008 ちょっと様子がおかしいな?
最近とても忙しく、執筆が難しい状況にありました。
これからも生活に支障が出ないよう、コツコツ書いていきたいと思います。
投稿のスパンが長くなってしまいますが、ご容赦ください。
おー、エルムとエルラの情報がくる。
まるで自分が動いているみたいだ。
にしても、凄い速さで草木が横を過ぎて行く。
自転車を強めにこいでるぐらいかな?
これならすぐに着きそうだ。
お、見えた。
って、えぇ!?
思いっきり攻めらてますやん。
おいおい、相手が突っ込んで来てるのにエルフの対応が鈍い。
〔エルム!今すぐ相手を足止めしろ!〕
〔了解しました。〕
ズバンッ!!
エルムは清々しいほど綺麗に、大地を叩き割った。
うん、コワイ。さらりとやってのけたな。
相手とこちらの間に、クレバス並の裂け目が一瞬にして形成されたのは見間違えかな?
相手の足止めどころか、物音すら止まったんだが?
いや、頼んだ通りの結果になったから今のうちに立て直そう。
「父上?それにエルラ?」
その言葉に2人は振り返った。
背を向けていたのは、相手警戒してたからかな。
お、こいつがエルムの息子か。確かエルオだったか?
信じられないものを見たような顔をしてんな。
まあ、そうなるわな。エルム達、別人に見えるもんな。
「エルオよ。よく耐えてくれた。」
「お父様。御心配をかけてしまい本当にすみませんでした。」
エルムは礼を言い、エルラは頭を下げた。
エルオは口をパクパクさせただけで何も言えなかった。
鯉みたいだ、と思ったが失礼だな。それより……
〔ヘリス様、これは話し合いができるのでは?〕
うーん。話すなら今だよなー。
近接戦闘はエルムがいるから近づいても問題ないけど、話しを聞く連中かな?
〔とりあえず、呼びかけてみて様子を見よう。〕
〔はい。〕
「そちらのリーダーと話がしたい!」
エルムは大音声で相手に話しかけた。
すると、相手の一人がそそくさと後方へ走っていった。
他の人はまるで困惑しているようだ。
あれ、思ったより話しが通る?エルムに慄いたか?
しばらくすると、後方からいかにもリーダーらしい男がやって来た。
「その話し合いに応じよう!」
こちらもなかなかに大きな声だな。堂々としている。
「総員、武器を収めよ!」
何でこんなにポンポン進むんだ?
普通に相手、武器しまってるし。
警戒はしとくべきだな。
〔こっちも同じようにしよう。もし何かあっても、エルムなら余裕だろ?〕
〔はい、ヘリス様にいただいた、この「樹木刀」があれば無敵です。
武器をしまうよう、エルオに伝えます。〕
謙遜はしないのな。いつの間か名前までつけてるし…
エルムはエルオに向き直り、
「エルオ、これから話し合いに入る。皆に武器を収めるように言ってくれ。」
「は、はい。」
エルオの指示でみんな武器をしまったようだ。
よし、
〔エルム、相手の狙いを探ってくれ。〕
〔わかりました。〕
2人は歩み寄って行き。エルムは軽く裂け目を跳び越えた。………大概の人間は、走り幅跳びで届くかどうかの距離だけどな!今更だな。
「私はエルム=ワルドだ。」
あ?相手の眉がピクッと少し跳ねたな。
「私はテトリア駐屯騎士団 の団長、ハルドである。」
テトリア、ね。……知らん。
〔テトリアってどこだ?〕
〔ヘリス様、それはここから最も近い大きな都市だと聞いています。〕
おう、エルラが答えてくれた。…あ、忘れてた。
〔エルラ、皆に治癒の実を配ってくれ。〕
〔はい、すでに配り始めております。〕
…状況が変わっても自分で行動できるってことは、意識がどうのと考えてたのは杞憂だったか。
フォローしてくれたし、
〔エルラ、ありがとう。〕
〔ーーーー〕
あれ?返事が返ってこないな?
「これはこれは団長殿、一体どのようなご用事で?」
おっと、そうだった。
ハルドと言ったか、団長と名乗ってるけど防具を着けてないからわからない。胡散臭い。
「…………」
顔を顰めてるな。
「何故、あなた方は一方的に木を切り倒しながら森に入ってきたのか?」
「………………」
ますます歪んで、何か泣きそうになってるのは気のせいか?
「お答え願いたい。」
「…………………………ま。」
ま?
「誠にもうしわけないっ!」
えぇぇぇぇえ!?土下座ですか!!
「本当にこの通りだ!!」
しばらく、頭を地面に擦り付けっぱなしだった。
いやー、びびるわー。
膝が地面につくより足を曲げる方が速いから、ジャンピング土下座みたいだったし。
聞いてた限りでは完全に悪者だったのにな。
〔エルム、詳しく聞いてくれ。〕
「顔を上げて、事の経緯をお聞かせ願いたい。」
「は、はい。」
曰く。
あるところに、位の高い方の御令嬢がいました。
その少女は明るく優しい、地元でとても人気のある女性でした。
しかし。ある日突然、原因不明の病に罹ってしまいました。
できる限り手を施しましたが、全く良くなりませんでした。
そこで、最後の頼みの綱として御神木の実を頼ることにしました。
問題はここからです。
まず初めに御神木には普通の人間は近づけません。
次にエルフの許可と協力が必要です。
そして最後は時間。
まず、エルフに相談した場合。
幾ら人命がかかっていると頼んでも、
御神木に心酔しているエルフが少なからずいるので、決定が長引くのは必至。
その間に少女の命は尽き果てるでしょう。
次に、聖域と呼ばれる。人の入れない領域に無理矢理入り取ってくるという案が浮上しました。
しかし、これは少女本人が却下。
入れない領域に入るのは死にに行く行為に等しい行いだと、泣きながら止められたのです。
その父親は困り果てました。
そして刻々と時間だけが過ぎていた時。
吉報が入って来ました。聖域に入れるようになったというのです。
父親は急いで、御神木の高さや様子を調べるよう命令しました。
そしてすぐに、御神木が弱体化しているのが原因だと判明しました。
入れるようになったのはいいが、ますます時間が無くなりました。
父親は考えました。
エルフに許可をもらうのは、先に言ったことに加えて弱体化する御神木を守る為に必ず断わられるだろうと。
しかし、そもそもエルフの許可を得るのは御神木を円滑に運用する上で踏んだ方が良い手順であり、御神木その物が無くなる危険があるならば話しは別。
多少強引でも御神木の実を手に入れるしかない。
そして、その人達と交流のあるハルドに白羽の矢が立ったそうな。
……何か昔話を聞いてるようだな。
話長えし、人物の事をめちゃくちゃぼかしてるし。
「そうですか。では何故ハルド殿は話す気になられたのか?」
「貴殿の圧倒的な力を目の当たりにした、というのもあるが。極め付けは御神木が消失したという情報が入ったからだ。」
あーなるほど。
「まだ村人の格好と、木を切り倒した理由を聞いていませんが?」
「実は……
要約するとこうだな。
御神木の弱体化は知れ渡ると厄介なことになる。
目立たぬように動く必要があり、変装したらしい。
木を切り倒したのは陽動として目立たない数本だけで、別ルートから御神木に接近する作戦だったらしい。
ただ。思ったより時間がかかり、しかも持ち帰ったのが実ではなく凶報だったというのは予想外だったそうだ。
うーむ、何というか。
ハルドさんドンマイ。そして悪運強いな。
〔お嬢様の居場所ってテトリアかな?〕
「その御令嬢はどこにおられるのか?」
「テトリアの一番大きな屋敷にいらっしゃる。」
……今迄の話が本当ならば、相当な権力者か富豪だよな。
腹黒い考えかもしれないが、お偉いさんに貸しが出来ると何かと便利かもな。
動機が不純過ぎるが、直接会ってみたい。
エルムを間に挟んでもいいから話してみたい。
〔ここからテトリアまで、何日で着くんだ?〕
〔私達はあまり森を出ないので詳しくは……〕
〔そうか。じゃあ聞くか。〕
「ここからテトリアまで何日かかるのか?」
「昼夜問わず、休みを入れずに馬を走らせて4日…いや3日だ。」
……わからん。馬がどれだけ走れるかがわからん。
ま、まあ。遠いかな?
「報告!」
うん?
ハルド達が来た方向からヘッロヘロの馬に乗った、これまたヘッロヘロな青年がやって来た。
はー。転んだりなんかしたんだろう。
満身創痍という熟語を見事に体現してるな。
ハルドの顔が険しくなった。
「何があった?」
ハルドは聞きたくなさそうに尋ねる。
「そ、それが、お嬢様の容態が急変しました!」
「何?!」
………それが3、4日前の情報ってやばくね?
移動手段は馬、こんな感じだと情報伝達手段も碌な物が無いのかよ。
前世が物凄いことを実感するな。
「あと5日ぐらいが限度だと……」
何この絶望的な状況。
空気が凍りつくのは一回で十分だっての。
あ、泣き始める奴いるし。
治せるのに死なれたら嫌だし、急ぐとするか。
移動手段に考えがある。今思い付いたんだけどな。
〔今すぐ戦闘を止めて、テトリアに戻るよう言ってくれ。居ても邪魔だ。〕
「すまないが、こちらも混乱しておる。
ここは退いてくれぬか?」
「……わかった……」
ハルドさんは落胆した様子で、騎士団?を率いて去って行った。
さてと、いっちょ助けますか。
テトリアの一番大きな屋敷だったよな。
……街の様子が見たいとか、がっつり観光したいとか、そんなこと考えてないからな。
いや、断じて。
本当に。
多分。
お読みいただきありがとうございました。