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守護者の剣 - 男を動かすのは情か理屈か -  作者: 佐藤太郎
第3章 帰郷 そして....
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第66話 チェスゲーム

―"ヴゥゥン"と唸りながら粉塵を吸うダクトを背に、フレッドは剣を支えにして立ち上がる。


「ゲホッ、ゲフッ...」


(受け身に失敗したか...焦点が合わない!

ローズは...既に戦っているな。)


―ベアトリクスによって壁へと叩きつけられたフレッドは、ローズに遅れること数秒で意識を戻した。


 しかし、その爪痕は深く刻まれていたのである。


「くッ...駄目だ、視覚に頼るのは無理か。 ならば、"ソナー"!」


―魔力の波がフレッドから飛び出し、部屋を駆け巡り彼へと戻ろうとする。


 だがその本格的な発動よりも早く、彼の耳が異変を感じとった。


11(ヒトヒト)時の方向から、高速接近体!?」


―彼はすぐさま剣を構え直す。


「悪いな青年! 私の腰の為にも、ここで倒れてもらおう!」


―飛び出して来たのは、イザークであった。


 フレッドの2歩手前まで一気に距離を詰めると、ゲートル(脚絆)に包まれた右足を跳ねさせる。


「来るか...ならば!」


―フレッドは剣を槍の様に構え、イザークを迎え撃つ。


「小癪な! "ルーク"!」


―イザークはその言葉を唱えると、直線的に後退離脱する。


 その足はエネルギーに耐えきれなかったのか、ガクガクと震えていた。


(速い...! だが、叩くなら今のうちだ。 )


「極短時間で良い..."ファイヤー"、"メディエイト・リユニオン"!」


―口径5mmの炎の銃弾が飛び出し、それに似合わない程の爆風が一瞬、イザークの髪を撫でる。


 遅れて、爆ぜる火の粉がイザークのサイドヘアーを掠めた。



「魔力で生み出した炎を別要素で推進させる攻撃...いや、違う...!」


「ハァッ!」


―フレッドはイザークの真横に突如現れると、上段から剣を振り下ろす。


 対して、イザークがブレードの面を噛ませたことで、2振りの剣が交錯する。


「なるほど、あれは私の気を引くためだったと...青年よ!

だが、甘い。 "ナイト"!」


―イザークはまるで引っ張られる様に、L字を描きながらフレッドの背後へと周った。


 振り下ろされていたフレッドの剣は制動を失い、不必要に地を叩く。


(まずい...相手はチェスの動き方をする。 それなら、これから来るのはビショップか...)


「"ポーン"!」


―男が選んだのは、初歩的な"歩兵"であった。


 フレッドの斜め後ろから回避不能の一撃が迫り、半身が袈裟斬りにされる様な痛みが走る。


 だが、それはフレッドのスーツに綻びはなかった...


「フレッド、早く立って!」


「ローズ!? なんで、こっちに!」


―彼の眼前に陣取ったのはローズであった。


 そのブーツは空中で脱げたのか、イザークの後頭部へと着地を決めている。


「そんなの...吹き飛ばされたからに決まってるでしょ!」


―ローズの激しい目線の先には案の定、銀糸を垂らし、蒼に瞳を輝かせる()()がいた...


「イザーク...毛が散っているぞ。 "ナイト"を使うほど苦戦しているようだな?」


「ベ、ベアトリクス! い、いやぁ、私は苦戦などしていませんよ!!」


―その場に、王者の威圧が流れる。


 フレッドとローズは無意識の内に、互いの肩を合わせ、小声になっていた。


「袈裟斬りにされたのが痛むわ...フレッドは大丈夫?」


「いいや。 反映されたお陰で、今にも気絶しそうだよ...」


「そう..."ヒール"!」


―ローズを起点に、2人の周りを治癒の光が走った。


「だいぶ楽になったわね。 でも、魔力は残り少ないわ。」


「ローズが魔力切れになるのは防がないと...ベアトリクスさんの方は?」


「まだ、体力万全の第2形態...今の私達じゃ、敵わない相手よ。」


(第2形態...? ともかく、余裕が見て取れるのは確かだ。)


「お父様は、虫の息って感じね。」


「あぁ、まさにターンのない高速チェスゲームだよ...でも、チェスの動き方に変わりはない。」


(即ち、アプリカート(高さ)を用意してしまえばいいのだ!)


「ローズ、少しでもいいから隙を作れるか?」


「隙を作る...分かったわ。」


「それじゃあ、始めよう!」


―フレッドはイザークへと一直線に向かってゆく。


 その眼光にベアトリクスは映っていないのだ。


 全てはローズを信じて...


(直上からの殴打...相手の体勢を崩せれば、それで良い。)


―しかし予想外にも、ベアトリクスにイザークを守る仕草は見られない。


 それはイザークを信用しているからか、フレッドを侮っているのか...


 だが、そこでローズが動いた!


「頑張って、フレッド! お腹の中の"アルフレッド Jr"のために!」


「「なッ!?」」


―その瞬間、2人の男が動きを止めた。


 排熱の追いつかないコンピュータが"カクカク"と動作する様に、フレッドとイザークは不自然な軌道を描き、震える。


 一方のベアトリクスは高らかに笑いを零していたが、男衆にそんな声は届かない。


「「アルフレッドJr...」」


(そ、そんなことはした覚えは...いや、これがローズの作戦か! 止まるな、僕! ターゲットを追い詰めろ!)


「"メディエイト・リユニオン"...!!」


―フレッドは瞬間的にイザークの頭上へと跳ぶと、剣のポンメル(柄頭)を下に向ける。


「ふっ、こうなれば道連れじゃぁぁあ...!」


―気でも狂ったのか、はたまた元からそうだったのか...危機的状況にあるにも関わらず、イザークは笑い出した。


「"クウィーン"!」


―全方位、全射程、全駒の動きを内包した全能の魔圧


 頭上にいたフレッドも、叫んだローズも、そして発動したイザーク自身も、その圧倒的な重圧に臓腑を押し潰され、床へと沈み込む。


 静寂が戻った頃には、1人しか立っていなかった...


「ハッハッハッ、実にくだらん茶番だ! だが、少しは愉しめたぞ。」


―ベアトリクスの冷ややかな声だけが、混沌とした戦場に禍々しく響く。


 こうして、苛烈な試練は幕を下ろしたのである。

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