「新庄のオアシスは、小さくとも一つの国である。その外交は、オアシスの者に任せたい」
新庄たちは再び海を越え、砂漠の国に戻ってきた。
「おお、ようやく戻って来てくれたか!!」
報告のために新庄が王城に顔を出すと、かなりやつれ、ギラついた目をしたロンが迎えに出てきた。
何かがあって、大変な事になっている。
国の象徴である“国王”がそうと容易に分かる異常事態に新庄は驚かされる。
「俺がしばらくオアシスを離れている間に、何があった?」
新庄は神罰の影響はあったものの自身の仕事はつつがなく終わった事を告げると、詳細な説明を後回しにして、こちらの状況を聞く事にした。
緊急性を考えれば、自分の事より優先順位が高そうだからである。
それに、あちらでの出来事は国から派遣された担当者が報告書に書いているだろう。わざわざ新庄が報告せねばならない事でもない。
新庄の問いかけに対し、ロンはよくぞ聞いてくれたと破顔する。
「新庄へ仲介して欲しいとの依頼があった。どうやらも何も、我が国が新庄頼みで海の向こうに拠点を作った事が知られたらしいな。
ま、それについては断っておいた。新庄は部下ではないからな。仲介までとは言われても、話を通さず安易に首を縦には振れんと返しておいた」
ロンは最初に、話の枕として簡単な話題を口にした。
新庄に関係ある話だが、これが本題ではないのはロンの顔に出ていた。
「厄介な事に、あちらの王族がやって来た。
偽者ではなく、本物だ。持ち物を改めたが、本物だと証明されてしまった。
まぁ、国を取り戻す手伝いをしてくれと言われたが、これも断った。もう人のいない土地を開拓して自分たちの物にするだけの状態だからな。
国のあった場所に民が残っているなら考えねばならんが、それも残っておらん。気を遣う必要などない。
なのに、『賢者様の助力を願いたい』などと言われたので、叩き出すこととなった」
これも本題ではない。
どうにも、ロンは本題に入るまで長く語りそうである。
語りたい事がどれだけ積み重なっているのかと、新庄は眉をひそめた。
「周辺国家から、風力と水力の発電に関して、研究の協力をしないかと持ちかけられたな。
こちらは有益であるから、共同で人と金と物を出し、進める手筈となっている。
ただ、研究を行う場所は、他全てから我が国を希望されてしまった。要は、新庄に手伝わせろという圧力だな。
新庄は友人であるが、部下でないと何度も言う羽目になったよ」
段々、新庄はロンの言いたい事が分かってきた。
積み重ねなのだ。
本命の出来事は、これらの前置きの果ての、止めなのだろう。
そんな新庄の予想を裏付けるように、ロンは周囲の「新庄にお願いしてくれ」という求めを、ひたすら切り捨てていった話をする。
ロンを相手に「新庄を独占するな」と、勝手な事を言う連中がかなり増えたようだ。
ロンにしてみれば「知るか」の一言で切り捨てたい、そんな陳情、要望、要請、その他諸々。
砂漠の国のために町一つを作った事が知れ渡っただけで、他の国も新庄を利用できると勘違いしたのである。
また、国の内部にも新庄の立場を勘違いする愚か者が出始め、部下の如く新庄を使えばいいと言い出す始末だ。
ロンのストレス、鬱憤は溜まりに溜まっていた。
「神罰発電の件も知られたな。
それで我らにも電気を寄越せと、それも無償で差し出せと、そう言う馬鹿もいたぞ」
「物乞いばかりで頭が痛くなるな」
「……まったくだ」
途中、新庄が相槌を打てば、ロンは「お前が言う事か」という顔をした。
周囲が求める存在そのものである新庄には、それを言われたくなかったようである。
言葉そのものは同意するが、釈然としないのだろう。
「それでも戦争も辞さないという話にならなかったのは良い事なのだがな。
だが、周辺は“独り勝ちは許さん”といった雰囲気だ。外交官たちには苦労を強いておるよ」
ロンは長い長い前置きを終えると、ようやく本題を切り出す。
「我が国は、新庄のオアシスを領土と見ていない。国外であり、支配していないと明言している」
これまで、ロンは友人として新庄を守ってきたが、それもそろそろ限界という事。
『砂漠の賢者』は砂漠の国の英雄的な存在であるが、だからといっていつまでもは庇えないと、それだけの話。
「新庄のオアシスは、小さくとも一つの国である。
その外交は、オアシスの者に任せたい」
たったそれだけの話である。




