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光炎の子  作者: 石井舞香
始まりの話
1/3

夜叉椿

学校にある勉強机の上に、歴史の教科書が無造作に置いてある。

何処にでもある、普通の歴史の教科書。

窓から暖かい風が吹き込み、教科書にページをめくり始めた______



時は現代から千年前、平安時代の日本に遡る。





千年前から存在する、人ならざるもの。


それを人は「あやかし」と呼びました。


時に、人を喰らい、盗み、そして戦を企てる「あやかし」


「あやかし」の被害に頭を悩ませた当時の帝は、


ある力ある陰陽師(おんみょうじ)たちに命じました。


「お前たちのその力で、あやかしの怒り、悲しみ、そして憎しみを、鎮めてくるのだ」と______


力ある陰陽師たちは、帝の命に答え、「あやかし」を完璧ではありませんが、鎮めることに成功し、特に活躍した陰陽師に「光をもたらした灯火」という意味合いを込めて、「光炎(こうえん)」という称号を、帝が授けたのです。


こうして、平安の時に、平和が訪れました。


めでたしめでたし______






⬛︎◇▫︎……







「なぁ、椿(つばき)?」


聞き馴染みのある、優しい声。頭に暖かいものが置かれ、撫でられているんだと、子供ながらに自覚する。


「なぁに、にいちゃん?」


彼の顔を見つめ、可愛らしい笑みを浮かべる、「椿」という少年。

鼻水を垂らし、どこか寒そうにする「椿」。

「にいちゃん」と呼ばれる青年は、腕をのばし、顔をほんのり赤く染めた椿を抱き寄せる。


「これから辛いこと、いっぱいあるけど。しっかり頑張るんだぞ」


その声は震え、少し嗚咽が混じっていた。まるで、これから過酷な運命を辿る「椿」を不憫に思うように。まるで哀しみを堪えるように。


「うん!いっぱい頑張るよぉ」


目の前にいる「にいちゃん」に頭を擦り寄せる。鼻水がつくからやめろと、笑う声が聞こえる。ああ、心地いい、温かい……___




ずっとここにいたいな……___




⬛︎◇▫︎……



「………この話の陰陽師たちは、安倍晴明(あべのせいめい)や、晴明公の師匠の賀茂忠行(かものただゆき)、その息子の賀茂保憲(かものやすのり)と言われています」


「ね〜え〜、かよせん。高校受験みんな終わったのに、なんで勉強しないといけないの〜」



雪が溶け、たまに冷たい風が鼻を擦るが、少しずつ暖かくなってきた。

木々には蕾が出来始め、春の始まりを物語る。


「え〜、みんなが高校に入っても苦労しないようにしてるのに〜」


人生の分岐点となるであろう、高校受験。

この教室にいるほとんど生徒が、その分岐点を通過済み。

人それぞれ、頑張った時間は違うけれど、長い間受けていたプレッシャーからの解放は、生徒たちの惰性を現すには十分なものだった。


しかし、この教室に惰性をゆうに通り越し、無気力に生きる少年がいた。



「コラ!椿くん、寝ないでください!」


「…………るせぇよ。高校受験の勉強で疲れてんだ」


「もう、屁理屈言わない!あなた高校行かないでしょう?」


腰に腕を当て、見るからに「怒ってます!」アピールをする、俺の担任の女教師、通称「かよせん」。本名は渡辺佳代子(わたなべかよこ)

ていうか、なんだよそのポーズ。ぶりっ子ぶっていいのは10代までだろ。

ああ、鬱陶しい。高校行けるほどの頭持ち合わせちゃいねぇし、行く気もねーし。

そんなことを思っていると、隣から軽い笑いが聞こえてきた。


「夜叉くんは、僕と一緒に妖魔特殊部隊(ようまとくしゅぶたい)の採用試験に受けるんでしょ?」


「うるせ!お前と一緒にすんな腹黒メガネ!」


机を力一杯叩いて立ち上がり、鳥山暁斎とりやまきょうさい、通称「腹黒メガネ」に野次を飛ばす。

気持ち悪いくらいになんでも出来て、イケメン。

短いのが勿体無いくらい、手入れが行き届いた白い髪に、整った顔立ち。

黄色い目の瞳孔は猫のように細長く、コイツと目を合わせたら、ときめく女子はいないだろう。

勿論モテるため、コイツを嫌う一定数の生徒から、実は性格が悪いと噂されている。

わざとさしくニコニコ笑うその腹黒を睨んでいたら、こわいこわいとヤツは囁いた。


「え!?暁斎くん、妖魔特殊部隊(ようまとくしゅぶたい)の採用試験受けるの!?」


「あはは、受からないかもしれないし、高校受験はしたけどね」


途端に聞こえる、女子の黄色い歓声。

すごーいとか、やばーいとか。気持ちこもってんのかと、自然な疑問が頭の中をよぎる。それを軽く流すコイツもどうかと思うが……


「ねぇねぇ、妖魔特殊部隊(ようまとくしゅぶたい)の採用試験って、どんな感じなの?」


「わかんないかなー。でも頑張るね、ありがとう」


そうヤツは微笑む。

そんなヤツの姿を見て目がハートになった女子がいたのは、言うまでもない。

全くもってわからない。何がいいんだこんな作り笑い。


「み・な・さーん」


あ、そういえば、今はかよせんの歴史の授業中だったな。

そう思い、教壇のほうに、恐る恐る目を向ける。


「……」


「授業聞けって言ってるでしょうが!このバカ生徒!!!」


般若と化したかよせんの怒号が、教室中、いや、学校中に響き渡った。




⬛︎◇▫︎……




「はぁ、今日も授業疲れたなー」


今日はもう授業が終わり、今は暁斎と帰路に着く途中だ。

空は橙色に変わり、俺は暁斎の自転車を押しながら、暁斎は当たりつきの棒アイスを食いながら、俺たちは住宅街の道を歩いていた。


「思ってもないお言葉どうも」


「え、そんなことないさ」


「バカ言うんじゃねぇ、何年の仲だと思ってやがる」


丸分かりだわ、と続けて言うと、暁斎は不敵な笑みを浮かべた。

俺はなんとも思わないが、女子が見たら救急車案件だ。

このイケメンが。


「長く一緒にいるからこそ、僕は椿が疑問かなぁ?」


「は、んだよ?」


「いいのかい?妖退魔特殊部隊採用試験。明後日だよ?履歴書提出した?」


暁斎が言う妖魔特殊部隊(ようまとくしゅぶたい)採用試験(さいようしけん)実施する妖魔特殊部隊(ようまとくしゅぶたい)とは、簡単に言えば、約千年前、力ある陰陽師が帝の命により、怒り、哀しみ、そして憎しみにまみれた「あやかし」たちを鎮めるため、というか隔離するため使った結界「妖魔界門(ようまかいもん)を守護する者たちが集まる、江戸が起源の政府公認組織だ。

しかし、この妖魔界門も完璧ではなく、結界の隙間から抜け出す「あやかし」たち、元々結界の外にいた「あやかし」たちもいた。

結界の外にいた「あやかし」は、人里を襲い、子を喰らい、女を襲ったため、「あやかし」の力を強く受け継ぐ人間、後に「妖人(あやかしびと)」と呼ばれるようになる存在が生まれた。ちなみに、暁斎は猫又(ねこまた)の妖人で、結構おっかない妖術(ようじゅつ)を使うらしい。見せてもらったことは一度もない。

話を戻そう、妖退魔特殊部隊の大体の隊員はこの妖人で構成されている。妖怪を使役する式神使いの人間もいるにはいるらしいが、組織内にはいないと思う。なぜなら、この類いの家の者たちは、独自の組織で動いているらしいから。別の場合では、事務とか。


「…どうせ事務がオチだ」


「その反応なら、出願はしてるみたいだね。安心した」


「……」


「君が夢でよく見るお兄さん、妖退魔特殊部隊の制服を着ていたんだろう?会えるといいね」


俺がよく見る、俺の兄が出てくる夢。毎回同じ状況、毎回同じセリフ。

正直に言うと、もう見飽きていた。

でも、その夢は不思議と心地よい。そして安心できる。

夢に出てくる兄の背中は大きくて、たくましかった。


「横に並べてないと意味ねぇよ」


「随分弱気だね、さっきノリノリで僕との勝負受けたのに」


勝負というのは、2人が暇つぶしによくやる、「あやかししりとり」

この国には、他の科目とは別に「あやかし学」という教科がある。

言うまでもなく「あやかし」について学ぶ教科だ。

小学校、中学校でまともに勉強してない椿は、暁斎に勝ったことがない。



「るっせえ!!負けたからお前の自転車押して、アイスも奢ってやってんだよ!!」


「あ、僕ここまでだから!自転車とアイスありがとね!」


「聞けよ!」


暁斎は俺の手から、自転車を奪い取り、小走りになりながら自転車を押し出す。

そして、何を思ったのか、ヤツは俺の方をふと振り返る。


「明後日、一緒に合格しような!椿!」


口調が砕け、大きく手を振る暁斎。

そんな姿に、俺は自然と笑みが溢れた。


「あぁ……そうだな」


そう答えると、満足気な顔をする暁斎。じゃあねと呟き、暁斎は自転車に乗って、その場を去った。だんだんと、暁斎の背中が小さくなっていく。


……さっきの笑みは、照れ笑いじゃない、嬉し笑いでもない。


……じゃあなんで、俺は笑ったのだろうか?



否、答えは呆れ笑いだ。



「なれるはず、ないのにな……」



なあ、暁斎、俺はお前と違うんだ。お前みたいにイケメンじゃないし、勉強が得意なわけでも、愛想がいいわけでもない。


俺は「にいちゃん」の横にはいられない。


当たり前だろ?もうとっくに分かってた。















だって俺は……ただの人間なんだから。

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― 新着の感想 ―
とても面白いです。続き楽しみにしています。あと僕も小説を書いているので読んでみて欲しいです。
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