「ま、今のところ無事なんだし、大丈夫と考えておこう」
新庄は、結の隣でお茶を飲んでいた、
「やっぱり、国が割れたかぁ」
「仕方ありませんよ。良く持った方ではありませんか?」
お茶を飲みながら、町で買ってきた新聞を読む。
そこには、砂漠の国と海の向こうにできた町が戦争状態になったという話が載っていた。
独立運動の勢いは止められなかったようで、ロンは頑張ったようだが、どうにもならなかったようだ。
新庄が再び姿を消して5年になるが、世の中は安定という言葉がまだ望めない様子であった。
「ロケットはあっても、ミサイルではないんだけどね。海の向こうを攻撃するのに、一番有利を取れるのはまだ大砲の様だが、それでも町が壊れてしまうなぁ」
「せっかく、頑張ったのですけどねぇ」
新庄が作った町は、現地の難民を吸収する事で順調に人を増やし、今では王都に匹敵する大都市へと変貌していた。
そうなると力関係が逆転とまではいかないが、拮抗する事も可能になり、迎え撃つのであれば戦争も可能という所まで強くなっている。
農地の面積などを考えると海の向こうの町の方が継戦能力が高く、国の規模を考えると砂漠の国の方が強いので、戦争となると泥沼の展開になる可能性が高かった。
そんな戦争を早期決着に導くには、ロケット砲のような大火力兵器が有効である。
それで町の一角を吹き飛ばしでもすれば、相手はすぐにでも白旗を上げるだろう。
ここは人権という考えに馴染みの無い世界なので、人道的配慮による大量殺戮兵器の自粛や、民間人への攻撃を避けるような配慮はされない。
勝ち目のない戦いで死にたくなければ、国のトップを挿げ替えてでも戦争終結となるだろう。
もっとも、ロケット砲の運搬・発射に耐えられる戦闘艦の配備はまだされていない様であったが。
「それにしても、思念体ドラゴンはいったいどうなったのだろうね?」
砂漠の国の内乱を憂う新庄は、その原因となった思念体ドラゴンがどうなったのだろうかと、思い出すように口にした。
あれから5年程経つが、思念体ドラゴンが現れたという話は一向に聞かない。
アレは貴生川にでも殺されたのだろうかと、そんな事を考えた。
「見に行くのも億劫ですからねぇ」
「荻君たちとも、顔を合わせないようにしているからね。やれやれ、世界が狭くなってしまったよ」
思念体ドラゴンのいた場所は、九重たちのいる町の近くである。
ここからは船で3ヶ月ほどの距離があるため、何かあったとしても、情報が入ってくるまでに時間がかかる。
また、そこで何かあったとしても、民間に情報が広まるかどうかは分からない。
現地に行けば詳しい話も聞けるのだろうが、今の新庄や結は飛空艇に長時間乗るのも体力的に厳しく、行こうという気にならない。
手紙のやり取りも控えているので、今では現地の話を聞く事も出来なくなっていた。
仲の良かった者たちとの接触は危険なので代筆などを頼む事もしていないし、情報収集といえばたまに町の酒場で話を聞くぐらいだ。
新庄のギフト能力は消えているのだが、新庄だけはギフト能力を維持していると考えた者が多すぎるのだ。
ギフト能力が失われている事を証明するのは不可能だ。それは悪魔の証明だからである。
外には、未だに新庄を付け狙う者が大勢いるので、その全員を信用させるのは不可能なのである。
「ま、今のところ無事なんだし、大丈夫と考えておこう」
思念体ドラゴンは潜伏し、力を蓄えているだけかもしれない。
しかし新庄は、そのリスクを飲み込み、何もしない事を選んでいる。
きっと、他の誰かが何とかしてくれるだろう、その為の技術は与えてあると楽観視した。
形はともかく、危険に備えていれば、怯えるような真似をしなくて済む。
たとえそれが、人任せだったとしてもだ。
新庄は、自分以外の人々をそうやって信じていた。
新庄の隣に立つ結も、同様である。
世界は新庄がいなくても、ちゃんと回っていた。




