12.迎撃作戦
「父上、説明お願いします」
「ああ、承った。
さて、俺は物見からドナティエール城の瓦礫を片付けていることを聞いて、これは見つかる、と思った。
ただ、ちょうどガリエルの三代皇王が病で寝付いておったので、この話は皇都までは行かぬと読んだ。軍が情報を秘蔵するだろうと思うたのよ、六部族制が尾を引いておるからの、あの国は。次の皇王が決まるまで時間がかかる、そして決まって後に、部族の優位を狙って、部族から差し出す皇妃の嫁入り道具のひとつにするだろうとな」
「いかにもありそうですねえ、おそらくその通りになったのでしょう」
カンデラ公が相変わらずの柔らかい口調で相槌を打つ。
「俺とカンデラ公は、ウイレムとも相談して一時的にトンネルの途中に崩れたような跡を作ってごまかしておくことにした。
ただ、そのままにはできぬ」
エイプリルが説明を続けた。
「姉上とウイレム、わたくしの3人で、さんざん図上戦をやってみましたが、ゴッチ砦を抜かれては圧倒的に不利になります。
ゴッチは少し高いところにありますし、大山脈を抜ける山道でロズウェル上流に出られます。
ラフィエールとハスマンまで街道が整備されています。ラフィエールは持ちこたえても、ハスマンが落ちれば包囲されます」
「ですので、トンネルに違う出口をつけることにいたしました。
トンネルはドナティエール城からゴッチまで、まっすぐ届いています。相当な長さなので、途中にいくつか通路を中にしてドーム状の小部屋が造られていて、斜めに空気穴が開けてありました。
トンネルの幅もかなりあって、ここから避難した領民は想像していたよりもかなり多かったように思いました。避難する時間は十分あったようです」
ここでカンデラ公が話を引き取った。
「それで、トンネルを掘ることになったんだけどね、使い手が揃わなくてね。
ローズはエクスプロージョンの使い手でしょ、だから、あと4人だね。
実は、わたしは保存が使えるんだよ、血筋だね、めったに用はないけどねえ、今回ばかりはありがたいと思ったよ。
強化と圧縮は、使い手が多い。ただ威力がね。魔力量の多いコーエンに素質があって、圧縮の伝授を受けた。強化はメリー王女が伝授を受けた。メリーも必死だったよ。
最後の集束がいなかったんだ。どうしても見つからなくてね」
ローズが続けた。
「集束がないと、エクスプロージョンは拡散したままで、トンネルを掘ることには使えません。マリステラ妃は同行していた侍女だけでは揃えることができず、騎士の中からも探しただろうと思って、手を尽しましたが見つかりませんでした」
「そうなんだよ、その血筋は絶えたと諦め、ベニステラ公王に尋ねてみた」
「ええ、それで、カエリステスの古い血筋に伝わっていることがわかったのです。
これもめったに使わない魔法ですので、もう儀式のように伝わっているだけで、使い道もよくわからないまま伝授だけ忠実に行われていたのですね」
ここで話し手はジャルダンに戻った。
「カエリステスから使い手の老婦人が伝授した孫娘を連れて来てくださった。俺たちは本当に感謝したよ、よく伝えてくださったとね。
ウイレムが大喜びして魔法陣を描いて、ご婦人ふたりには長く滞在していただき、たくさんの魔晶石に魔力を込めてもらった。いまでは魔法陣がわかっていて、魔力の種類も記録されているから、使い手は新たに見出されることもあるだろう。
それで、ここからが作戦実施になるんだ、姉上?」
「まず、ゴッチ寄りの場所に、ひときわ大きな広間を作りました。
わたくしがエクスプロージョンを上に向けて撃ち、強化、保存、圧縮で補助してもらいました。すぐにウイレムがディフェンス、ジュニアとエイプリルが補助してドームを展開しました。」
「なかなか繊細な作業だったよ、大きすぎるのが一番怖いからねぇ。
ドーム展開が遅れれば、使い手全員どうなるかわからないし。
力加減とタイミングを合わせるのに1カ月ほどかかったよね、ローズ」
「ええ、マイ・グレース」
「おまけにゴッチにも旧ドナティエール城にも風圧が届かないようにしなくちゃならなくてね」
「そうです、先にトンネルを貫通させ、空気穴も通して爆風の逃がし口を作りましたが、どうも十分でないようで、不安でした。
ゴッチ方向とガリエル方向のトンネルには、魔晶具でウォールを三重に発動させて守りました。
新しいトンネルの出口は、ゴッチの南東、平原の高さまで下った先です。下りにしておけば、ごまかしやすい、だれも本当のトンネルを探してみようとしないだろうということになったのです」
ジャルダンが引き継ぐ。
「新しいトンネルの出口は10mほど埋め戻して、表面は石垣にしてあります。ガリエルの間諜が出口を見つけやすいように、偽装を掛けず石垣は剥き出しです。
我々は、ここで出てくるガリエルを順次迎え撃つ作戦を立てました」
「トンネルから出てくるのだから、一度に多くを相手にしなくて済むということか」
「そのつもりだったのですが、エイプリルとウイレムはガリエルもそれほど甘くないと」
「陣形を整える時間が必要ですもの、ひとりの兵がどんなに強くても複数で囲まれれば切り抜けられません」
「先頭はフルプレートメールにタワーシールドを構えた重装歩兵で、押し出して陣を作り、その後から重装騎兵、最後に攻撃特化の軽装騎兵ではないかと。
次々に送り込まれる騎兵のためにトンネルの出口を護るでしょう」
「ガリエルは、トンネル出口に陣を張る時間を稼ぎたい。
だから、まず、山越えで歩兵を下ろして、フィエール兵を応戦に集中させるでしょう。
夜間にトンネルから密かに重装兵を出し、陣を作る。そして、軽装騎兵の数が揃い次第、応戦しているわが軍に横から掛り、一気に潰す、これが作戦だと思います。
おそらくそのあとも、陣に騎兵を溜めて、数が揃ったところで出すということを続けて、相当数をフィエールに入れる予定にしているでしょう」
「では、軍を分けますか?」
「いえ、むしろ、これでいいです。姫隊がゴッチから広間に入ります。
お任せください、広間で重装兵と軽騎兵を分断します」
「エイプリル、それはちょっと」
「公爵夫人」
「お命にかかわりますゆえ」
「多分大丈夫よ、ね、エル?」
「マイ・レイディ、問題ありません」
「非情の作戦ですけれども、ガリエル側から広間までの空気穴の半数を塞いでしまいました。内側から結界と目くらましを掛け、念のために山にある空気穴の出口を探して結界でふさぎ、岩を積んでおきました。広間から出口までの新しいトンネルには、そもそも空気穴を作っていません」
聞いている会議参加者には、思わず喉に手を当てる者がいた。
「トンネルの出口を開くまで空気が十分にありません。今頃はもう、石垣の手前までは土砂を片付け、石垣に隙間を作って空気の出入り口にしているでしょうが、広間まで空気穴はないので足りないでしょう。
ガリエルにはブローの使い手はいないはずです。出口を開いた後も多くの兵を短時間に送り込めば、それだけで窒息して全滅します。トンネルを使っての騎兵移動はガリエルが思っているより時間がかかります。
松明は使えません。間諜からの情報によれば、魔晶石に生活魔法ライトを込めて、あかりを確保するとのことです。トンネル内での攻撃は予想していないから、騎兵はおそらく手袋を外して魔晶石を握っているでしょう。攻撃した時片手が塞がっている可能性は高いです」
「広間を制圧して、重装兵をフィエール側に分断します。
その後ろは、防御が薄い軽装騎兵のはず。広間で迎え撃つもよし、集束と強化を掛けたエクスプロージョンを撃ち込むもよしかと」
騎兵が進んでくるトンネルに集束されたエクスプロージョンを撃ち込む。想像してしまったマリエの背中に寒気が走った。
最後をジャルダンが締めくくった。
「緒戦を凌げば、増援が来ます。すでにカリス侯爵軍がジガから上道を使ってケッパー砦に向かっています。
キューガン伯爵家からの援軍はリバーアン砦からゴッチに向かっています。
王国軍は、メリー王女殿下とケリー公が指揮を執って進軍中です。半数は陸路でジガ経由、残りは船でリバーアン経由、ともにラフィエールに入ります」




