいもの。私が欲しいものはなんだろうか。アルベルティナにかわいらしい格好をさせたいと思う。なら、好みのドレスやレースを生み出す者を支援すればいいのだろうか。玩具もいいかもしれない。幼い子供に向けた玩具を作る職人を支援したり、あるいは『こんなものが欲しい』を実現させたり。


 アルベルティナの肖像画も欲しいと思う。才能ある画家のパトロンになるのもいいのかもしれない。――そうやって考えてみれば怯むほど難しくはないように思えて、気が楽になる。


 向かいで微笑むカルラ様を見つめる。頼れる師がいることに感謝しながら。




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