十年早まる|標的は一人。俺たちには他人事のはずだった
友人のタカシが心霊系の動画配信をはじめた。
稼げるようになったらバイト代を出すと言うので、俺ともう一人の友人であるシンジは、タカシと一緒にある都市伝説を検証することになった。
それはとある墓地にまつわる噂。この墓地には死者たちの安らかな眠りを護る『主』のようなものがいて、夜にここで騒いだり場を荒らしたりすると、不届き者たちの耳にあることを囁くらしい。
「十年早まる?」
レンタカーを運転しながら首を傾げる俺に、タカシが助手席から答える。
「言葉どおり、主に『十年早まる』と囁かれると、死期が十年早まるんだってさ」
「寿命が縮まるならよく聞くけど、死期が早まるって、ちょっと珍しいな」
「でもまぁ、同じような意味だろ?」
シンジの質問に、タカシが「いや」と続ける。
「俺が見たサイトによれば、その人にいつか訪れるはずだった死因が十年前倒しでくるらしい」
つまりいつか病気で死ぬなら病気が、誰かに殺されるなら誰かに殺されることが、本来の時期より十年早まるそうだ。
創作としてなら面白いが、実話としてはお粗末な設定だ。本来の死期や死因がどうだったかなんて、本人にすら分かるはずがない。
それなのに誰が『被害者は皆、本来の死因が十年前倒しになったらしい』なんて噂するのか?
そんなオリジナリティを利かせてしまった時点で『このお話はフィクションです』と言っているようなものだ。
ところが実際は――
「本当なのか? 誰かに囁かれたって」
運転席からバックミラーで後部座席を見ると、シンジは顔面蒼白で訴える。
「こんな悪趣味な嘘つかねぇよ! いきなり誰かに後ろから『十年早まる』って耳打ちされたんだ!」
「もしかしてタカシの仕業か? もともとお前の企画だし、動画を盛り上げようと思って」
俺に疑われたタカシは、不服そうに反論する。
「そんなことしてねぇよ。だいたい人間の仕業なら、後ろから声をかけられた時点で気付くだろ」
「そうだよ。すぐに振り返ったけど、誰もいなかった。絶対あれは主だった!」
「じゃあ、お前の死期が十年早まったってこと?」
俺の率直な指摘に、シンジは「うぅ」とうなだれる。
「言い出しっぺはタカシなのに。ケイイチだって他所の家の墓石に腰かけて「椅子~」とか笑っていたのに。二人は無事で俺だけ狙われるって、とばっちりにしても酷すぎるよ」
「だとしたら、お前が聞いた声って主じゃなくて幻聴なんじゃね?」
助手席から声をかけるタカシに、シンジは驚いたように問い返す。
「げ、幻聴? 恐怖のあまり聞いた気になっているだけってこと?」
「それあるかもな。じゃなかったら、お前の言うとおり、もっと態度が悪かった俺やタカシには何もしなかった理由が分からないし」
まぁ、シンジもそれなりにふざけてはいたが。動画を撮影したり、人様の家の墓石に腰かけたりはしなかった分、俺たちよりはマシだろう。
「そうかな……でも言われてみれば、そんな気がしてきたかも」
シンジが少し落ち着いたところで、タカシが畳みかける。
「それに十年死期が早まるって言っても、一生のうちの十年じゃん。シンジは昔から風邪一つ引かない健康優良児だし、八十歳までは余裕で生きられるだろ。だとすると今二十歳だから十年引いても、まだ五十年も生きられる。余裕余裕」
「なんだよ、その計算。他人事だと思って適当な。こっちはお前らの巻き添えで最悪な気分だっていうのに」
シンジの言うとおり、例の声が幻聴ではなく本物だったら、十年も寿命が減るなんて笑えない。
ところが、その笑えない事態が間もなくシンジの身に起きた。
ちなみに死因は『トラックとの正面衝突』だったらしい。
それを知ると同時に、俺はなんで主がシンジにだけ囁いたかも理解した。
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■ 解説■
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『笑えない事態が間もなくシンジの身に起きた』。
ここで言う『間もなく』は数分程度の意味。
つまり三人で車に乗っている時にそれは起きた。
死因が分かるのは、トラックとの正面衝突が実際に起きたから。
ちなみに語り手のケイイチは運転席、タカシは助手席、シンジは後部座席に乗っていた。
正面衝突ということは、トラックは前方から突っ込んできている。
後部座席のシンジが死亡するほど激しい事故なら、前の座席に乗っていた二人もただではすまない。
シンジの死因についてケイイチが「~だったらしい」と推測の形で語っているのも、彼はそれを確認できない=先に死んだせいだ。
墓場の主がシンジだけを狙ったのは彼の死因を十年早めれば、その巻き添えで他の二人も今すぐ殺せるからだった。




