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11.ラフィエール会議

 

「師匠、わたくしラフィエールに帰ります。あとはお任せします」

「ああ、いいよ、ここは任せなさい」


 マナウス砦は順調に後衛隊の数を減らしている。

 もともと攻城戦をするための兵揃えではないから砦を攻め落として糧食を得るには兵も武器も足りない。輜重隊と切り離され、工兵を失い、本隊とは連絡が取れない。後衛隊指揮官は落馬で骨折、発熱の中で指揮を執っている。降伏まであまり時間はかからないだろう。

 サリアとホッジスから来た連絡によると、本隊はホーシュビーにたどり着き、ホッジス城を見下ろす山中に陣を張ったとのことだ。

 この先、糧食に苦しむだろう。山中で狩りと採集ができるだけの時間はもつとしても、何しろ人数が多い。すぐに餓えに直面する。見習いから順に逃亡するようになり、逃亡を見とがめて兵を斬る上官が出れば、上官を拘束して集団での降伏が続出するだろう。餓死するか逃亡して殺されるか。どちらにしろ死ぬなら、むしろ降伏して生き延びたい。そういうものだ。

 指揮官がどのあたりで自軍の運命を見通すか、それが死者の数を決める。



 エイプリルは、マナウス砦を出て、ラフィエールに向かう。

 付き従うのは、エルとキャメロン、アニーを抱きかかえて馬に乗せるラドクリフ。

 ラドクリフは玉砕覚悟でアニーにプロポーズして、歓喜の勝利を得た。いまだに理由がわからないのだが、幸せなのでいいと思っている。

 姫隊としては、ラドクリフがアニーの輸送を担当してくれるので、動きが早くなった。夫に背を預けて高い場所から速く過ぎていく景色を見ながら、アニーも結構幸せそうにしていた。


 マナウス砦からサウスハイランド道を通ってサリア城に、サリア街道を走ってラフィエール城へと、5人は無事に旅程を終えた。エイプリルの愛馬は、3代目となったが2頭とも初代に従って濃いグレイの馬が献上され、名もハイランドリリーを受け継いでいる。

 5人が騎馬門から厩舎に回ると、ペイジが城に走り込んで帰還を告げた。


 厩舎までミリアムが迎えに出て、礼儀にウルサイ筆頭侍女が来たことで高まる緊張をものともせず、にこやかにエイプリルに付き添った。

「カンディステラ公、お帰りをお待ちしておりました」

 エイプリルは、一代女公爵、カンディステラ公爵称号を受けている。フィリップスがセルタス公爵を受け、臣籍降下した時、本来公爵夫人になるはずだったエイプリルも同時に叙爵された。王家の配慮、むしろ、お詫びか慰謝料というところだろうか。公爵位には、カンデラ公が一時的に管理していた魔晶石鉱山周辺の飛び地の管理権が付属していた。

「マール公爵夫人、出迎えありがとう」

 全く、こんなところで公爵と公爵夫人の挨拶を聞いていなくちゃならないなんて、と、厩舎側は全員直立して見送っていた。そもそも、王都でもめったに見られないような高位貴族の組み合わせだ、厩ではないところでやってもらいたかった。


 ミリアムの手配で、入浴、着替え、休憩と続き、ラフィエールの主要メンバーがそろってハイティーとなった。

「エイプリル、説明を」

 いまや、エイプリルを名で呼べる人はごく限定されている。これは兄ジャルダン。フィエール侯爵家を継ぎ、ラフィエール城の主、お館さまと呼ばれる地位に就いた。妹の身分が上だが、非公式の場では名を呼ぶことも許される。

「ええ、兄上。

 山中で工兵は全滅、輜重隊はセルタス公が占領を終えたミッテルへ帰還しました。通路はただいま通行不能です。

 マナウスで2300を足止めしておりますが、糧食がありませんので降伏は間もなくでしょう。

 ホッジスまで行ったのは4700です。山中に陣を張ったとのことですが、こちらも糧食は残りわずか、持ちこたえられるのは10日ほどでしょう、そのあとは降伏が続出するものと思われます」


 出席一同から、ため息が漏れた。工兵を巻き込んで地滑りを起こすことは聞いていた。前衛と後衛を引き離して、ホッジスとマナウスで別個に撃破の予定も聞いていた。だが、騎兵から馬を奪って士気を落とし、糧食不足に陥らせて、せっせと食事の匂いを送り込んで降伏を誘うとは、まったく鬼畜な作戦だ。こういう羽目には陥りたくない、とくに指揮官にはなりたくなかった。


「あとは師匠と、ジュニアが引き受けてくれました。

 こちらに集中してよいとの仰せです」

「わかった、ご苦労だったね。エルも、よくやってくれた、配下をねぎらってやれよ」

「ありがたき仰せにございます」

「エイプリル?」

「はい、論功は行いませんが、エルが各人の好みを掌握しておりますので、ゴッチに出る前にひとりずつに手渡しいたします」

「うん、そうしなさいね、優秀な間諜は育てるにも時間がかかる、エルにも十分報いてね」

「はい」


「さて、みんな、この後のことを話そう」

 ジャルダンは集まったメンバーを見渡した。

 エイプリル、コーエン、エル、これがエイプリルのチーム。

 ジャルダン、マリエ、ミリアム、これがラフィエールのチーム。

 先代侯爵とメリーアン、ジガ城から来た。

 カンデラ公とローズ、このふたりは王都から王家を代表して来た。


「エイプリルとウイレムは、ホーシュビー方面は囮、本命は旧ドナティエール城からマリステラ妃が貫いたトンネルだと読んだ。ここからフィエール領に侵入、ラフィエールを押さえているうちに、山越えで兵を送り込み、ホーシュビー方面に展開。囮が持ちこたえているうちにサリアを抜いてホッジスを落とす。

 そこから北に上がって、ゴッチ、ラフィエール、ジガラインを確保したら、魔晶石鉱山とロズウェル河を狙って長期戦に持ち込む。こういうプランだろう、ということだった」


「みんな知っている通り、トンネルの出口はゴッチ砦だ。というより、出口を一時的に埋めて偽装を掛けているだけでは安心できないから、出口の上にゴッチ砦を建てた。

 トンネルはまだ旧ドナティエール城まで続いている。全く凄い使い手だったんだね、マリステラ妃は」

「兄上、ペネトレーションは、ひとりでは使えません。エクスプロージョンの使い手のほかに、集束、強化、圧縮、保存、4人の高位魔法使いの補助が必要です」

「そうらしいね、恐ろしいほどだよ」


「この魔法が、めったに使い手が集まらない高位複合魔法だということが災いして、このトンネルを潰すことができなかった。一時的、部分的に埋め戻すことしかできなかったんだ。

 だから、トンネルは今もある。そして、旧ドナティエール城の瓦礫を片付けて、砦を作ろうとすればトンネルの入り口が掘り出されてしまうんだ」

「ガリエル軍は狂喜したでしょうねぇ」

「まあ、そういうことだね」


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