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「さて、それじゃ部活を始めましょうか」
意識を取り戻した天羽先輩が、何事もなかったかのように活動の開始を宣言する。
「八剣くんは、何か夏の大会に向けて調べたいテーマとか決めた?」
「すみません。図書館とかいろいろ行って郷土の資料を調べたりしたんですが、コレといったテーマが思いつかなかったんですよね。今年は先輩たちの研究を手伝おうと思います」
「まぁ、最初は何調べたらいいかよくわからないよね。夏とはいえ、なんだかんだしてたらすぐ締め切りがくるし、その方が良いかもね」
拍子抜けするほど、あっさりと認められてしまった。良かった。足手まといにならないよう、お手伝い頑張るぞ!
「それに生徒会が言ってたけど、今年は新たに両校戦なんてイベントが出来ちゃったから、選手に選ばれたら練習でどうせ今月中は活動ムリだろうしね。あー、弱小文化部の辛いところよ!」
「あ、部長。俺は何故か選手登録されていたんで、明日からしばらく部活には来ません」
「やっぱりね! 2年の学年首席である東雲くんが選ばれなかったら、誰が選ばれるのって話だよ!」
舐めていたわけではないが、2年の学年トップだなんて東雲先輩ってすごいんだな。確かに豊富な魔力を感じるけど。
「他人事みたいな顔してる八剣も、たぶん生徒会からお声がかかると思うよ。君は学年次席だから」
「え、私次席なんですか!?」
初耳だ。確かに魔法は得意だが、こと勉強に関してはそこまでじゃないんだけど。いや、ここは魔法学校だから、魔法の実力が全てか。
それにしたって、次席にふさわしいのは千波とか他にいるだろう。
「え、八剣くんもなの!? うちの部に優秀な人材が入ってくれるのは嬉しいけど、こりゃ5月は実質活動休止状態ね。試合の応援には行くから、頑張って!」
「いや、そもそも両校戦って何なんですか?」
「ま、後で生徒会から説明があるとは思うが、とりあえず概要だけな」
そう言って春海先生が説明してくれた内容をまとめると、こうなる。
魔力を持つ人間は希少なため、各都道府県に一校あれば良いほうな魔術科高校。しかし、何故か我が長崎県には、二校存在する。
普通関東とかの方が人口多いんだから、そっちに造った方が良い気がするが。魔術との親和性は、こちらの土地の方が高いのかな。
せっかく同じ県内に貴重な魔法学校があるのに、今まで高校同士で交流がなかったのはもったいないと、現生徒会が企画したのが両校戦だ。
内容は急きょ決まったのもあり、6月にある高総体の魔法競技に内容は準じているらしく、いはゆる練習試合といった立ち位置のようだ。
「それなら、私は運動部ではないのですが、選ばれますかね?」
「その魔法競技の部活があれば、当然その部に所属する選手が出場するでしょうけど。うちの高校には、両校戦で行われる全部の競技の部が、あるわけじゃないのよね。だから、確実に助っ人として駆り出されるわ」
あれだけの数の部活のルツボになっているのに、ちょっと意外だ。
待てよ。そう言えば、魔法使いは研究者タイプのインドア派が多いから、スポーツをする人あまりいないって聞くな。
魔術科高校は普通科高校とは違って、運動部より文化部の数の方が多い傾向にあるらしい。かく言う私も、運動はあまり好きではない。健康維持のためだけに、仕方なく体育を履修してる状況だ。
「互いの学校のプライドをかけた戦いだからな。少しでも勝てる可能性が高い選手を出場させるのが、定石だろう」
「首席や次席、生徒会役員に選ばれるレベルの優等生なら、勝てる可能性は高いよね〜」
確かに魔法競技では運動神経とか関係なく、魔法オンリーで戦う競技も多いと聞く。普段が運動部所属か文化部所属とかは関係ないか。
「はじめまして。君が八剣舞桜くんだね」
翌日、私はさっそく上級生らしい男子生徒に声をかけられた。いかにも真面目そうなメガネ男子だ。
「僕はこの学校の生徒会長をしている、3年の宇緑という。よろしく頼む」
ひぇー、生徒会長だって。生徒会長、と聞いて人々が思い浮かべる容姿そのものだよ。こんな生徒会長顔の人って存在するんだ。宇緑会長は、きっと生徒会長になる星の下に生まれたお人なんだなぁ。
「……君、何か変なことを考えてないか?」
「……滅相もありません」
鋭いな。もしかしたら、精神干渉系の魔法の使い手かもしれない。
「まぁ、いい。実は、八剣くんに折り入って頼みたいことがあるんだ」
宇緑会長はそう言うと、私を両校戦のメンバーに勧誘してきた。昨日の今日でさっそくか。用件を予想していなかったわけじゃないから、私は落ち着いて答える。
「せっかくのお誘いですが、私はまだ高校に入学したばかりで、魔法の腕は先輩がたと比べて未熟です。いささか荷が勝ち過ぎるかと思われます」
「それならば安心していい。僕が君を誘うのは、1年生のみに参加が許される新人戦の部だ」
あ、そういう部門もあるんだ。それなら確かに学年次席である私に声がかかっても、おかしくはないのか。同じ1年生なら、まだ経験値的に私でも出来るかもしれない。
「……ちなみに、どんな競技があるのですか?」
「新人戦は全部で3競技だ。出来る限り出場する種目の希望には添おうと思う」
会長が競技の説明が書かれたプリントを見せてくれたので、有り難く受けとる。
「クロスカントリーか」
面白そうな競技に、ふと目が止まる。ただトラックの中を走るよりも、野山を駆け回る方が楽しそうだ。それに、個人競技の方がチームメンバーに迷惑をかけないか考えなくてすむ分、いくらか気が楽だ。
「興味があるのか?」
宇緑会長に尋ねられたので、頷いておく。会長からも競技の説明があったが、大方予想通りの内容だった。
競技は森の中で行われ、コース内に設置された障害物を魔法を使ってクリアし、ゴールまでのタイムを競うものだ。
運動会でおなじみの障害物競争も混じっていないか? コース内では、魔法による攻撃もあるらしい。痛いのはヤダな。体の周りに結界をあらかじめ展開しておくのはアリなのだろうか?
「クロスカントリーに選手登録しておいていいか?」
「はい、お願いします」
念の為と、第2希望と第3希望も聞かれたが、おそらく私の出場種目はクロスカントリーになりそうだと言う。
宇緑会長曰く、クロスカントリーに興味を示した生徒は今のところ私だけらしい。
え? これ、不人気競技なの?
学校の空気が、なんとなくソワソワして落ち着かない気がする。妙に浮き足立っていないか?
夏休みはまだ先だし。
最初は両校戦に関することかと思ったのだが。
情報通の千波が、お昼の席で教えてくれた。
「転入生が来たそうだ」
「え、うちに? 珍しい」
魔法を教えられる学校はかなり少ない。だから、魔法学校には初等部から普通に寮も完備されている。
そして、本人の魔法適正によっては、この学校のこの先生に指導を受けた方が良い、ということもザラにある。
そのため、両親の仕事の都合で転校してきました、なんてことはほとんど都市伝説的な事例である。
よほど前の学校が合わなかったか。金蘭の魔法カリキュラムの方が、本人の資質を伸ばすことに適していたのか。
「しかも、2人。1年と2年にそれぞれ1人ずつ」
「へぇ、どっからだろう」
「島根と三重だってさ」
「それは遠いところからよく来たね」
私も人並みに好奇心はある。件の転入生がどんな子なのか気になる。
キョロキョロと目線を食堂内に向けていると、千波が小声で教えてくれた。
「名前は知らんが、顔ならほら。お前の後ろ。あの観葉植物の側のテーブルにいる包帯した男子。アレが1年の子」
振り返って見れば、いかにも良家の御子息といった雰囲気の男子が、綺麗な所作でサバの味噌煮定食を食べていた。
珍しい、美しい藍色の髪は目を引くが、それよりも私の目を奪ったのは、顔の右半分を覆う包帯だ。
眼帯で右目を隠している身としては、妙に親近感がわく。
ヤッター、金蘭魔術高校の厨二病枠が私だけじゃなくなったぞ!! 仲間がいれば、怖くない!
「あと、あの席の反対側。プリン食べてる子が今度2年に入った子」
今度は女生徒だ。癖のある黒髪のショートヘア。
あの日すれ違った、赤いスカーフのセーラー服の少女の姿が脳裏に過る。
まさか、こんなにすぐ再会するとはね。




