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魔王に攫われた公爵令嬢に、俺の理性が毎晩試されてます。~片思いを拗らせた俺が、婚約者だと明かせない理由~  作者: 雨屋飴時


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 エピローグ




 王城前の大階段は、朝から人で埋め尽くされていた。

 

 最上段から、王族、公爵家、高位貴族。

 そして並列で魔導会の上層部が並び、広場には平民がぎっしりと集まっている。

 どこからでも、儀式台の俺が見える造形。

 

 無数の視線が突き刺さる感覚に、思わず小さく息を吐く。

 

 ……やっぱり、こういうのは苦手だ。


 それでも、やるしかない。


 俺は静かに腕を掲げ、詠唱を紡ぐ。


 儀式台に展開される、巨大な黄金の魔法陣。

 溢れた光が粒となり、ふわりと空へ舞い上がる。

 

「【天蓋結界アウレア・エデン】」


 空へ昇った光は、やがて無数の黄金の蝶へと姿を変えた。

 蝶は空を覆うように舞いながら、王都全域を包み込む巨大な魔法陣を描き出していく。

 まるで、王都そのものが祝福されているようだった。

 

 誰もが、空を見上げている。

 やがて。

 眩い閃光と共に、空の魔法陣が砕けるように消えていった。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間――

 大地を揺らすような歓声が、王都中へ響き渡った。


「すげえ……!」

「これが高位王宮魔導士……!」


 賞賛。

 驚嘆。

 興奮。


 あちこちから押し寄せる声に、なんだかむず痒くなる。

 俺は早々に儀式台を降りた。


 その後も貴族たちへの挨拶が続き、ようやく一息ついた頃。

 

「やあ、見事なものですね」

 

 ふいに声をかけられ振り返る。

 そこにいたのは――エドガーだった。


 大公爵の子息。

 ダリアの元婚約者。


「王都全域に及ぶ結界をたった一人で構築するとは。

 若き天才魔導士、という噂は伊達じゃないですね」


 にこやかな口調。

 だが、相変わらず顎の先が偉そうに上を向いている。

 無視したい。

 が、周りには人の目が多い。

 ここで無礼を働けば面倒になる。


「……どうもありがとうございます」


 かろうじて絞り出した言葉を、照れているとでも勘違いしたのだろうか。

 エドガーは満足そうに頷いている。


「そうだ。

 我が家にも強力な結界を張ってもらえないか?

 最近、屋敷の周囲に魔族が現れてね。

 君なら容易いだろう。

 もちろん、相応の報酬は払う」


 断られるなど欠片も思っていない口調に、思わずため息が出そうになる。

 

「平民上がりの俺でも、よろしいのですか?」


「……え?」


 エドガーの表情がわずかに崩れた、その時。

 

「ルーク!」


 聞きなれた声に振り返ると、ダリアがこちらへ駆け寄ってきていた。

 

 うわ、今来んな!

 

 と、心の中で叫んでも意味はない。

 少し息を弾ませて来た彼女は、エドガーには気づいていないらしい。

 まっすぐ俺を見上げて来る。

 

「すごかったわ。本当に、お疲れ様」

 

 

 こんな状況でも、その一言で胸の奥がじんわり熱くなる。

 

「ありがとな」

 

 礼を言ったところで、ふいに耳に入る貴族たちのひそひそ声。


「あれ、ダリア様?」

「……あんなに綺麗だったっけ」

「雰囲気変わったな」


 ダリアに、男たちの不躾な視線が集まる。

 胸の奥が、ざわりと波立った。

 

 エドガーまで、見惚れたようにダリアを見つめている。


 その視線が、無性に気に食わない。


 今。ダリアを誰にも見せたくない。


 思わずダリアを引き寄せようとした、その時。


 エドガーが一歩早かった。


「ダリア」


 名を呼ばれ、ダリアが驚いたように振り返る。

 次の瞬間、エドガーは彼女の腕を掴んだ。


「ちょうどいい。

 ルーク殿。彼女は私と再婚約する予定なんだ」


 厚顔無恥にエドガーがしゃしゃってくる。

 ざわ、と周囲が揺れた。

 

 …………は?

  

 頭の奥が、すうっと冷えていく。

 

「エ、エドガー様! そのお話はもうお断りを――」

「何を言う。わたしはまだ、公爵からの返事は受けていない」

「それは……っ」

 

 ダリアの瞳に、困惑の色が浮かぶ。

 

 だから言っただろ。

 公爵から早く正式に断ってもらえって。


 気づけば、周囲のざわめきも静まっていた。

 みんな、俺たちの様子を聞き耳立てている。

 

「――エドガー様」

「なんだ」


 笑顔を貼り付けて声をかける。

 多分、俺の目は据わっていたんだろう。

 エドガーの頬が、わずかに引きつった。

 

 俺はダリアへ手を差し出す。ダリアもはっとしたように、俺の手を取った。

 

「申しわけありませんが、ダリアは渡せません」

「………何を言っているのだ」


 エドガーの笑みが歪む。

 しかし、その瞳に戸惑いはない。

 

 公爵からの返事はなくても、最近就任した高位王宮魔導士がダリアに婚約を申し込んだこと、そして、それを公爵が快諾したことは知っているだろう。


 それでも尚、こうして人前で割り込んでくる。

 家格では自分が上だと、分かっていての行動だろう。

 その神経の図太さには、恐れ入る。


 けれど。


 ダリアだけは、絶対に譲れない。


「エドガー様、彼女は俺の――」


 俺の婚約者だ。

 そう言おうとした俺を、ダリアが遮った。


「ご無礼をして、申し訳ありません」

 

 俺の隣で、まっすぐエドガーを見上げる瞳。

 その視線は、どこか鋭い。

 

「エドガー様からの再婚約のお話、冗談かと思っておりましたの。

 ですから、わたしからのみお返事をさせて頂いきました。

 必要なら、父から正式にお断りのお返事をさせて頂きます。

 あなたも本当はご承知でしょう?

 わたしが、この方と婚約したこと」

 

 静かな、けれど迷いのない声だった。


 ざわ、と周囲が揺れる。


 エドガーの眉が寄る。


「何を言い出すのだ。わたしは――」

「エドガー様。

 わたし――」

  

 ダリアはエドガーの話を遮ると、ふいに、くるりとこちらへ向き直った。


 俺の前に立ち、ダリアがそっと背伸びをする。

 顔が、すぐ傍に近づく。


 え。

「ダリ――」

 

 止める間もなく。

 ちゅ、と軽い音が耳に届いた。

 頬に触れる、柔らかな感触。

 一瞬、時が止まる。

 

 え……。

 ええええええ!


 言葉を失う俺をよそに、ダリアは顔を真っ赤にしてエドガーへ向きなおる。

  

「――わたし、ルーク様が好きなの」

 

 観衆のざわめき。

 ドクンドクンと心臓が震える。


 嬉しくてなのか驚いてなのかダリアへの愛ゆえなのかもう分からない。

 ただ、照れている場合ではないことは分かっていた。

 俺も息を吐き、腹を括る。


「……ご報告が遅れて申し訳ありません」


 エドガーへ向きなおる。


「思慮深いエドガー様のこと。

 ダリアが俺の婚約者になったと分かっていて、あえて発破をかけてくださったんですよね」

「な……」

「おかげで俺も、どれだけダリアが大切か、改めて見つめ直すことができました。

 俺たちが婚約できたのも、エドガー様のおかげです。

 ぜひ、祝福していただければ」


 エドガーの口元が引きつる。

 だが、周囲の視線が集まる中、否定などできるはずがない。


「も……もちろんだとも……。

 わたしの意向が届いていたようで良かった。

 二人の門出を、心から祝福しよう」


 一瞬の、沈黙。

 そして、場がどっと沸いた。

 拍手と歓声が、王都に響き渡る。

 

 引きつった顔のエドガーを見て、胸の奥が少しだけすっとする。

 

 ざまあみろ。

 

 ダリアはお前になんか返らない。返さない。

 大切な者を、プライドなんかの為に手放すからこうなるんだ。


 そっとダリアを引き寄せる。

 見上げてくる碧の瞳が、少し照れたように揺れた。

  

「では、わたしは失礼する」


 去ろうとするエドガーへ、ふと、思い出したように声をかける。


「そうそう。結界の件ですが」

「……なんだ?」

「エドガー様は、黄金の魔法陣なんてお嫌いなんじゃありませんでしたか?」

「……は? 何を――」


 エドガーが、眉を寄せる。


 そして、はっと目を見開いた。


「お……お前、まさか……あの時の……!」


 やっと気づいたか。

 俺がにやりと笑うと、エドガーは言葉を失ったまま口をぱくぱくさせる。


 青ざめていくその顔は痛快で、俺は必死に笑いをこらえる。

 俺って、そこそこ性格が悪いのかもしれない。



 

 

 エドガーが去り、ダリアがほ、と息をついたのが分かった。


「まさかダリアからされるとは思ってなかったな」

 

 自分の頬に手を当ててぽつりと言うと、ダリアは悪戯を仕掛けた子供のように笑う。

 

「びっくりした?

 ルーク赤くなってたね。可愛い」


「……。

 ふーん。まあいいけど……」

 

 わざと平然と返す。


「帰ったら、今度は俺の番だからな」

「え」

 

 ダリアの顔が、ぽんっと赤く染まった。

 

「なんだよ。自分からしてきたくせに」

「そ、それは……

 だ、だってエドガーが――

 ああでもしないと退かないと思って!」

 

 あわあわ揺れる、碧の瞳。

 その頬にそっと手を添えると、ダリアが息を呑んで硬直する。

 その初心さが可愛くて、危うく吹き出しそうになる。

 

 でも、それでも言ってしまいたい。

 

「言っとくけど、帰ってからするのはここじゃないから」

「え……?」

 

 そのまま頬を撫で、親指でそっと唇をなぞる。


「覚悟しといて」

 

 照れ隠しににやりと笑う。

 真っ赤に染まるダリアは可愛くて、愛しくて。


「さあ、じゃあ帰ろうか」


 伸ばした手に、ダリアがおずおずと手を載せる。

 その温もりに、自然と頬が緩んだ。

 

「ルーク」

「ん?」

「わ、わたしも……わたしも、されたらお返しするから。

 か、覚悟してね」

「!」


 思わず固まった俺に、ダリアが真っ赤な顔で微笑む。

 

 ――いやいや。

 分かってる?

 そんなんされたら、俺今度こそ理性吹っ飛ぶけど。

  

「ねえ。ルークって今日は泊まるの?」

 

 連投された、多分ちゃんと意味の分かっていない無自覚な誘惑に、思わず苦笑する。

 

 ああ、もう。

 全然分かってない。


 でも、俺がその誘いを断れるわけもない。


「……もういっそダリアの部屋で泊まろうかな」

「え!」


 真っ赤な顔で固まるダリアに、思わず笑ってしまう。

 

 黄金の蝶が、王都の空をひらりと舞っていた。


 



 魔王に攫われた公爵令嬢に、俺の理性が毎晩試されてます。【完】

 


これにて完結です。

ご愛読頂き、本当にありがとうございました。


ブックマーク・評価・感想等での応援、ありがとうございます!


少しでも楽しんで頂けましたら、

ブックマークや下の星★★★★★にて応援頂ると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします。


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