ウーサー=キングスと最後の部屋
決意を固めるボクをトトさんは不思議そうな表情を浮かべて見つめていた。
「……本当に、ウサギさんが……そのギフトが好きなんだね」
ボクはトトさんの顔を見る。
何でそんな顔でボクを見るのかよくわからないが、ギフトが好きかという問いの答えはもちろん決まっていた。
「……はい。大好きです」
「そ、即答できるのは、なんというか、羨ましいな」
「……羨ましいですか?」
ボクと同じように希少なギフトを持つトトさんからそう言われるのは変な気分だ。
トトさんは問い返すボクに曖昧に笑い返した。
「うん。私はなんだかんだ……未だに迷っちゃうというか。重荷に感じることがあるから」
「……でも、ギフトは自慢何でしょう?」
「うん。もちろん。もう折り合いはつけてるよ。みんなの役にたててると思うし、胸を張れるようにしてきたつもりなんだけど……こう、疑問がないわけではないわけで。ギフトに身をゆだねるのはなんだか怖いなって」
トトさんは勇者のギフトを持っていることに、悩んだ経験があるようだ。
受け入れることはできたようだが、未だ運命のようなものに翻弄される違和感は持ち続けているのかもしれない。
ボクだって、考えたことが……なくはなかったが、重く考えたことは残念ながらないので気持ちがわかるとは言えないが。
「……ボクは、そうですね。ギフトは生き甲斐ですので。ウサギさんも好きですし」
「ウサギはかわいいと……思う」
そうウサギさんはかわいい。ボクの意志に関係なく送られたギフトだとしても気に入っているのだから問題ない。
ただそれが極端な意見であるという自覚はあった。
「……サリアちゃんはどうですか?」
「サリアちゃんいうな。そうね。私は……特に迷いはないね。元々冒険者になりたかったから強いに越したことはないかな?」
何をいまさらなことをとサリアちゃんは笑い飛ばす。
サリアちゃんの場合は、やりたいこととギフトががっちりと噛み合っている。
それは見ていて迷いのなさからもうかがい知れた。
ただ一方で、リーナさんの方はトトさんの気持ちがわかるようだ。
「わ、私は……ちょっと困りました」
「そうなんだ」
「は、はい……魔法は好きだけど、どちらかと言えば実戦より学んでいる方が好きだったので。魔法の研究者を名乗るには、大魔導士のギフトは強力すぎました」
確かに大魔導士は強力な攻撃力を秘めたギフトだ。
ダンジョンやモンスターに特別なアドバンテージを持てるギフトは事務職をするには強力すぎる。
その点トトさんも同意した。
「そうなんだよ。強いギフトは役割が決まっちゃうところがあるから」
「……そうですか? お店で働いてるザインさんは暗黒騎士のギフトですけど、人気のカフェ店員さんで、ウサギさん大好きクラブの仲間ですよ?」
「ウサギさん大好きクラブ……」
「……ボクが思うに、ギフトは本当に贈り物で、どう使うのも自由なんじゃないかと。大切なのは何をしたいかです」
「そうかな?」
「……たぶん」
たぶん。少なくともボクはそうあって欲しいと思っている。
ボクはうさキングのギフトがなくともウサギさん好きであったはず。
他のみんなも例え今のギフトがなかったとしても、何かしらで頭角を現していたと思うし、かっこ悪い想像が浮かばなかった。
「じゃあ。あんたは何をしたい?」
サリアちゃんがボクに訊ねる。
偉そうなことを言ってしまったが、ボクの望みなんて最初から決まっていた。
「……ボクのやりたいことなんてたいしたものじゃないです。ただ、ボクのうさぎさんを世界中のみんなに相棒にしてもらって、ゆくゆくはウサギさんの住む一大拠点を作って楽しく暮らすのです」
「「「……」」」
それってば大したものなんじゃないか? いやそれどころか、世界征服のような話なのではないだろうか?
そんな風に彼女達が思っているとはつゆ知らず、ウーサーキングスは夢のような光景に思いをはせて頬を緩ませた。
ただボクの熱意は、少し違う形だったかもしれないけれど伝わったらしい。
渋っていたトトさんもリーナさんも、ちょっと苦笑していたが、提案を受け入れてくれた。
「なるほど……わかった。じゃあ行こうこの先に」
「わ、私も了解しました。でも条件を満たさないと倒せないなんて場合だってあるんです。旗色が悪かったら撤退ですよ?」
「もちろん。ありがとね二人とも」
「……うん。よろしくお願いします」
セーフゾーンには二つの扉があった。
一つは入って来た入口の扉。
そしてもう一つは先に進む扉である。
用意した料理は綺麗になくなり、お腹いっぱいで気力は十分。
ボクはウサギさんを召喚して、ボクの責任として先に進むために扉を開けることにした。
ゆっくりと開けた扉の向こうは、予想通りボス部屋に通じていた。
そこにいたモンスターはたった一羽。
長い耳の小さなウサギだった。
目つきが鋭い真っ赤な瞳のウサギさんは漆黒の毛皮に、武器に向いているとは思えない大鎌を携えている。
ほっと息を吐き剣を構え、一歩前に出たのは前衛のトトさんだ。
「なんだ、一匹なんて拍子抜けだ。アレならどうにか―――」
「―――ダメだ。あのウサギとは戦っちゃ!」
「―――え?」
ボクは咄嗟にそれを召喚する。
とたん無数の残像と、火花が部屋中で弾けた。




