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ウーサーキングスと大魔導士

 サリアちゃんは迷宮ウサギの猛攻に拮抗していた。


 正確に大鎌の攻撃を捌く姿は、ボクから見たらもはや人間の動きとは思えない。


 しかし防戦一方なのは間違いなく、サリアちゃんの表情にも焦りの色が見えていた。


「……リーナ! なんか私の動きがおかしい! 何かわからない!?」


「は、はい! ……どうやらこの空間。私達に妙なデバフがかかるみたいです! 対象外なのは……たぶんウサギです!」


「はぁ!? ウサギ!?」


 すぐさま分析したリーナさんはボクとボクのウサギさんを見ていた。


 まさかそんなまさにウサギさんダンジョンにふさわしいギミックが!?


 今までのダンジョンを見ていたら納得の仕事である。


 でもちょっと待って? そんな状態で迷宮のウサギにサリアちゃんこれだけ動けるのすごくない?


 ボクの些細な疑問は、激しい攻防の騒音に飲み込まれて消える雑音である。


「どういう理屈で!? ……なら、ちょっとやり方変えるか、いいね!」


 サリアちゃんの号令に合わせて、剣聖ウサギさんが立ち位置をスイッチする。


「今日はあんたが前に出て、私がサポートで!」


 剣聖ウサギさんは気合を入れてフンスと鼻を鳴らし、前に出た彼は面構えが違っていた。


 ボクはハッとする。


 そう言うことならボクにもまだ出来ることがあった。


 ボクはうさキングの書を開いてアイテムを取り出すと、黄金色に輝くニンジンをサリアちゃんに向かって投げた。


「……これ! ウサギさんに食べさせて!」


「! わかった!」


 多くを語る必要はなかった。


 受け取ったサリアちゃんがすぐにそれを剣聖ウサギさんに食べさせると、黄金色の輝きがウサギさんの毛皮を包み込む。


 毛皮が金色に輝く姿はウサギさん専用アイテム”黄金のニンジン”の効果である。


 その潜在能力を大きく引き出し、ギフトの力を最大まで震える驚異のアイテムだ。


 時間制限はあるが、これで大きくウサギさんの力は上乗せできたはずだった。


「おお! うちの子が金色に! ウーサー! これって強くなったんだよね!?」


「……かなり!」


「じゃあバッチリ!」


 嬉しそうに笑うサリアちゃんは駆け出し、剣聖ウサギさんもサリアちゃんの前に出るように迷宮のウサギに飛び掛かった。


「……がんばって」


 ボクはじっとりと手のひらに汗が滲むのを自覚する。


 敵の迷宮のウサギの強さは誰よりも知っているつもりだ。


 アレは本来であれば必ずパーティで挑むダンジョンボスを単騎で狩る能力がある。


 このダンジョンの道中でも感じたことだが、ウサギさんは強力なギフトを模していても、本家よりは一歩劣ると言わざるをえない。


 黄金のニンジンでどれほどその差を埋められたのか?


 はっきり言って未知数だが希望は薄いと思われる。


 ボクが考えを巡らせている間にも迷宮のウサギは力を溜めているのが分かった。


 最高の跳躍をするための予備動作にボクは目を細めたが、飛ぶ瞬間はとても視認できなかった。


「……体は……誰も切られてはいない」


 だがボクの迷宮のウサギさんが防いだ時と同じような音がした。


 両耳を押さえて蹲りたくなるような一瞬で何度も聞こえる金属音は、剣聖ウサギが防ぎ切ったという証拠だった。


「……す、すごい」


 ボクが迷宮のウサギに対抗した剣聖ウサギさんに感動していると、今度はリーナさんがボクの肩を叩いた。


「えっと……いいですかウーサー君」


「!……はい。なんです?」


「ち、ちょっと無茶な話なんですが、ウーサー君に協力してほしいことがあるんです」


「……ボクに何かできます?」


「は、はい。この部屋の奥にあるあの玉座みたいな椅子なんですけど……何かあるみたいです」


「……あの椅子?」


「たぶんウーサー君のギフトに関係する何か、だと思います。これから私達があのウサギ達を止めるので、ウーサー君はチャンスがあったらあの椅子を探ってみてください」


 真剣にそう言うリーナさんの言っていることは理解できる。ダンジョンのギミックについても彼女が言うのならやってみる価値はあると思う。


しかし、何より気になった部分は別にあった。


「……迷宮のウサギを君が止めるの?」


 サリアちゃんがかろうじてやっているそれをリーナさんもやると?


 それはさすがに無理なのではと喉元まで出かかった。


 驚愕したボクだったが、リーナさんは確かに頷いていた。


「は、はい。たぶん大丈夫」


「……本当に?」


「大丈夫ですよ。私達は攻略を約束しました。ならどんな相手だろうと勝つだけです」


 彼女の言葉にボクは本当に驚いていた。


 初めて出会った時の、人間関係に怯えていた同世代の女の子は、どこにもいない。


 サリアちゃんを信じ、勝利の方法を考え続けている彼女は、もうすでに立派な冒険者だった。


「私もやるよ。私のウサギはー……まだ活躍できるかわからないけど。私にもさっきのニンジンくれる?」


 そして、首の血なんて気にも留めずに言い切るトトさんもすでに立ち直って、迷宮のウサギを睨んでいる。


 ビビっている場合じゃない。ボクは強くそう思った。


 信じているという自分のセリフが口だけになるのは、ボクとしてもどうにも我慢ならない。


 ボクは二人に黄金のニンジンをそこにいるウサギさんの数だけ差し出した。


 ここがボクの全てを賭ける勝負時。


 ならば出せるものはすべて出す、それはボクの命も含めてだ。


「……これを。ボクも頑張ってみます」


「よ、よろしくです。じゃあ始めます!」


「早く! こっちはもう頑張ってんだから!」


「す、すみません! 今すぐに! さぁみんな出番ですよ!」


 リーナさんは自分の前に手持ちのウサギさんを並べて、迷宮のウサギを睨んだ。


 しかし彼女達はどうやって迷宮のウサギさんのスピードに対抗するつもりなのか、そこまでボクに想像することはできない。


 サリアちゃんは驚異的な身体能力で迷宮のウサギの動きに対応しているけれど、リーナさんにそれが出来るとは思えない。


 彼女の持っているウサギさんは彼女を守り、敵を引き付けるための編成のはずだ。


 今彼女が前に出したのは大きなつばの三角帽子をかぶったウサギさんだった。


 感じるのは強い魔法の気配。


 これは完全に魔法に特化した大魔導士ウサギさんである。


「敵は物理、スピード特化……今はサリアちゃんに気を取られてます」


 リーナさんの呼びかけに、大魔導士ウサギさん達は一斉に黄金のニンジンを齧って金色の毛皮を逆立てた。


 掲げた杖から魔力が迸ると、敵の迷宮ウサギも動き出す。


 身をかがめ飛び掛かって来るかと思ったら、迷宮のウサギはすごい勢いで沈んでいた。


「……!一体何が?」


「ど、泥沼の魔法ですよ。すごく速いってことは、相応の力で踏み込んでいるんでしょう? だから踏み込みに合わせて足下を底なし沼に変えたんです」


「……へぇ」


 言っている間に大魔導士ウサギさんの猛攻は続いた。


 すごい勢いで沼に沈んだ迷宮のウサギだが動きを止められただけではなく、なんだか怪しい髑髏マークが沢山浮いていて、とてもしんどそうである。


 それをやっているのはウサギさん達で、オドロオドロしいオーラは魔法の物に他ならない。


「あ、足止めは何も前衛の専売特許じゃないんですよ? 魔法で足止めして、戦士がとどめを刺すパターンだって当然あります。実は私―――そっちの方が好きなんですよね」


「…………へぇ」


「―――では、仕上げに大魔導士の力があのウサギにどれだけ通用するか……試してみましょうか」


 どうとはいわないが……今のリーナさんは大魔導士というよりも魔女っぽいな、なんて感想が浮かんだ。


 とても頼もしいんだけれども、強そうだとは思うんだけれども……・


 ウーサー=キングスはもちろんビビってなんかいない。そう―――あまりの頼りがいに気おされた、勝負の瞬間一秒前だ。


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