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魔王に攫われた公爵令嬢に、俺の理性が毎晩試されてます。  作者: 雨屋飴時


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5/5

5.そうだったらいいのに




 食堂にて。

 長く続いていたルークとメルティの言い合いは、わりとすぐに勝敗がついた。

 

「夜にダリア様を部屋に入れるなんて、どういうことですか?」

「……っすみませんでした!」

 

 見たこともないほど恐ろしい形相で、メルティがルークを睨んでいる。

 

「メルティ、違うの。

 強引に部屋へ入ったのはわたし。

 呼び捨ても、ため口も、全部わたしが命令したのよ。

 公爵令嬢の命令なんて、ルークが無視できるわけないでしょ」

「ダリア様……」

 メルティのきれいな眉が、八の字に歪む。

 憂いの滲んだ顔。

 いえ。公爵令嬢という立場を利用して、男性の部屋へ入ってしまった、わたしへの非難かもしれない。

 ルークが、驚いた顔でわたしを見ている。

 あまりにも、()()()()()()()

 変わっていないのね、と笑いそうになって、ぐっと口元を引き締める。

 

 

 三年前。エドガーとの婚約破棄の原因となったあのパーティーがあった日、わたしは金色の魔法陣を見た。

 ちょうど、パーティー前にエドガーと城内を散歩している時だった。

 会場で、焦茶色の髪をした魔導士が結界の魔法をかけていた。

 その足元に浮かんだ、金色の魔法陣。

 それはきらきらと輝いて、これまで見た誰の魔法陣よりも美しかった。

 思わず「きれいね」と呟いてしまった。

 それが、エドガーには気に入らなかったらしい。

 「あんな者の出す魔法陣がきれいなものか」と憤慨しだした彼は、あろうことかパーティーで彼を罵倒した。

 貴族という自分の立場を笠に着て、侮辱した。

 そんなエドガーを、許せなかった。

 不用意な言葉で、彼をあんな目に合わせてしまった、自分自身も。


 わたしが引き金を引いたせいだと知らない彼は、パーティーが終わった後わたしの下へ走って来た。

 「きっと、いつかダリア様に恩返しをさせてください」

 がらがらの、かすれた声。

 わたしを真っ直ぐ見る、誠実な瞳が印象的だった。

 

 だから、昨日。ルークが金色の魔法陣を出現させた時は、驚いた。

 そういえば、ルークもあの時の魔導士と同じ焦茶色の髪をしてる、と気づいたのはその時だ。

 三年前とは、声も顔つきも変わっていたから気づかなかった。

 少し掠れた、柔らかい響きの低い声。少年から青年へと変わった、精悍な顔つき。

 あの時の彼が、律義に約束を果たしに来てくれたのだと思ったら、キャンディが心の中で蕩けたみたいだった。

 

 昨日は、いつも部屋を覗きに来るメルティが来なかった。

 その内、隣の部屋のドアが開く音がして、気づいたら理由を付けてルークの部屋へ向かっていた。

 来てくれて嬉しかったことを、伝えたかった。

 でも、いざとなるとなんだか恥ずかしくなって、言えなくなった。

 嘘が下手くそなルークは正直で、同い年だけれど可愛く見えた。


「いや、注意されるのは当然だよ。

 本当は俺が――」

「ルークに責任はないって言ってるでしょ。

 タメ口も呼び捨てもわたしの命令だし、これからも夜に遊びに行くから」

「ダリア様……!」


 今度こそ非難の声を上げるメルティに、べっと舌を出して見せる。

 そこで、ふと気づく。

 本当は俺が――?

 『本当は俺が止めないといけなかった』と、続くんだろう。

 そうできなかったのは、ひとえにわたしが公爵令嬢で、従わざるを得ないから。

 

 でも、もしそうじゃなくて、『自分がそうしたかったから』だったなら?


 そうだったらいいのに。


 わめいているメルティを横目に、紅茶を口にしながらちらりとルークを見る。

 ルークはメルティに苦笑をむけていた。が、わたしの視線に気づいて柔らかく笑う。

 

 自分がそうしたかったから、と思ってくれるなんて、ありえない妄想だ。

 でも……


 期待して頬に熱が集まるのを、わたしはクッキーパンに噛り付いて思考を打ち消した。

 

◆◆◆


「露天風呂の掃除終わりました? 

 じゃあ、次は庭の掃除をお願いします」

「……はい」


 メルティに箒を渡されて、俺は思わず項垂れる。

 朝食後、俺はメルティの指示の下、掃除、掃除、掃除三昧だった。

 魔法で掃除すれば一瞬で終わるのに。


「なあ。なんで魔法使ったらダメなんだよ」

「魔法でやったら、罰にならないじゃないですか」

「……罰?」

「ダリア様を寝室に入れた罰です」

「っ! それはもう謝っただろ!」

「そんなもので許されるはずないでしょう。

 何もしなかったらしいことだけは褒めて差し上げますが、夜にダリア様を部屋へ入れるなんて言語道断です。

 紳士の嗜みはどうしたのですか。平民とはいえ、それくらいの礼儀は分かるでしょう」

「お、お前だって、そんなの言うわりには風呂場に侵入してきただろうが!

 こっちこそ淑女としての嗜みを聞きたいわ!」

「は? 貴方の魔力量視ようと思って入っただけですが。

 服を着ている状態じゃ、正しい魔力量が測れないでしょう?

 貴方がダリア様の婚約者となれたのは、高位王宮魔導士という立場のおかげ。

 他は何一つ至らない貴方が、本当にダリア様の隣にさわしい人間か確かめる必要があったので視に行ったのみです」

「………あー。なるほど」


 確かに、純粋な魔力量を測りたいということなら、裸を見るのが一番手っ取り早い。

 最近は魔力増幅の魔法石だけではなく、増幅効果付きの服もあるからだ。


「って、いやいやいやそんなんで納得できるか!」

「納得しなくて結構です。さあ、手を動かしてください。落ち葉の一枚でも残っていたら、今夜のディナーは抜きですからね」

「……鬼かよ」

 

 結局、日が暮れるまで俺は庭掃除に明け暮れた。

  腰を叩きながら自室へ戻り、ベッドへ倒れ込む。

 ダリアは今頃何をしているだろうか。

 昨夜のことをふいに思い出し、顔が熱くなる。


 ――落ち着け。 婚約者とはいえ、俺は彼女の人生を狂わせた身なんだぞ。何も望むな。


 自分に言い聞かせ、枕に顔を埋める。

 そんなことよりも、 ダリアの不眠の原因についても早く探らなければならない。

 ダリアは、今自室にいるようだった。


 疲れた体に鞭を打って、俺は起き上がる。

 

 ダリアに会えると思えば、足取りが自然と軽くなる自分に苦笑する。

 自室を出て、ダリアの部屋の前に立つ。

 扉を叩こうと上げた手に、意識が集中する。

 鼓動が、どくどくと早鐘を打っていた。

 ダリアの部屋へ行く理由はちゃんとあるのに、それでもノックするのにある種の勇気がいる。


 短く息を吐いて、顔を上げる。

 俺はダリアの部屋の扉を叩いた。

 




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