「新庄さんが北に行ったので、東西のどちらかですねー。東にしましょうか」
加倉井は万能タイプのギフト能力を選んでいる。
ジョブというプリセットを選び、いくつかのアビリティをセットして、常人ならざる力を得るのだ。
新庄のように戦闘能力を捨てて生産特化にせず、ジョブとアビリティの組み合わせを変える必要があるけれど、大概の事はこなせるようになっている。
そして、仲間にもその恩恵を与えることができて、仲間を増やし育てることで真価を発揮するのだ。
ジョブとアビリティはそのほとんどが戦闘に関わるものだが、タクティカルシミュレーションRPGをベースにしているので、その辺りは仕方の無いことだろう。
そんな加倉井のあとを付ける荻たちは一芸特化。
戦闘メインでも攻撃、防御、遊撃、索敵、移動、運搬と、役割分担がはっきりしている。
万能タイプの加倉井では敵うはずもなく、索敵性能に大きな開きがあった。
加倉井たちがどれだけ警戒していても、ギフトの能力差は、その程度ではどうしようもない。
そして加倉井たちは今のところ問題が起きたことが無いため、少し油断もしていた。
そうやって荻たちをオアシスまで案内してしまう。
「加倉井さん、次はどこに行きます?」
「新庄さんが北に行ったので、東西のどちらかですねー。東にしましょうか」
「はーい」
彼女たちが町に行ったのは休暇だったからで、それが終わればお仕事の、モンスター退治が待っている。
彼女たちの戦闘能力は、この世界の一般から見ればかなり上の方で、戦闘には余裕がある。このあと戦うとわかっていても、重苦しい雰囲気ではない。むしろ、軽い。
明日からのモンスター退治も、ただの作業なのだ。命のやり取りをする雰囲気にはならなかった。
「今度は前より頑張って、お小遣いを増やしてもらわないといけないのです。
みんな、頑張って稼ぐのですよ!」
「「「はい!!」」」
休暇で散財した少女たちは、物欲を満たすために気合いを入れるのだった。
「ありゃ、ヤバい」
「これ以上は危険だな。近寄らない方がいい」
加倉井を付けていった荻たちだが、彼らは地下道を通らず、地上の砂漠をそのまま移動した。
彼らの仲間には移動を補助するギフト能力持ちがいて、砂漠だろうと苦にしなかったからだ。
それに地下を通れば高い確率で察知される恐れがあるし、逃げ場がなく、罠が仕掛けられているかもしれないので、彼らに地下を通るという選択肢はなかった。
そうしてオアシスにたどり着いたわけだが、オアシスの南には門があり、番人たるゴーレムがいる。
どう考えても面倒くさい敵であり、そもそも戦いに来たわけではない彼らは挑もうと思わなかった。
「手紙だけ出すか」
「矢文とは、また古風だよな」
「風魔法、補助を頼む」
「あいよー」
荻たちはゴーレムと戦うことを避け、転移者仲間として話がしたいと書いた紙を、矢に括り付けてオアシスに届けるのだった。
「手紙に気が付かない、無視される可能性はどれぐらいだと思う?」
「八割がた、気にもされないだろう。やらないよりはマシ、そんなところだな」




