「よし。貴生川に会ってみるか。会えるかどうかは分からないけど」
結が帰ってきたのは、情報収集に向かってから5日後の夕方であった。
結は九重たちと冒険に出かけた事もあり、話好きな知り合いに捕まるたびに長話をしていたので、それだけ時間がかかってしまったのだ。
その代わり、いくつもの目撃情報を入手していたので、帰り道までは仕事の達成感で満足していた。
その満足感も、新庄が置いていった石碑を読んで吹き飛んでしまったが。
「佑さん!! 見付かったって、どういう事です!? しかも三日前じゃないですか!」
結は、思念体ドラゴンを探すための情報を集めに、町へ向かったのだ。
古い知り合いたちと話をするのも有意義な時間であったが、大本の目的が既に達成されていて、集めた情報が役に立つ前に終わってしまった。
石碑の情報は限定的という事もあり、どういう事かと新庄に詰めかけた。
「こっちも見付けたのは予想外でね。
そのあたりの経緯も含めて話をするから、その後に今後の予定を話し合いたい」
新庄は結の驚きも理解できる。
だから、一から説明すると言い、結を落ち着かせた。
「それで使い魔の核になる素材の確認をするために、まずは正常な人工精霊を作ってみようと思ったんだけど――」
「――だから一度、結と相談しなくちゃいけないと思ったんだよ。
今は動く気配もないから、監視しているだけなんだけど、これからどうしようか」
新庄は夕飯を食べながら、結にこれまでの経緯を説明し、前提条件のブレによる計画見直しを持ちかけた。
討伐難易度が高くなれば、手を引く事も選択肢に入るのである。
「そうだったんですか。
それなら、私の集めた情報も役に立ちそうですね」
話を聞き終えた結は、現状を把握すると、落ち着きを取り戻した。
二号、今は名を与えられ『バーニー』となった使い魔が自我を持っているという事には驚いたが、その驚きは新庄ほどではない。
それよりも、まだ自分の情報に価値がある事に喜んでいた。
「思念体ドラゴンは、移動の時は大きかったみたいです。それで、目撃情報も多数ありました」
結は町で集めた情報をまとめ、共有する。
それによると、思念体ドラゴンはすでに一度、ドラゴンの森に行ったらしい。
そこで何があったかは知らないが、何故か戻ってきて、町から少し離れた場所に居を構えたのだという。
「その棲家が、ちょうどバーニーが調べたあたりなのですね」
結の話から、思念体ドラゴンのおおよその居場所が特定された。
バーニーの持ってきた情報とも一致するので、間違いは無さそうである。
ドラゴンの森から追い返されただろう、思念体ドラゴン。
元が御手洗の鱗なので、その臭いを嗅ぎ取った貴生川が追い返したのだろうと、新庄たちは考えた。
そしてそれが正解である。
現地で何があったかはともかく、それよりも、思念体ドラゴンをどうするのかが問題だった。
「魔力吸収の範囲外から、ロケット弾で砲撃すれば良いと思っていたんだけどね」
「対処された後を考えると、もう少し何か考えないと不味いですよね」
「逃げられるのも嫌だから、そこも考えておかないと駄目だよなぁ」
楽観視していたうちは、どうにでもなると考えていた二人。
しかし情報が出揃い、色々と見えていれば、今のままでは不味いと分かる。
二人だけではなんともならない可能性が高くなっていた。
「九重たちには頼れないんだよな」
「ギフト能力、無くなっちゃいましたからね。お子さんには少し引き継がれていたのですけど、まだ子供でしたし」
九重たちには頼れない。
ギフト能力前提の戦いばかりだった彼らは、ギフト能力が無くなった今、まともに戦えない。
彼らの子供はギフト能力を多少は引き継ぎ、そこそこ才能があるように見えるが、まだ十歳前後と、戦いに連れて行ける年齢ではない。
普通の人を連れて行くのが論外なのは、言うまでもない。
「よし。貴生川に会ってみるか。会えるかどうかは分からないけど」
「思念体ドラゴンと戦うなら、それしかないのですよねぇ……」
安全策、それを意識するなら、増援が欲しい。
そのように考えた新庄は、貴生川を巻き込む事を決める。
結も、気乗りはしないが、それが最善だと諦めた。
頭が良く、危険度が高い思念体ドラゴンを放置するべきではないと、二人の意見が一致していた。
なので、面倒でもここでどうにかするべきだと無理を通す。
「奴が王都で暴れてなきゃ、俺たちもここまではしないんだけどね」
将来的なリスク回避のため、二人は動けるうちに危険に挑むのであった。




