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【連載版】最低な噂をお持ちの侯爵閣下と契約結婚しましたが、それはさておき義娘がとてもすごくかわいい  作者: 紬夏乃
第二章 イヤイヤ期もなぜなぜ期も、あなたと共に

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重ねる日々




 エルンストと手を重ね、家族になろうと微笑み合ってからしばらく経った。……あの後は本当に大変だった、と思い出してはつい笑ってしまう。アルベルティナは『知らない人間に触られた!!』と言いたげに大泣きして、エルンストは両手を上げながらうろたえて。私は『ティナちゃん、お父様ですよ』とアルベルティナを必死にあやした。もう、あの時のアルベルティナといったら『きちんと隠れていたのに何故だ!!』とばかりに憤って……私の腹に顔をうずめていただけだっていうのに。


 小さな子供は、自分が見えていなければ相手にも見られていないと思うのかしら……しみじみかわいいと思う私の前では、エルンストとアルベルティナが向かい合っている。


「どうした、アルベルティナ」


 エルンストをじっと見つめ、無言で両腕を上げるアルベルティナにエルンストが真面目に問いかける。まあ、私の家族はふたりともなんてかわいいのかしら!


「抱っこをねだっているんですよ、エルンスト」


「なるほど。よし、おいでアルベルティナ」


 両脇に手を差し入れ、エルンストがアルベルティナをひょいと抱き上げる。アルベルティナがキャアア! と高い声を上げてはしゃぐ。エルンストは背が高いから、いつもより高くなる目線がたのしいのだろう。


「……柔らかいな。伸びた気さえする」


 しみじみと呟くエルンストがおかしくて、つい吹き出してしまう。そうね、猫を抱き上げたときの感触を思い出す気がするもの。


「高く持ち上げたり下げたりしてやれば、もっと喜びますよ」


「こうだろうか」


 真剣な顔つきで、エルンストが慎重にアルベルティナを上げ下げする。


「キャアーア! キャッアキャア!!」


 アルベルティナが大声で笑う。エルンストも目元を和らげ、アルベルティナに微笑みかける。


 ――ずいぶん慣れた、とうれしく思う。エルンストはあの日から、いくら大泣きされてもめげずに毎日時間をとって私と共にアルベルティナに会ってくれた。まだ少し人見知りしているようで、エルンストの前ではなかなかおしゃべりしてくれないのだけれど、それも時間の問題だろう。


 木馬を揺らし続ける遊びに、『どうぞ』『ありがとう』の繰り返し。同じ絵本を延々と読み続けることや、積み木を積み上げて崩す遊び。よく飽きないものだと感心するくらいひとつの物事を繰り返すアルベルティナの遊び方に付き合わされるエルンストを想像すれば、たまらなく幸せで愉快な気持ちになる。ちなみに積み木を積み上げるのが私や使用人の仕事で、崩すのがアルベルティナの仕事だ。


「奥様、お支度のお時間でございます」


「もうそんな時間?」


 エルンストが執務を終えて、夕食の支度が始まるまでのわずかな時間。それだけが、エルンストとアルベルティナが触れ合える時間だ。私が夕食の身支度のために退室すればアルベルティナの夕食が始まるし、私たちが夕食をいただいている間にアルベルティナは寝支度を整え眠ってしまう。幼い子供が寝る時間は早いのだから当然なのだけれど、次の休日が待ち遠しくなる。天気が良ければ、庭を散策しようか。


「おやすみなさい、ティナ」


「ばいっばい!」


 使用人に抱かれ手を振るアルベルティナに顔が緩む。かわちい〜! もう一回ばいばいして〜!!


 そっと、隣でアルベルティナに手を振るエルンストを覗き見る。……夕食の際にはきちんとフォーマルドレスに着替えるけれど、私は普段アルベルティナと触れ合うとき侯爵夫人とは思えない簡素な格好をしている。それに対してエルンストは何も言わない。むしろ、幼子の相手をするのだからと納得している素振りすらある。


 言葉数は少ないし、今もふいに話しかけると覚悟を固めるような顔を見せる。でもそれも裏を返せば、私の意思を尊重してくれている証であったり、何が起こったとしても対処してくれるであろう安心感に繋がっている。


「……どうかしただろうか?」


 頬を緩め見つめる私に気づき、エルンストが少し首を傾げた。


「いいえ。私はなんて果報者かしら、と思ったのです」


「それは私こそだ。あなたの存在に日々感謝している」


 もう、肝心な言葉は惜しまないんだから! 気恥ずかしくなって、私はごまかすように頭を下げる。


「それではエルンスト、また夕食の席で」


「ああ、後ほど」




 あんなに苦心した会話は、アルベルティナのことを話せば自然と弾むようになった。温かな日々を重ねるうちに、アルベルティナはエルンストに慣れ、懐いていく。


 アルベルティナの遊びに根気よく付き合うエルンストを眺めると幸せで、揃って庭を散策すれば自然と笑い声が上がった。


 私はそんな穏やかな日常がずっと続くのだと、心の底から信じられる日々を過ごしている。




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