「矢に、手紙? ……何が書いてあるか分からないな」
ゴーレムを見た荻たちは、結局一度も戦う事無く、気休めの矢文だけ残して撤退した。
「倒せない事も無いけど、あれ一体だけとは誰も言ってないしなぁ」
「そうそう。延々と出てきたらシャレにならん」
「硬そうだったからなー。鉄か何かの塊なんて殴りたくもない」
彼らはギフト能力により高い戦闘能力を持ってはいるが、戦う事が楽しいだとか、戦闘狂にはなっていない。
人生にはもっと楽しい事があると、人生を楽しむための道具として、ギフト能力を活用していた。
ギフトはただの都合の良い、金稼ぎに便利な能力。そういった認識が強い。
そんな彼らだから、新庄らの用意した番人と戦いたいとは思っていない。
戦わず、話し合いで欲しい物が手に入ればいいなと、その程度の考えだ。
無理をする気など無く、無駄足となったところで大した問題ではない。この滞在先で少し遊んで、気分転換を終えたらまた北の国に戻ればいいと、その程度の考えだった。
それとは別に。
「なぁ、この辺りって、香辛料の栽培とか盛んなんだろ? だったらさ、カレーっぽい料理とか、あるんじゃね?」
「思い出したんだけどさ、カレーが辛いのって、唐辛子を使っているからだろ。唐辛子はメキシコとか、南米原産だったはずで、インドには無かったんだよな」
「細かい事は言うなよ! ここはインドじゃねーし! 異世界だし!」
「まぁ、あったらいいな」
「そうそう!」
何かあれば嬉しいと、異世界をしっかり楽しむ気でいたのは間違いない。
「矢に、手紙? ……何が書いてあるか分からないな」
荻たちが残していった矢文は、行商に来たクラークが拾った。
書かれていたのは日本語だったため、クラークは何が書いてあるのか分からない。
「一応、新庄さんに見せるべきだろうな」
怪しい手紙らしきものだが、これを届けるべき相手は、新庄だろう。
クラークはオズワルドから「新庄をこちらに引き込め!」と言われているので、新庄の信頼を得るべく、拾った手紙を届けることにした。
「これは……。ええ、ありがとうございます」
うまくいく可能性は2割程度。
荻がその様に考えていた矢文はその2割を掴み取り、無事に新庄の手に渡った。
手紙を読んだ新庄は、同郷の人間が近くに来ている事、一緒に行動するかどうかは横に置き一度話したい事と、可能であれば仲間になって欲しいと書いてあった。
「そちらにも都合があるだろうし、特に無理強いしたいわけでもないので、嫌なら来なくてもいい」と締められた手紙に、新庄は会ってみるかと考える。
加倉井以外の日本人の話には興味があるし、同郷の人間、それも同じ男と話す機会など、次はいつ訪れるか分からない。
リスクを考えれば会わないのが正解かもしれないが、それでも今は、興味が勝った。
それに長い目で見て、有益な取引ができるかもしれない。
新庄には知識チートなどができないけれど、他の誰かなら出来るかもしれないのだ。これから会うのは集団のようなので、誰か一人ぐらい、そういう事をやっているかもしれないと考えた。
クラークは、「きっと同郷のものだろう。あれは異国の言葉に違いない」と、写した手紙を懐に収めながら、手紙を読む新庄を見ていた。
余談ではあるが、リバーシやジェンガなどのゲームは、既にこの世界にある。
そういった娯楽品は他の誰かが広めていたのか、そもそもそういったゲームが発生する何らかの下地があったのか。
新庄ら日本人が広めて儲けようとする商品は、そのほとんどがだれも見向きもしないものばかりである。
定着していない場合は、定着しなかった理由があるだろう。
日本の物なら何でも人気が出るとか、そういう都合の良い展開は無かったのである。




