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あの世でも笑う男

「何がおかしい」




 直家が死んでから二十五年後の江戸城で、一人の男が笑っていた。




「だって父上、こんな笑える話そうそうないじゃありませんか」

「何がだ正純」

「何がって、宇喜多秀家ですよ」


 六年前、関ヶ原の戦いに敗れた宇喜多直家が嫡子秀家が八丈島へ流されたのはついこの前の話である。


「直家と言う男があれだけ汚い事を重ねて成り上がったのに、その顛末が八丈島の流人ですよ。全くあの世の直家がどんな顔をしているか考えるだけで」


 家康の家臣、本多正信は笑いをこらえられないと言わんばかりの長男正純の脳天を扇子で引っぱたいた。


「悪趣味だぞ」

「それはそうですけど」

「それにな、直家があの世でどんな顔をしているかだと?そんなの笑っているに決まっているではないか」

「ええっ……」

「直家ほどの人間がな、この展開を予想できなかったとでも思うのか?」


 秀家が生まれた時、直家は既に城持ちの大名であった。


 そして直家が死んだ時秀家は十歳であったが、十二歳で父を失い家長の責を負わされた直家と違い秀家は豊臣秀吉から寵愛を受けていた。要するに秀家は直家と違い乱世の苦さ汚さを身を持って体感する事無く成長して来たのだ。


 秀吉により立派に治められる世の中ならそれでもいいかもしれない、しかし戦乱が戻って来た時そうやって大事に育てられて来た人間が果たして対応できるのか。


 そのような危惧や不安と言うより想定とでも言うべき物が、直家の頭の中にあったとしても全くおかしくない。


「なるほどそうなったのか、大方そう思いながら見ているのだろう。自家の没落についてもまあ自分がいろいろやって来た結果だし仕方がないかぐらいにしか思ってはおらんのだろう」


 秀家の後に備前には言った小早川秀秋は二年で病死し、今は池田忠継と言う家康の孫が備前を治めている。

 四年足らずで岡山の主が二回も変わったのである。

 乱世を終えようとしている徳川家としては余り面白くないが、乱世を経験している身からすれば実に面白い状況である。

 骨の髄まで乱世に染まっていた直家と言う男がこれを面白がらないはずがあるだろうか。


「はるか先、徳川の天下が潰えたら秀家の末裔が戻って来るかもしれん」

「それは我らの手で潰えさせないように」

「所詮型ある物はいずれ滅びる。あるいはあの男、自分の血筋と徳川の天下、どっちが先に終わるか楽しんで見ているかもしれぬ。おそらくは笑みを浮かべながら……」

「どこまでも恐ろしい男ですね」


 直家の恐ろしさに気付き戦慄した正純は顔を引き攣らせた。


 先程までの笑い顔はもはや何処にもない。


「とにかくだ、我らはこれから直家の様な男が要らない世を作らねばならないのだ」

「わかりました父上、共に頑張りましょう」








(私が要らない時代か……面白い。やってみせろ)


 直家があの世で笑みをこぼしながらそう呟いたか否かは誰も知らない。


 されど、宇喜多直家と言う死ぬ間際まで笑い続けた男がいた事だけは、誰にも覆しようのない厳然たる事実だった。

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