「けど、老後はどうやって過ごすんだ? 釣り三昧?」
休日の一日目を終えた新庄。
終わって思い出したのは、ここに来た当初の計画だった。
「そういえば、最初はスローライフみたいな生活をする予定だったんだよな」
新庄の計画では、採掘をして、武器をクラフトして、それを売るだけの生活をしようと考えていた。
あとは食料を購入したり、生活環境を整えながら、のんびりとやるつもりだったのだ。
奇しくも、現状はそんな感じである。
思ったよりも外で人と関わり、彼らのために力を振るってきたので、それが当たり前になっていた。
電車関連事業だけではない。時々、砂漠の緑化や水場の設置をして環境整備をしているが、働きすぎという気がしてきた。
「力がある事と、力を使わなきゃいけない事は違う。
引退も視野にいれて、仕事を減らすべきかもなぁ」
電車は後進の教育もしてきたし、本人らも自立を望んでいる。こちらは発電関連の引き継ぎさえ出来るなら、もう手を離しても良いかもしれない。
緑化はもう少しだけ様子を見て、徐々にペースを落としていくのが良さそうだった。普通は新庄ほど手軽に緑化をできないので、まだ時短のために手を貸した方がいい。
ある程度の基盤ができれば、維持のために努力しなければならないが、広げていくことも現実的な難易度になる。
砂漠の緑化はそれぐらいの難易度なのだ。
「異世界に著作権が無いのは有名だけど、定年も無いからなぁ。
自分の体と相談して決めないとな」
何歳で引退するかは本人任せの異世界就労事情。
だったら日本のように65歳まで働かなくてもいいだろう。
老後の資金はあるので、アーリーリタイアをするのも悪くはない。
「けど、老後はどうやって過ごすんだ? 釣り三昧?」
なんとなくだが、飽きそうな気がした。
すでにあり得ないぐらい魚を釣っている。食べきれない、売るわけでもない魚をこれ以上釣って何になるという思いもある。
「趣味の問題は、本気で考えないと不味いかも?」
引退した自分が、上手く想像できない。
今さらの問題に直面していた事に、新庄は気が付いた。
答えはまだ無い。
見つかる気配も無かった。




