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21.余波

 場がざわざわする中、いきなり王族用の扉が開いてメリー王女が駆け込んできた。後ろからケリー公が心配げについてくる。

「フィリップス」

 王女は息も荒く弟の前に立ちふさがった。

「姉上、どうしてここに?」

「どうしてではありません。侍従が真っ青になってわたくしの部屋に駆け込んできましたよ。あなた、婚約破棄してるのですか」

「その通りです」

「王陛下の承認を得てのことでしょうね」

「いえ、まず本人に告知しています」

「はあ、何を言っているのですか。これは王家と元老院が総意でフィエール侯爵家に願い成立した婚約ですよ。しかもあなたを守るためです」


「それが嫌なのです。臣下に借りを返すなど」

「はぁ?あなた、臣下なら借りを返さなくていいというのですか」

「臣下が主に仕えるのは当然でしょう」

「誰から吹き込まれました。それは王家の意見ではありません」

「いえ、別に、わたしの考えです」

「あなたの考えなど誰も気にしておりません。

 エイプリルは、王家の全員が認める王族にふさわしい姫です」

「姉上、結婚するのはわたしです」

「それがどうしました。

 そもそも、その女は誰。なぜあなたと部下の傍にいるの」

「ロシュフェール男爵令嬢です」

「だから誰?」

「ですから」

「ですからではありません。名前などどうでもよろしい。

 あなたがやるべきことは、卒業記念パーティーのファーストダンスを婚約者とともに滞りなく踊り切ることです。いますぐその女を追い払いなさい」


「あの、メリー殿下?」

「エイプリル、ごめんなさい、この馬鹿弟、何だったら殴ってよろしいわよ。

 今夜、家族全員でみっちりお説教しますので、この場は収めてね」

「いえ、大変楽しませていただきましたので」

「え?」

「これですわ」

 エイプリルは、魔晶具を「再生」にした。


「そういうところだ、エイプリル・ラ・フィエール。

 おまえはわたしの婚約者であることを笠に着て、このアリエス・ロシュフェールに数々の冷酷な仕打ちをした。話を聞くにつけ、おまえの性格の悪さ、思いやりのない態度。

 王家に入れるには相応しからぬものだ。王子妃としての品格を持ち合わせず、わたし個人としても妻と呼ぶことはできない」

 しんとした小広間に、拡声されたフィリップスの言葉が響く。


 さらに操作した。

「冷酷な仕打ちとの仰せですが、具体的には何を指しておりますのでしょうか」

「アリエスのメイドに故意にぶつかり、大切にしていた茶器を壊した。

 また、熱を出して寝ていたアリエスに届けられた薬を、届けると偽って受け取り、捨てた。

 茶器のカケラと、捨てられていた薬が証拠として提出されている」

「はあ、証拠にございますか、壊れた茶器が」

「自分で割るはずなかろう、母君が大切にしておられたもので、形見のようなものだと言って泣いていた」

 その時まで何が起こっているかよくわからなかった壁際に立つ者にまで、声ははっきりと届いた。


「確かに殿下の仰せの通り、わたくしには王子妃としての品格はないように思えます。妻と呼ぶことはできない、王家に入れるには相応しからずとの仰せですので、潔く」

「え?エイプリル、まさか」


 エイプリルの傍から、ミリアムが声をあげた。

 唖然としている広間にミリアムの声が高く響く。

「そうですわね、わたくし、この1年、レイディ・フィエールとともに少なからぬ時間を過ごしてまいりましたが、殿下方とは意見が異なります。

 こうして殿下の婚約が破棄になりました以上、わたくしの未来も変わります。

 この折ですから、わたくしもフレデリックとの婚約を白紙に戻していただくよう父に願い出ます」

「え?ミリアム、まさか」

「何をおっしゃいます。これだけの証人の前で、あなたは何をなさいました。

 証明できもしないし、不自然でしかないのに、大切な薬剤の専門家に罪を着せかねないことを堂々と。それを根拠に婚約破棄ですって?

 わたくしだって、いつあなたから不明瞭な理由で婚約破棄されるかわかったものではありません。

 カッサンドラ家としても、危険を冒すことはできません。公爵はご理解くださると思います」

「ミリアム、俺はそんなつもりは」

「でも、それがあなたのなさったことよ、フレデリック」

「ミリアム」


「それではわたくしも」

「え?まさか」

 アレクサンドラは、艶やかに微笑んで婚約破棄に同調することを告げた。

「オーギュストさま、せっかく卒業間際に調った婚約ではありますが、そもそもこの婚約は、エイプリルさまと殿下との結婚を前提として結ばれたもの。

 殿下から破棄があり、同僚となるはずだったレイディ・カッサンドラもこのように仰せです。

 この状態で、わたくしだけ今のままというわけにはまいりませんわ、おわかりいただけますよね」



 小広間は騒然とし始めていた。

 場を収めるべき王家の姉弟は睨み合ったまま。

 次席のマール公子は縋り付くような目をしてミリアム向き合っている。


 人の目がそれた隙に、エイプリルはそっと扉の傍まで退出し、マリエを探した。

 マリエは、厳しい顔をしてエイプリルの背を叩き、脇の小扉からそっとふたりで廊下に出た。扉の外にはとっくに抜け出したエルとソリーが待っていた。


 この時間、この姿で王宮から退出するのは難しい。

 4人は竜騎士団別働隊舎へ向かい、そこで待ち受けていた護衛騎士たちから着替えを受け取って女性騎士に姿を改めると、乗馬して静かにフィエール邸に入った。


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