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翌日の放課後。私は放送で会長に呼び出されて、生徒会室という場所を訪れていた。
金蘭を代表して、両校戦に出場することになるメンバーが、初めて一同に集結することになる。
やはりというか、一年の学年主席である藤間さんもこの場に来ていた。相変わらず私のことが怖いようで、ファイルで顔を隠しながらだが、それでも挨拶をすればきちんと返してくれた。優しい。
「八剣くんは……ちゃんと私が渡したお守り持っていてくれてるね。影は少し大きくなっているけど、八剣くんに手出し出来てない。良かった」
思わず後ろを振り返る。
待って。私に何が取り憑いているの?
学年主席な藤間さんは、私とは違って新人戦枠ではなく、先輩たちに混じって本戦に出場するそうだ。
良かった。
練習場所も変わるから、藤間さんと会うことはまずない。同じ空間に私がいることで、藤間さんが練習に集中できなかったら申し訳ない。
ちなみに、藤間さんはライフル射撃の部に出場するそうだ。正確な射撃を行うためには、かなりの集中力を要するから、飽きっぽい私には土台無理な話である。藤間さんはすごいな。
私は事前の希望通り、クロスカントリーの選手になった。この種目、会長の言う通り本当に人気がないらしく、私以外に希望した選手はいなかった。そのため、熱いじゃんけん大会が繰り広げられていた。
ちなみに、クロスカントリーは安全に配慮して男子のみが行う競技だそう。やっぱり過酷なのかな。
ちょっとネットで調べたら、海外では軍の訓練の一貫して行うらしいし。両校戦でも、競技場は山1個という広大なフィールドで行われる。本戦のクロスカントリーの方は、主力選手は山岳部で占められていた。
あ、東雲先輩が「お前はこっちだろ!」と、クロスカントリーの方に引っ張られている。
郷土研究部も、レポートを作成する上での、現地調査のために山に登ることもあるからね。神社や寺って、山の上にあることも多いから。
とはいえ、山岳部が普段登るほどヤバい山に登ることはまずない。きちんと頂上まで参道が整備されている場所ばかりだ。なんなら全て階段で行ける。
それを考えたら大丈夫かな。私も不安になってきた。今からでもエントリーをやめたいが、クロスカントリーに選手登録していることを感謝されまくった身としては、とてもじゃないがやっぱやめますとは言えない。
東雲先輩は苦笑しながらも、特に出場種目にこだわりは無かったようで快諾していた。聖人かな?
「くっそー、負けたぁ!!」
「よっしゃ! じゃんけんの神は俺に微笑んだ! じゃ、頑張って山を駆け回ってくれ。応援はするよ」
「笑顔がムカつく。お前ら、覚えてろよ」
「え、どうしよう。僕文化部でしか生きてきてないんだけど、大丈夫かな」
「でも、吹奏楽部は文化部の運動部って言われてるから、平気だって。俺たちも出来るだけサポートするから、頼むよ転校生くーん!」
「出来る限りのことはするけど、あまり期待はしないでね」
お、どうやら私の他のクロスカントリーの選手が決まったようだ。新人戦の選手登録は、全員で3人だ。ちなみに、本戦だと5人である。
「えっと、クロスカントリーだよね。よろしく」
「運動神経に自信がないから、迷惑かけるかもだけど頑張るよ。よろしくね」
おおう、一方はなんと件の転校生さんじゃないか! 早速選手として召集がかかるなんて、すごいな。さすが三重。
「こちらこそ、よろしく。私もそこまで運動が得意なわけじゃないから、お互い様だ」
なにせ、長年の幼なじみに転ぶのが趣味だと思われていた男だからな。コースの山道など、最初から走る気はない。全部歩き通す所存である。でなきゃ、転びに転んでレースどころではない。
いや、下りの山道はあきらめて転がった方がむしろ速いか?
チームメイトとなる2人の男子生徒は、どちらも知らない顔だった。これを機に新たにお友達ができるかもしれないと思えば、知らずテンションは上がる。
「私は八剣舞桜といいます。仲良くしてくれ」
早速スマホを出して、連絡先を交換した。
「俺は五明纏だ」
五明くんのご実家は、私でも知っているようなこの辺りでは有名な神社だった。本人も浄化魔法を最も得意とするそう。
試しに、私の後ろにいるらしい影について聞いてみたが、気の毒そうな顔をされるだけだった。
「悪いものとも一概に言えない。少なくとも、お前にとっては助けになることもあるだろう。……魅入られないよう、気をつけさえすれば」
やっぱり、私の背中には何かしらの怪異がとり憑いているのか。帰ったら塩まいとこう。
「僕の名前は、鷹屋敷氷聖だよ。改めてよろしくね」
転校生さんは、一見するとクールだが、ほわほわした笑顔で挨拶してくれた。ギャップぅううう……。
いかにも好青年な鷹屋敷くんは、氷結魔法が得意とのこと。名は体を表すものなのかもしれない。髪色だって、涼しげな藍色だし。
包帯の理由が気になるが、不用意に踏み込むのはよく無いよね。私も眼帯で片目を隠さないとまともに物が見えないから、私と同じ理由かな。伝わる魔力も強いし。
何の気なしに魔力を込めた目で見て絶句する。不用意な発言をしなくて良かった。
両校戦までは日がない。なにせ開催日程は県の高総体との兼ね合いで、5月の終わりである。放課後はもちろん、お互い授業のない時間をすり合わせて明日から練習することになった。
生徒会室を出れば、外はすっかり真っ赤な夕焼けに染まっていた。そんなに長くいた気はしなかったんだけどな。親交を深めようと、3人でおしゃべりしていたからか。
帰る方向が違うために、2人とは生徒玄関の前で別れた。金蘭名物の、翼を広げたペリカン像の前に置かれたベンチに座る。
眼帯を外し、茜色した空へと目線を向ける。情報の洪水も、私には慣れた光景だ。目を一度ギュッとつぶってから再び開けば、すぐに慣れる。
「自分が見ていて嫌だからって……救えるかも分からないのに、手を伸ばすのは傲慢だろうか」
こぼれた本音はペリカンしか聞いていない。答えを求めるように、目の前に広がる文字列に手を伸ばした。
鷹屋敷くんの包帯の下には、私と違って目がない。彼はよくない神に呪われてしまっている。あの包帯は、これ以上呪いが全身に広がらないよう、封印の役目も果たしている。
中二病仲間だ、わーい! とか言ってる場合じゃなかったよ。呪われた上に片目を失うなんて、向こうの事情がシリアス過ぎる。
片目だけでも、やろうと思えば私はそれなりに情報を拾える。鷹屋敷くんと話をしていた時、顔に出てなかったよね。大丈夫だよね。
彼が転校してきた理由は、やはりあの呪いを何とかするためなんだろうな。春海先生という、こちらも呪いで埴輪に姿を変えられた人がいるし。
せっかくチームメイトになったし。出来ることなら、私の精神衛生上のためにも何とかしたいよね。埴輪は可愛いからまだ良いけど、グロは苦手なんだ。
両目を使って、先ほど得た鷹屋敷くんの呪いの情報を解析する。
とはいえ、呪いの専門家でもない一般的な高校生が出来ることはない。徒に希望を持たせるのは残酷だ。足長おじさん的に、こっそり支援するのが吉か? 棚ぼた的に何か上手くいくかもしれないし。
明日からの方針を決めて、眼帯を着けなおす。情報処理の量の多さに、そろそろ頭痛がしてきたからな。全く難儀な体である。
さーて、今日の夕ごはんは何かな。お腹空いちゃったよ。立ち上がろうとしたところで、声をかけられた。
「また会えたね」
あの日と同じ、血のように赤く染まった夕焼けを背に、その少女は立っていた。
だが、あの日と違いセーラー服ではなく、金蘭指定のブレザーだ。
「そうですね。まさか同じ学校になるなんて」
「私は日月愛よ。貴方のお名前は何?」
「八剣舞桜です」
「そう、八剣くん。これから仲良くしましょうね」
ニコリと微笑む顔は、艶やかに咲き誇る牡丹の花のように美しい。
だが、私にはそれがひどく恐ろしく見えて、背中に冷や汗が伝った。




